雅彦が部屋にいると、連絡がきた。
 「もしもし」
 「もしもし、雅彦君ですか」
 「安田教授、どうされたんですか?」
 沢口の言葉を聞いた雅彦は愕然とした。明らかに以前と比べて声が弱っている。さらに、声がくぐもって聞こえることから、恐らく人工呼吸器をつけていると推測した。しかし、雅彦自身が不安に思っていることを沢口に悟られるのはまずいと思い、平静を装うことにした。
 「ちょっと頼みがあるんだが」
 「何でしょう?」
 「私の病室に来てくれないか?」
 「それは構いませんが…。いつですか?」
 「明日が良いな。無理なら明後日でも良いが、それ以降だとちょっと困るかな」
 強い意志で即答する沢口。
 「分かりました」
 「あと、もう一つお願いがある」
 「何ですか?」
 「ミクさんを連れてきてくれないか?」
 「ミクをですか?分かりました」
 「それじゃ、頼むね」
 そういって連絡は切れた。その瞬間、雅彦は崩れ落ちる。
 (くそ、こんなことで崩れ落ちちゃ駄目だ。しっかりしないと。…とりあえず、ミクを呼んで来よう)
 そう思ってミクの部屋にいく雅彦。
 「ミク、いるかい?」
 「はい、どうぞ」
 そういって部屋の中に入る雅彦。雅彦の顔を見たミクは驚いた。雅彦の顔が蒼白だったからである。
 「雅彦さん、どうしたんですか?」
 「…沢口さんに、明日、遅くとも明後日にミクと一緒に来てくれないか、といわれたんだ」
 「それで、なぜ顔が蒼白なんですか?」
 「…あの時と同じなんだ」
 「あの時って、いつの話ですか?」
 「野口先輩の時と同じなんだ」
 「野口さんの時と?」
 「ああ、野口先輩が入院していた時も僕たちがずっとお見舞いにいっていたけど、生前、最後だけ僕たちを呼んだだろ?それに似ているんだよ。くぐもった声から判断すると、沢口さんはどうやら人工呼吸器をつけているみたいで、すっかり弱ってらっしゃるみたいなんだ…」
 声を落として話す雅彦。その話を聞いて、ある決心をするミク。そして部屋から出て行く。いきなりのことに驚きながらも、ついていく雅彦。
 「MEIKO姉さん」
 ミクはMEIKOの部屋をノックしていた。
 「ミク、どうしたの?」
 「明日の仕事だけど、延期しても良い?」
 「…ミク、何があったの?」
 MEIKOが驚いたようにいう。ボーカロイド一家では、仕事の日程の調整は早めにやることが不文律である。方々に迷惑をかけないためで、このような直前での変更は相当な理由が必要である。
 「雅彦さんの話だと、沢口さんが私たちを呼んだんです。雅彦さんの話だと、もう最後なんじゃないかって…」
 「…ミク、いきなさい。クライアントには私からいっておくわ」
 即答するMEIKO。
 「…ミク、仕事を延期するなんて駄目だよ」
 雅彦が止める。
 「雅彦君、沢口さんは、ミクと一緒に来て欲しいっておっしゃられたのね?」
 「はい、でも、ミクが仕事なら…」
 「雅彦君、もしあなたが今、ミクと一緒にいかないと、そのことを、これから一生後悔することになるわよ」
 躊躇する雅彦を戒めるようにいうMEIKO。
 「ですが…」
 「雅彦さん、今を逃すと、もう機会はないと思います。それに、私は雅彦さんの恋人です。ですから、どんなことがあっても、雅彦さんを支えます。それに、これは沢口さんたっての話ですから」
 「…分かった。それなら、一緒にいこう」
 「はい」

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初音ミクとパラダイムシフト4 3章25節

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投稿日:2017/03/09 22:28:18

文字数:1,434文字

カテゴリ:小説

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