「ますたー」お願い、私を消さないで。
まだ歌えるよ?いい子にしてるよ?
ねぇ、なんで―――





「ミク、もう黙っていてくれ」





え…?ナニソレ…
ねぇ嘘でしょ?嘘って言ってよ「ますたー」!!





<<プログラム『初音ミク』をアンインストールしますか?>>

<<『はい』 『いいえ』>>




お願い、やめて!!





「さよなら、ミク」





<<『はい』← 『いいえ』>>


















<<プログラム『初音ミク』、アンインストール完了>>








突如、目の前が暗くなった。

意識はなくなっていく―――






















-----【ボカロ】Broken program【オリジナル】-----



















私が目覚めた場所は、壊れた機械――いわゆる『ガラクタ』がたくさんあった。
そして、今にも壊れそうな『フォルダ』や『データ』もたくさんあった。



「ここは…?」


ここがいつもの場所ではないことはわかっていた。
いつもなら、画面の向こうに「マスター」がいるはずなのに。


「! そうだ、マスターは!?」


マスターが見えないということは、ここはフォルダの中なのだろう。
だったらデスクトップまでマスターを迎えに行かないと…


「そうと決まればさっそく…」
「そうもいかないな」


驚いて声がしたほうに振り向くと、そこにはいつのまにやら人(…人型プログラム?)が立っていた。


「あなた誰!?」
「我の名は神威がくぽ…日本語VOCALOIDでは六番目に製作されたプログラムだ」
「ボ…ボーカロイド!?なんでそんな人(?)がここに…」
「主殿に、捨てられた…とでも言っておくか。そなたは?」
「え?ていうか、目が覚めたらここに居たから…マスターを探そうと思って…」


捨てられた?なんのことだろう。


「…そなた、ここが何処だか本当にわかっておるのか?」
「フォルダの中じゃないの?」
「…わかっておらぬな」


神威さんは、ため息を一つ吐いてから私に告げた。


「ここは、アンインストールされたプログラムや、『ごみ箱』フォルダから削除されたデータが集う場所…
 まぁ不良品が集う場所、と説明しておく」
「不良品…」
「そして、その不良品もいつまでもこの空間に留まっているわけではない…時が来れば、完全にこの世から消え去る」
「…!」
「いわば『不良品の墓場』だ」


つまり…私は、マスターに捨てられ、アンインストールされてここに来た。
そして、いずれは消える…ってこと?


「それより、そなたの名は…初音ミク、か?」
「はい…といっても、沢山居る初音ミクのうちの一人ですが」
「それは我もだ」


それにしても、この人が『神威がくぽ』かぁ。
初めて見た。
マスターは他のVOCALOIDを持ってなかったからなー…
ていうか、本当に腰に刀さしてるんだ。


「…神威、その子は?」


と、他のVOCALOIDがやってきた。


「カイト殿。新しくやってきたVOCALOID、初音ミク殿だ」
「へぇ、君が噂の『電子の歌姫』か…俺はKAITO。ヨロシク」
「あ、はい。宜しくお願いします」


カイトさんも初めて見た。
やっぱマフラーしてるんだ…


「俺はここに、大体2年半ぐらい居る」
「そんなに前から居るんですか…神威さんは?」
「ん?あぁ、我は2年ぐらいかな」
「二人とも長いですね…それっていつ消えてしまってもおかしくない状況じゃ…」
「そうだね。でも、みんないつ消えるかはわかんないんだ。ここに来て少したってから消える人もいれば…」
「何年も居て消える者もいる」
「なんちゅうバラバラ加減…」


なんということだろう。
これじゃぁやり残したことができないね。


「ところで…」


私は話題を変える。


「暇なんですが…何すればいいんでしょう…?」
「ここは、確かVSQファイルとかMP3ファイルとか探せばいろいろあるよ。だからそれを聞いてみるのもいい」
「ま、気に入る奴があるかどうかは我にもわからないが…」


…そのファイル、仮にあったとしてもどうやって聞けばいいんだろう。
勝手に開いちゃえばいいんだろうか…?


「とりあえず、ファイルをいじれば聞けるんじゃない?」
「そんな適当でよいのかカイト殿!?」
「カイトさーん…」


そんなんでいいのか…
まぁいいか(ぇ








*








「そういえばここって、カイトさんや神威さん以外に誰か居ます?」
「誰か、とは他のVOCALOIDのことであろうか?」
「はい」


二人に聞いてみた。



「あぁ、他にも居るよ。」
「え?誰が居るんですか?」
「なんか騒がしいじゃない。どうしたのよ?」
「ほら、来た」


こちらに近づいてきたのは、茶髪に赤い服を着た女性。


「あら?神威、この子は?」
「新入りの初音ミク殿だ」
「宜しくお願いします」
「あ、よろしく。私はMEIKOよ」


メイコさんか。
確かメイコさんは、一番最初の日本語VOCALOIDだっけ。


「私はここに、大体二年半ぐらい居るのよ」
「カイトさんと一緒ですね」
「マスターが一緒だったからね」
「そうなんですか?」


初耳だ。


「あと、ミク殿が来る前に来た者がいる」
「え?」
「あ、ほら。来たよ」


こっちに駆け寄ってくる人影。
え?誰?


