――――――――――#10 /第4話fin
正面切って、「今日はアラとかも出す」と言われた様な物だ。確かに美味しいし、高いマグロを入れたのだろうとは思うが。
「旨いな……」
「せやな……」
「ふむ」
「この香味、味を生かしてとても濃い味わいにしていますね」
「うむ。旨いな」
猫村中将と亞北ネルはドン引きしている。私もドン引きだが、巡音市長と神威中将は普通に食べている。人として何かを試されているのだろうか。
「血合いと言えば、兵だったときによく貰ってきては焼いていた。基地の近所に漁港があって、気前のいいおじさんが捨てればゴミなのはアラでもトロでも一緒だからって、食べ方を教えてくれたんだ」
「私の母は魚の身だけを寄ってくれましたが、その事で先日喧嘩をしまして」
「そうだなあ、旨いだろう。私の頃は焼く奴がアラを食べるというのが暗黙の了解だったから、かえって焼く係が奪い合いになったりな」
アラ談義で盛り上がってる巡音市長と神威中将から目を背けて、猫村中将は粛々と箸を進め、亞北准将は肘を突いて物を口に運んでいる。
「出汁が鰹と、松茸ですかね。とても上品な」
「中途半端な味で楽しめない」
ハクがなるべく穏便な感想を言いかけたのを、亞北ネルが一言で切り捨てる。弱音ハクはすごく困った。料亭にしては大味だし、居酒屋で出るような親しみもない。ただ、マグロの血合いが美味しいというだけの、会話に困る味だ。
「美味いけどやな……、血合いとかわざわざいわんでええやん……、食べりゃわかるけどや……」
猫村いろはは心底失望した表情だ。目の動きが、焼酎の存在を探してると分かる。その時、障子が開いた。
「失礼します」
長い髪を腰辺りに結えて撓む、見目も綺麗な娘が入ってきた。仲居だと気付くのに、一瞬を必要とした。
「本日最初にお持ちしましたお酒は、本日お出しするマグロを水揚げした漁港で漁師の方々が好む焼酎がございまして、女将の指図でお持ちいたしました」
「うおお」
猫村中将が声を上げ、神威中将も眼光を光らせた。
「米焼酎"知将"……、そこそこの本数を作っているからリーズナブルだが、15年もの貯蔵を経た本格焼酎だ。まず味で選んでいる、やるな。これが、料亭の本気か」
ネルがなんか言っている。
「本日は海賊風の趣ですので、新鮮なマグロをご賞味いただくのに良いかと女将が申しておりました」
「ええやないか。メイコやから元々信じとったが、ええチョイスや」
「はい。女将も喜びます」
「あ、女中。酌はいいから刺身でも持ってまいれ。先ほどの茶は、良い手前だったぞ」
「おそれいります。ではすぐにお持ちします」
女中がハク以外の全てのメンバーが、メイコの演出に乗せられて格式を忘れている。経費で落すとはいえども、料理も値段なりとはいえども、最左翼のルカがあのザマでは、もう難しい話をする雰囲気ではない。
が。
「それにしても高そうな大皿やな。絵柄は水滸伝やろか」
「三国志だろ?諸葛亮が琴掲げてるじゃねえか」
「なに、私は先祖代々の侍であるから、酒など飯の代わりよ」
「あのですね、金瓶梅ですよ。知ったかぶりはやめてください、恥ずかしい」
「水滸伝であってるやろうが」
「違うものです」
おもむろに平然と、皿の絵柄の話になった。ハクも知らぬ顔で混ざる。
「貂蝉ではと思っていましたが」
「さてな、王昭君ではあるまい。なんにせよ、孤軍奮闘とは計に寄っても忙しいものよ」
杯を煽ったガクポがウインクをして、微かに杯を振る。正面に振り下げて、斜めに傾けた。
なるほど、私だけが知らされてなかったのか。初対面の神威中将指揮で、打ち合わせにすら混ぜてもらえずにいきなり共同作戦という奴だ。
「なに、風流は知らぬが、酒の飲み方は一番知っている」
しれっとジト目気味に座の一同に視線を配る。なるほど、エコーも全く聞こえなくなった訳か。
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