ドアを開けて、目に飛び込んだ光景を見て、脚が無意識に密を蹴り飛ばしていた。礼儀?常識?知るか!そんな物!それから目の前の状況を飲み込んで頭の中で整理するのが精一杯だった。悔しさと怒りと驚きと愛しさと、感情がいっぺんに噴き出して頭がパンク寸前だった。だから考える前に蹴ったんだろうけど。

「…何してんだよ…?」
「口の利き方がなってないな。再教育が必要か?」
「ふざけるな!浬音に何してた?!」
「何って、キス。」
「―――ッ!!!」
「殴る権利がお前にあるのか?指一本触れないとか言って置きながら随分調子の
 良い事だな。」
「…それはっ…!」
「まぁ俺は別に構わないけどな…誰を選ぶかも誰も選ばないかも本人次第なんだし…
 ね?浬音。」
「……………………………………。」
「嫌われちゃったかな?それじゃ。」
「待てよ!」

不敵な笑顔を浮かべると密はそのまま衣装室を出て行った。と、浬音が思い出した様に扉に走った。

「待っ…!返して!お願い返して!」
「浬音?」
「ど…どうしよ…どうしよう?!か、返して貰って来る!!」

動揺したまま走り出そうとする浬音を慌てて捕まえた。

「待てって!今行ったら何されるか判ったもんじゃないだろ?!」
「でも…でも取られちゃったの…!ネクタイ…鳴兎のっ…!」
「良いから!落ち着け!」
「ごめんなさい!ごめんなさい…!」

泣きじゃくる浬音を抱き締めて、何とか宥めた。廊下で騒ぐ訳にも、ましてやパーティーホールに戻る訳にも行かず部屋に戻った。浬音は暫く泣きむせながら水を飲み下していた。

「落ち着いた?」
「…判んない…。」

ふと、浬音の首に微かな赤い痕を見付けた。そっと触れると浬音は僅かに身を強張らせた。その反応から容易に想像が付いて頭にカーッと血が昇る思いがした。堪らなくなって、浬音を引き寄せて、痕に口付けた。

「鳴兎…?」
「ごめん、痕消させて。」
「うん…。」
「…今滅茶苦茶独占欲の塊だ。バラの香り大っ嫌いになりそう。」
「え?!バラって…あ…。」
「…消して良い?痕も、香りも、気配とか、そう言うの全部…何もかも…。」
「鳴兎…。」
「良い?」
「うん…。」

噛み砕いたレモンキャンディを重ねた唇に押し込んで、壊しそうな位強く抱き締めた。悔しさと怒りと驚きと愛しさと、感情がいっぺんに噴き出して…だけど頭の中は酷く素直でシンプルだった。

「…鳴兎…。」
「ん?」
「…すき…。」

浬音が真っ赤になって耳元で発した微かな言葉が凄く嬉しくて、堪らなく愛しさが込み上げた。

「Ich liebe Sie auch…」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

DollsGame-105.クリムゾンローズ-

I leave it to your imagination.

閲覧数:571

投稿日:2010/09/06 03:28:53

文字数:1,093文字

カテゴリ:小説

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