一言で表せば、それは灰色の人生だった。

何も手に入れることができないまま、この生涯を終えるのかもしれない。

そこには悔しさも虚しさも、優しさもありはしないけど

自分の存在意義さえ見つければ

心の空洞を埋めることができるのではないかと

淡い期待を抱いていた


そして暗闇の中で、たった独りで泣いていた


そんな少女のお話。






<<追憶>>






少女は一人だった。

物心ついた頃から、暗い施設に暮らしていた。

自分が生まれたとき、両親に里子に出されたのだそうだ。

血を分けた兄弟がいたらしいが、今頃は両親と仲良く暮らしているだろう。


育ててくれたのは施設の職員。

表面上は笑顔で接してくれていたが、裏では少女を嫌っていたそうだ。

だって、自分に名前もつけてくれなかったから。

所詮は、ただのモルモット。

それを知っていた少女は、自らもまた笑顔の仮面をかぶった。

所詮は赤の他人、そんな人間に本心は暴かれたくない。



やがて少女は、どこかの家に引き取られた。

そこの両親はとても優しく、少女は幸せを掴み取ったかのように思われた。

だがそれもそう長くは続かなかった。

少女はまたしても嫌われてしまった。



少女は誰にともなく問いかけた。

何故自分は嫌われるのだろう、と。

来る日も来る日も問い続けた。

雨の日も嵐の日も、飽きることなく、何度も何度も問い続けた。


全て不思議でしょうがなかった。

自分は何もしてないのに、何故こんなにも恨まれるのだろうと。



月日が経ち、少女は気づいてしまった。

自身の背中に、生まれついての痣があることを。

それは三日月の形をした痣で、少女の白い肌にくっきり浮かび上がっていたのだ。



「単純なことだったんだ…そっかぁ…そうなのかあ……」



少女の声は疲れきっていた。

日中、蔑みや批判といった悪意に晒されれば、誰もがこうなるだろう。

少女はまだ幼かった、だから何をどうすればいいか解らなかった。



ある日、少女は帰り道を歩いていた。

家にいれば怖いことが起こる、だから昼は誰にも見つからない場所で過ごすのだ。

暗いクライ廃工場の、広場のようなスペースで、今日も少女は蹲る。


そこへ、一人の少年が通りかかった。

少年は少女に近づき、明るく優しく話しかけた。

少女が事情を打ち明けると、少年は友達になってくれた。

それは、少女の最初で最後の、とても大切な“トモダチ”だった。



「すてきな人だな…」



誰に向けたわけでもない少女のひとり言に、少年は照れくさそうに頭を掻いた。

実際のところ、少年は、ある意味では少女とよく似ていた。

容姿もどこか似ていて、話もしやすかった。


少年は、少女の痣を見ても、嫌わなかった。

それどころか、少女の味方になってくれた。


二人はとても仲良くなった。

来る日も来る日も、廃工場で遊び続けた。

新しい遊びを生み出したり、おにごっこをしたり。


時には、少年が少女に、いろいろ教えたりした。

少女は教育を受けられなかったので、とても熱心に話を聞いていた。


二人はとても仲良くなった。

町の誰にも見つからない場所で遊び続けた。

日が昇った朝早くから遊ぶこともあった。

日が暮れて「夕焼け小焼け」が流れ出すまで、二人は汗をいっぱいかいて遊んだ。


それはとても幸せな日々だった。

ずっとずっと、こんな日々が続けばいいと思っていた。




でも、その平穏は壊された。

二人が遊んでいることが、周囲に知られてしまった。


二人は引き離された。



「軽蔑しないでよ…あの時だけは、幸せだった…」



幸せ、だったのに。


人々の悪意は暴走し、それらは全て少女に向けられた。

少女の苦しみは、叫びは、誰にも理解されることはなかった。



「手を出してよ…ほら、私に…」



少年には届かない。

繋いでいた手は離れてしまった。



少女は考えた。

なぜ自分はこんな目にあうのか、と。

どうして道化を演じ続けなければならないのか、と。



世間での少女は、はっきりと言えば彼女自身ではなかった。

他人の感情をぶつけられ、言葉と暴力を投げかけられ、人々の玩具となる『私』。

それは私が演じることで作り上げた『役』であり、他人による『イメージ』でしかない。

本当の自分は晒さない。本当の感情も表に出さない。

すべて自分自身の狭い殻の中に抑えることによって、少女は仮面を被るのだ。

なんて馬鹿なことをしているのか。

どうしてこんなことを。

何の意味があって。

自分では、なぜこんなふうに演じているのかわからなくなるときがある。

他人がわからない『本当の私』。

一番よくわかっていないのは、案外彼女自身なのかもしれない。

他人の目にどう映っているかなんて自分にはわからない。

何をどうしているか理解できないまま、今日も少女は道化を演じ続ける。


人々の『使い捨ての道具』という、何の役にも立たない道化を。



本当は感情を晒したい。

でもそうしたところで何になる?

醜い人々に哂われ、捨てられ、今よりずっと酷い目に遭うに違いない。

だって『反逆者』は殺さねばならないのだから。

飼い主に逆らうことのない、従順な犬でいなければならないのだから。

首輪をつけられ、足枷をはめられ、手錠をかけられ…

そうしなければ、植えつけられた恐怖が、また心を刺すのだ。



でももう、それも限界だ。

もう従順なままではいられない。

心が耐えられない。



人々は言っていた、私は怪物なんだって。

近くにいると不幸を呼び起こすんだって。

背中の痣は、その証なんだって。

だから両親に捨てられたんだって。


怪物なら怪物らしくしてやるよ。



悪いのは、嘘つきは誰?

