目が覚めて。
あなたの眠たげな顔や温もりがあることに毎日安堵する。
今日も今日とてこの人の寝相は悪い。5年間一切変わらない大変大胆な寝返りに圧迫された身体を起こす。
11月5日。
相変わらず朝早く起きるような習慣は身に付いていないから、ゆっくりとコーヒーを入れるところから1日が始まる。
いつもは一番安い食パンを二人分焼くんだけど、今日はちょっといい粉と牛乳を使ってパンケーキにしてみる。
いつだっておれはあなたの喜ぶ顔が見たいと思っているけれど、そうやって愛のままにすべてを伝えられるような日はそんなに多くない。
だからこうやって小さく積み上げて、少しでもあなたの笑顔を多く見たいと思ってしまう、未だに。きちんと濡れ布巾で一度フライパンを冷ます。あの人は大してフライパンを握らないくせにこういう一手間を省くのは嫌がる。そういうところも可愛い。わりかしやらせるとまあまあ雑なのも。
出逢ってからは8年、暮らしてからは5年経つがまだまだ知りたいしまだまだ面白いと思う。
結局この現実が一番甘美だ、俺にとって。
どんな結末を迎えたって、どんな方向に傾いたって隣にあなたがいる人生なら全て喜劇だと思える。
いつもはベーコンエッグが焼けるあたりで起きてくるんだけど、昨日はまあまあ飲んでたからか今日はいつにも増して夢の中だ。
「めーちゃん、起きて」
「んん、なぁに……」
「ご飯できたよ」
「……おやすみ」
「コーヒー冷めちゃうよ」
「カフェオレにしといて」
「じゃあ俺が飲む」
「ごめん、おきる」
大きなあくびとともに盛大にスローモーションで起きようとしている。よほど眠たいみたいだ。
「……パンケーキ?なんで?」
「さあ、なんででしょうね」
「まあなんでもいいや」
一口頬張って「おいしい、さすがカイト」と呟く。そう、この笑顔の原因になれる一番近くを俺は絶対に譲りたくないって思う。
「ラフランスもあるんですよ」
「珍しいわね、高くなかった?」
「さあ、なんででしょうね」
「まあいいか」
今日は普通に世間の3連休明けの水曜で、俺たちは夜からいつも通り労働が入っていて。俺はバーで酒を作って、彼女は歌を歌って。
そんなんだから昨日もお酒を飲んでいる彼女に言ったのに、当の本人は全く覚えていないみたいだ。
「ラフランスってもう日本にしかないらしいわよ」
「フランスじゃないんだ」
「あ、思い出したかも。あたしの誕生日?」
「まあ正解です」
「ありがと〜、ますます歳を取ったわね」
「いつだって可愛いですよ、メイコさんは」
「なんか言わせたみたい」
「いやいつも言ってるでしょう」
「ふふ。あんたのメイコさんだからね」
「うん、俺のメイコさん。ずっと可愛い、俺だけのメイコさんですからね」
あんたの、俺の、俺たちは。左指の薬指で示される関係になって4年経つけど。
ニコニコしながら上機嫌でメープルシロップをドバドバかけている。まあ今日くらいは見逃そう。
生活は続く、日々小さい特別を抱えて。
「お誕生日おめでとう」
「ありがとう。ところで今日はケーキ買うよね?」
「もちろん。買いに行きましょう」
「お酒は?」
「分かったから」
自分が主役の日だとわかった瞬間にイキイキとし始める現金さも憎めない。
コーヒーを美味しそうに飲んでウキウキと支度を始める彼女を横目にすっかり日常になった観葉植物への水やりをする。
いつだって貴女が主役ですけどね、とは言わないでおく。
「ちゃんと食器は片してくださいね」
「ケチ!」
「それはそれ、これはこれでしょ」
「洗ってくれたらキスしてあげるのになぁ」
「別に俺からしますし」
リップを塗ったばかりの彼女に口付ける。ちょっと甘い味がする。
「て訳で、よろしくお願いしますね」
「分かったわよ」
暖かい温もりとともに馬鹿みたいな幸福感は続いていく。
俺はあんたとこうやって居れて幸せですよ。
言葉にしたいのに足りない。
だから何気ない日々の幸福を精一杯馬鹿げた今を存分に染め上げて楽しむ。
「カイト、行くわよ〜」
「忘れ物ないですか?」
「いや別に近いし忘れ物とかなくない?」
「俺はあるかも」
ありがとうでは足りないから手を繋ぎ。
そんな歌詞の曲の一節を思いながら指を絡めて。
ご機嫌な彼女を横目に扉を開ける。
愛しているとかの大袈裟な言葉に笑ってしまうくらいの年が過ぎてもこうやって横にいることが俺はずっと嬉しい。
俺の横でこれからも幸せでいて。
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相変わらず遅刻ばかりしてますが今年度は久々に書きたいな〜という気持ちがあったりなかったりしています。
この話終わらせるのに何年かかったんだ?怖い話はやめましょうかね
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