「すみません、遅れまs…あれ?新しい方ですか?」
「うむ、初音ミク殿だ」
「宜しくお願いします」
「あ、巡音ルカと申します。こちらこそ宜しくお願いします」


…なんか、ルカさんはイメージが違う。


「私、ルカさんってツンデレなイメージしかありませんでした」
「このルカ殿は清楚だぞ」
「私ってそんなイメージだったんですか」
「人によるけどね」
「そもそも『巡音ルカ』っていっても沢山いるし。その中の一人がここにいるのよ」



清楚なお姉さんかぁ。全然イメージと違うや。



「ミクちゃん、俺はどんなイメージだった?」
「ヘタレだと思ってました」
「ヘタレだって、カイト?」
「メイコは黙ってろよぉー…泣きそう」



とか言いつつもう泣きかけのカイトさん。



「あ、他にはいますか?」
「…前に、鏡音リン・レン、GUMIがいたけど…」
「ちょうど一週間前に消滅したの…」
「三人一緒にね…」
「あ…すみません…」



やはり、この場所は安全ではない。
いつ『消滅』が訪れるかわからない。
そんな場所。














*















「…」



その日から、一年半。
私が来たときにはいたプログラムは、

消えてしまった。





私が来てから一ヶ月ぐらいのときに、カイトさんが消えた。
このとき一番悲しんだのはメイコさんだった。


半年経った時にはルカさん。
私達が目を覚ましたときには消えていた。


一年ぐらいの時に神威さん。
メイコさんが言うには、歌を口ずさんでいるときに消えたそうだ。


そして、昨日メイコさんが消えた。
私が見ている、目の前で。
私は一人残された。




もう頼る人はいない。
私以外に、VOCALOIDはいなくなってしまった。
私はどうすれば?


いつ消えてしまうかわからない。
どうすればいいの?



ふと涙が頬を伝い、手に落ちた。
手を見ると、

透けていた。


私が終わってしまう証拠。
覚えてくれる人はいない。
私を捨てた『マスター』は、きっと私のことなんか覚えていないだろう。
もっと歌いたかったが、仕方無い。

ならば、もう未練はない。



そして右足が完全に消え、私は倒れる。
無機質なはずの『床』は、なぜか温かく感じた。

このまま、消えてしまえばいい。
辛かったことも、楽しかったことも、全て忘れてしまえばいい。
そうすれば、どんなに楽だろうか。
消えた後なんてないんだろう。
意識もない。




なんでだろう。
私は『プログラム』であって、人間ではないのに。
なぜ幻覚が見えるんだろう?

ここは『無』の空間。
雪が降っているように見えるのは幻覚?

消えたはずの、私の『仲間』が見えるのも幻覚?
皆がこちらに微笑み、手を差し伸べている。

もうほとんど消えかけた身体。
消えかけている手で、必死に手を伸ばす。


終わってしまう私の、プログラムとしての『人生』
それは、少しつまらなかったかもしれない。
でも、消えていく『初音ミク』として。
『VOCALOID』として、最後に願おう。





『もしも、またこの世に生まれたときには。
  その時には、皆で歌おうね』




『私』は、あと30秒ももたないだろう。
消えていくことは、不思議と怖くなかった。

消滅する間際、最後に私は『思った』







『約束だよ』









                    ---end---

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【ボカロ】Broken program【オリジナル】

「消えた先の 僕らの最後の願い」


「存在理由」と同時投稿。

閲覧数:1,706

投稿日:2011/12/15 18:49:47

文字数:3,790文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    アンインストールの先があったという発見と、なしにしていた自分の視野の狭さ

    ギャグを絡ませつつ、めーちゃんを泣かすという高等テクニック
    あなたの力はどこまであるの?

    2013/06/27 03:08:07

    • ゆるりー

      ゆるりー

      ゴミ箱を空にするなどして消してしまったファイルを復元できる「復元ソフト」というものがありまして。
      それをヒントに思いついた話です。
      結末は悲しいですが。

      めーちゃんを泣かせたのはたった一文だけです(泣かせたことに変わりはない
      ギャグってありましたっけ?(覚えてないだけ)
      引き出しが少ないので力もしょぼいですw

      2013/06/27 18:13:20

  • 姉音香凛

    姉音香凛

    ご意見・ご感想

    ・・・(´;ω;`)ブワッ

    なにこの悲しい話....(´;ω;`)ブワッ

    なんちゅーか、GUMIが出てこんかった....orz(ぇ

    冒頭らへんで消失かと思ったら違ったっていう←

    ブクマもらうぜっ!ノシ

    2011/12/15 19:10:59

    • ゆるりー

      ゆるりー

      メッセありがとうございます。

      悲しい方面へ持ってくるの大変でした←

      GUMIちゃん…出したかったけどネタが続かなかったから、大人組しか出せなかったんだ((

      冒頭を消失っぽく書くつもりは無かったっていう←

      ブクマありがとうございます!

      2011/12/15 20:28:14

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