その言葉に彼女はただ涙を流し頷くだけだった
きっと共に生きることは出来ないと思っていた彼女にとって
彼からの言葉は今までの不幸を全て無にするようにも思えた
きっと二人はこれからずっと、ずっと
手が止まってしまった、どれだけ捻り出そうとしても最後がどうしても気に入らず
何度書き直しても進めなくなり、額に手を当て一息ついた
中篇の恋愛ものを書いてみた
もちろん、自分が書きたいわけではない
妹のルカが新しい漫画が書けなくなったから原作が欲しい、と
可愛い妹の頼みとなれば、動かざるおえなかった
けれど、どうしてもどんなに様々な作品を見ても同感できない
人を、男を「恋心」を持った目で見ることが出来ない
けれど物を書くのは好きだ
自分の中で動き、生きている者達を生かす為の私の唯一の方法
小説は私のある意味別の人生とも言える
「メイコ姉さん?」
気づくと顔をのぞかせたルカがそこに立っていた
夕日に目が眩みそうになりながら、影になったルカの顔をじっくりと見た
「どうしたの?」
「どうしたのって、メイコ姉さんがいつになっても来ないから迎えに来たの」
「あー、そういえばもうそんな時間かー」
作品に夢中になりすぎて時間を忘れていたらしい
腕時計を見れば五時半を過ぎていた
五時にルカと約束があったのを思い出し、椅子をひっくり返しながら立ち上がり
急いで書き途中の小説をフロッピーに保存した
「ご、ごめん!」
「大丈夫、実を言うと私たちもさっきまで先生に捕まってて」
照れたように笑うルカはとても可愛い
素直に感情を出してくれる、ルカの一番いい所だと思っている
そして、ルカの照れようなその表情から読み取れる
私たちの言葉に含まれた別の人物がどんな人なのかも、読み取れてしまう
「早く行こう? カイトくん外で待ってるの」
「はいはい」
「良い人だから、メイコ姉さんも気に入るよ!」
そう今日は、私の作品を学園祭で見てファンになったと言うルカの同級生が
どうしても私に会いたいと言うので少しだけ話をすることになった
もちろん、ルカからのお願いなので聴いたまでだ
同じ学校にいるのだから、直接来ればいいのにと言うと
そのカイトなる人物はとても恥ずかしがり屋なのだそうだ
「あっ、メイコ先輩! ばいばーい!」
「んー、まったねー」
同じ物書き部の後輩の挨拶に軽く答えると後輩はそばに居たグループの子達と
騒ぎながらうれしそうにかけていった
「やっぱり、メイコ姉さんって人気だね」
「女の子からね、でもそれでいいのよ、私は」
どうしても女に見られるのが嫌だった、なぜだか分からない
だから私服や態度など何処となく男っぽくなってしまう
ルカと買い物をいって彼氏に間違えられるのも日常茶飯事だ
他愛もない話をしているうちに校門の前までやってきた
とそこには青い髪をした後姿をみた
「カイトくーん」
軽く手を振って駆け出すルカはとても恋する乙女のようで可愛らしい
そして噂のカイトくんの隣に立つ姿は誰がどう見ようと美男美女のカップルだ
華やかな雰囲気に誰もが羨むのだろう、校門の向こうを通る女子高生は
羨ましいと口にする反面、その目は嫉妬に満ちていた
女は嫉妬深いものだと、メイコは知っていた
自分にない物をもつ相手に羨み、しかし心の奥深くでは嫉妬の炎が燃えてる事
自分が劣っている事を認めず、自分より輝かしい何かを持つ者には
何かしらの欠点を見つける、または作り上げて落とそうとする
そういった醜いモノを多く隠しもっている、それがメイコにとっては不快でならなかった
女性のそういった特有の感情性が理解できず嫌悪感に苦しみ
自然と男性っぽさをかもし出して行ったのだった
「あ、は、はじめましてっ! 始音カイトで、す!」
裏返った声で挨拶された、ルカとの会話での表情とは違い
ぼっと火が点いたように顔を真っ赤にして振るえた手を差し出す
「どうも、ルカの姉です」
「え、えっと、その、えっと、ですね、えっと……」
なんと情けない
今まであった男の中で、こんなにおどおどした男は初めてだ
大学に入る前でも女グループに入れなかったメイコは男子生徒と関わる事が多かった
何せ隠し事もなく感情が包み隠さず出てくるから楽だったという理由だ
しかしこの男のおどおどしさにはどこか女々しさを感じ、メイコは苛立ちを覚えた
「その、好きです!」
「………はぁ?」
思わず数秒思考が停止してしまう程の突然の告白に、メイコならずルカもそして
それを口にしたカイトでさえ口を押さえあわあわと手を振り顔を振り顔を赤い絵の具で
塗った様なそんな色になり、へたりと座り込んだ
一瞬ドキリとした感覚に胸を押さえた、首をかしげて座り込んだカイトは飛び上がった
「ちちちちち、ちちち! ちがうです! あのののの、えっと!
作品が! 好きです! はぁ……はぁ、っは
と、とくに夢の中の夢! あれはすごく良い作品でした! は、はい!そうです、う、うん」
落ち着きも取り戻さぬまま、そういい肩で息をしながらカイトは俯いた
腕で顔を拭き、落とすと若干拭いた部分がぬれていた
「は、はぁ、どーも、そんなパニクるほど好きになるほどの作品はないと思うけど」
「そ、そんなことないでしゅ! はっ、ないです!うん
ぼ、ぼくも少し物書きするのですが、あそこまで綺麗な文もストーリー構成も出来なくて……羨ましいです」
ぺらぺらと止め処なく、作品を褒められ少しだけ女々しい目の前の男の高感度があがった
カイトはごそごそとバックに手を突っ込むと震えた手でホチキスでとめたコピー用紙だ
「ぼ、ぼぼくの書いた作品で、です! ぜ、是非見てください! す、すみませんでした!!
押し付けるようにして、それをメイコに渡すと竜巻でも起こしそうな勢いで帰っていく
その後姿をぼけーっと見つめているとルカがつんつんと服のすそを掴んできた
「大丈夫?」
「あ、うん? たぶん」
「あんなカイトくんはじめてみたなぁ、おもしろかったね!」
少しずれた感覚と先ほどまでの嵐のような出来事にどっと疲れを感じ
大きなため息で吐き出してみたが、少しだけ抜けたように感じるだけだった
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