答えは身近にいる悪だ。

さぁ、今からが本番。

最初で最後の舞台を始めよう。

悪は滅ぼさなねばならない。


自分は悪くない。



「ほら、哂ってみなさいよ。返り討ちにするからさ」



少女が笑う。

人々が顔を引きつらせる。


悪魔を退治しに行こう。


聖なる炎で焼き払え。

手にした槍を振りかざせ。

伸ばした手は振り払え。



だって私はさんざん傷つけられたんだ。

全て仕組んだのはあなたでしょ?

そうだとわかってて、私を飼い殺しにしたんでしょ?


なら、自業自得ってやつじゃない?

ほらほら、だからこうなるのよ。



あははははははははっ!

なんて滑稽な話なんだろう!

今更、泣いて喚いたって、許さないんだから!



  ザマアミロ




全テ返セ?

今マデノコト、全部謝ルカラ?





「知らないわよ、そんなこと。今更許しを請うわけ?」




大丈夫、大丈夫

ちゃんと、後悔させてあげるからさ?




わたしだって、まもりたかっただけだよ?

じぶんのこころと、たいせつなともだちを。



それのなにがわるいの?




「今さら、戻ることなんて、できやしない…時間切れよ、ぶっぶー」




うそ。

わたしのつみは、このせかいにいたことだった。




*





その夜、町は消え去った。

人々が迫害して作り上げた少女は、壊れてしまった。

精神が崩壊した少女は、本当の『怪物』となって、

育った町を自らの手で破壊した。


町人たちは死んでしまった。

皆が悪意を抱えていた、だから少女に復讐された。


善意を抱えていた少年は、

ただ一人の生き残りとして、町を歩いていた。



そして寂れた教会の中、

全身傷だらけになって、息絶えた少女が倒れていた。



少女のたった一人のトモダチは、

少女を見つけて悲しんだ。


少年は少女の理解者だった。

だって自分はとてもよく似ていたから。

だって、少女と血が繋がっていることを知っていたから。

そして、少女の魂が救われていないことも知っていた。


名もない少女を抱きかかえ、

少年は、せめて少女が安らかに眠れるように、

自分がつけた、彼女の名を呼んだ。





「……リン」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【鏡音誕】追憶

全然祝ってないけど気のせいだ!←
どうもこんにちは、ゆるりーです。

三時間クオリティー。
最近ブラックになってるので内容まで真っ黒!w

今回、台詞を頑張ってみましたよ!
リンの台詞の一番最初の文字と、最後の文字を縦読みすると…?
(※ただし、「?」とか「ー」の前の文字です)
けっこうこじつけですが((

閲覧数:436

投稿日:2013/12/27 14:21:12

文字数:3,420文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

  • 関連動画0

  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    三時間クオリティでこれとかホントあなた凄いですね(圧倒)
    逆に清々しいほどの真っ黒さといい、台詞のトリックといい、涙モノの結末といい……(´;ω;`)

    私も二人には来世で救われてほしいと思います
    そしてこれを鏡音四大悲劇の四つ目にしましょう!←

    2013/12/29 17:06:38

    • ゆるりー

      ゆるりー

      返信遅れてごめんなさい。

      そんなことはないよ(震え声)
      最近ストレスで黒いよ←
      台詞は…なんとなく←
      あー、結末は…通常運転ってことで!←

      やめなさい!w

      2014/01/03 21:33:42

  • しるる

    しるる

    その他

    いや、これは特定はやかったねww
    最初の一文で、あ、ブラックゆるりーだとおもいました

    頭文字ね…やはり、ゆるりーさんとは、どこか共通の思考があるようだ
    私もマイページで、似たことを最近しました
    あなどりがたし…
    なんというか、同じポジションで競い合ってる感じ

    あと、余計な心配かもしれませんが、なやんでいることがあったら、相談してくださいね

    2013/12/28 12:36:33

    • ゆるりー

      ゆるりー

      特定されてしまったw
      ブラックにしかなれないんですよ…(´・ω・`)

      頭文字…
      しるるさんは「BRIGHT」でしたっけ?
      コメントはしてなかったのですが、涙が…
      リリィちゃんとグミちゃんはとても悲しい運命を辿っていたのですね。

      で、私のほうは、台詞の最初と最後の文字を縦読みする方法でした。
      台詞はそれっぽいのを最初に考えて、最後に書いて、文章に合うように当てはめました。
      予定では最初の文字だけでしたが、どうせなら最後の文字もやろうということになりました。

      あ、はい(`・ω・´)

      2013/12/29 11:53:48

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    短時間クオリティのほうが高クオリティになりやすいことに定評のあるゆるりんご←
    ごめんなさいごめんなさい!memoryも大罪ギャグもすごいです!
    謝るから360度包囲零式チョークアタックはやめtアッー!(ゴガガガガガガガガッ

    3時間どころか3日かけてあのクオリティですぞ私は。
    あれに比べたら多少黒くたっていいじゃないか!←
    二人は来世で救われろ!気にするな、色んな悲劇曲じゃいつもの事だ!(おい

    悲劇四天王がいいと思います←

    2013/12/27 16:41:28

    • ゆるりー

      ゆるりー

      短時間でも長時間でも低クオリティになることに定評のあるゆるりー←
      やめないよー(((

      そうですね!いつものことですね!←

      やめましょう←

      2013/12/27 17:44:35

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