これはぼくにとっては幸せだった。
長い時間じゃないけれど、ぼくは幸せだった。
幸せが嬉しいものだと知った。
幸せは辛いものだと知ることができた。
この素晴らしい時間をぼくは忘れない。
ずっと、わすれないよ。
ただ呆然と毎日を過ごしていた。
七回目の春。
何も変わりない。
僕はいつもと同じように、湖のほとりでぼんやりと世界を見つめていた。
いつも見つめるばかりだから、誰かに見つめてもらえるなんて思いもしなかった。
ずっとそうして過ごしていくんだろうと思っていた。
だから、本当に驚いた。
その子はそこにいた。
湖の反対側の茂みから、僕の世界の中に入ってきた。
人間の形をしたその子は、僕と同じように頭に角がはえていた。
真っ直ぐな目をして、僕をじっと見て、ぼろぼろと涙をこぼしていた。手で拭うこともせず、声も上げず、その子は泣いていた。
大きな瞳が僕の姿を映す。
あの時みたいに、僕の咽喉が焼けるような感覚がする。カラカラに乾いて、こびり付いて、何かが溢れようとする。
僕の目からは涙は出なかった。
ただ、全身が熱かった。
この子は、僕を見てくれる?
「……うれしい」
じっと見つめていると、その子はポツリとそう言った。
何を思ってそんなことを言ったのか、今もわからないけど、その子は泣きながら微笑んでいた。
角がはえている事以外は何も変わらないように見えた。
お母さんと同じ。人間。
でも、その子は角がはえていた。
それは、『鬼の子』と呼ばれた僕と同じものだった。
身動きできずにいる僕に、その子はゆっくりと歩いてきた。
歩いて、僕の前に立った。
今日は風が穏やかだ。木々のざわめきも遠く、その子の声がよく聞こえた。
「……ごめんね」
確かにそう言った。
その子は僕の手を握り、頬に手を当てさせた。
「ありがとう」
そしてそのまま、僕を抱きしめた。
少し苦しかったが、その子の嗚咽が聞こえてくると、僕はもう何も言うことができなかった。
「ごめんなさい」
初めて会った子。
泣きじゃくる角がはえた人間。
なぜ謝っているのか、わからないけど、とても温かかった。
「泣かないで」
そう言って、抱きしめ返すと、いっそうひどく泣き始めた。
お互いの顔は見えない。けど、ちゃんと聞こえている。確かに感じている。
生きている鼓動。誰かの中にいる存在感。
温かい。
苦しい。
だれか、この気持ちを表せる言葉を教えてほしい。
そして、泣き続けるこの子を笑わせる術を教えてほしい。
世界はぼく独りではなかった。
ぼくは知らなかった。
誰かと一緒に生きるということを。
「泣かないで」
もう一度、呟いた。
「ごめんなさい」
その子は謝り続けた。
二人の顔は、さまざまな感情を乗せて、歪んだ笑みを浮かべていた。
不器用すぎる言葉など、役に立たないと思っていた。
伝わらない。
伝えられない。
でも、そうじゃなかった。
相変わらず、不器用だけど、欠片を残せていた。
ほんの小さなものだけど、不満なんかない。
それだけで、いい。
鬼の子-その3-
ついに登場しました。
まだ不明瞭ですが。
相手の子をどうしようかなあと今でも迷っています。
迷いながら書いてます(笑
なので、文章が蛇行しまくってます。
そして、相変わらずわかりにくい…orz
説明してほしい部分などがありましたら、どんどんと送りつけてくださいませ(全部とかは言わないでね!!
善処できたらいたします。
パソコンのデータ消去という事故を乗り越え、まだまだ書くつもりです!!
日本語の難しさを体感しつつ、このすばらしい作品に出会えたことを嬉しく思います。
コメント1
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ご意見・ご感想
痛覚
ご意見・ご感想
露木こまめ様には秘密メールを返信いたしました(笑
応援ありがとうございます!!がんばります!!
逆さ蝶様、こんな拙い文章を読んでくださってありがとうございます!
なんとありがたいお言葉の数々・・・感激です;;
しかもブックマークまで!!
涙で洪水がおこりそうです。
「言葉が出ない」
まさしくそうなんです。
文字書きなのに言葉が出てこないんですよ(違
案外言葉に表せる心の形って少なかったりするんですよ。
微妙に意味が違ったり、語呂が合わなかったり。
考えて、選んで、出てきたのが凡庸な言葉だったりするんです←何の話だよ!!
原作がとても想像できるので、その分好き勝手に書かせていただいているだけなんですorz
本当に日本語って難しい;;
続きはもうすぐ出来るんで、少々お待ちくださいませ。頑張ります!!
2009/01/11 19:24:58