「弱音さんちの留学生」
第一話 天使の元へ仙女が来た
PART1「女子高生の人生相談」
この小説は、2012年12月15日、
ボカマスにて無料配布した小説本のWEB向け版です。
起承転結 4章構成になっています。
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二人を待たせて、キッチンで立ったまま食事を済ませる。
ミクは甲斐甲斐しく、二人にお茶を出してから戻り、
少量の朝食を一緒に食べてくれる。
もともともボーカロイドの彼女に食事は必要ない。
私に合わせて付き合ってくれるのだ。
リビングに戻り、二人の対面にミクと座る。
部屋に入ったとき、少々の違和感があった。
先ほどは清廉で近づきがたい雰囲気のした彼女のボカロだが、
いくらか親しみやすくなったような気がする。
神秘的な雰囲気が去り、あれっ?
……よ、よだれを拭いた後?
ま、まさかね、ははは…
「お姉さま、ミクさま、この度は本当に、
ホームスティを請け負ってくださいましてありがとうございます。
私は樂(ユェ)正綾(ジョンリン)、
ミクさまの妹君と混同しないよう「阿(ア)綾(リン)」とお呼びください。」
続けて、主従ともに深々と頭を下げる。
あぁ、もうそんなことしなくていいのに。
と思ったが、よく見ると、
机の下で主人がボカロの口を拭っている。
あ、あれってやっぱり?
「こ、この子は私のボーカロイドで洛天依(ルォティェンイ)と申します。
「天依(ティェンイ)」とお呼びください。」
あ、やっぱり拭ってある。
朝食を一緒にと誘えば良かったかな…
「「ティェン」は日本語のテンに近く、同じ漢字です。
「テンイ」でもかまいません。
どうぞ、しばらくの間、よろしくお願いします。」
かしこまって再び礼をする。
あぁ、もう、そんなにしなくても…
「そんなにかしこまっちゃダメよ、阿綾。
QQでの会話は、元気そのものだったじゃない。
これからは私のことはハクと呼んでね。
ミクのことも、呼び捨てにしてくれると嬉しいわ。」
これに今度は、二人とも驚いて両の手を振る。
「バチンっ!」
とお互いの右手左手が当たり、仲良く同時に痛がった。
「ぷっ、あははは。
ご、ごめんなさい、笑ったりして。本当に仲が良いのね♪」
「あたた… は、はい!
こんな子に巡り合えるとは、私も思っていませんでした。
でも、この子とのことについて、いくつか悩みがありまして……」
視線を落とし、また顔が青くなっている。
そうかこの子、感情のふり幅が大き過ぎるのだ。
堅苦しい喋り方は、緊張の余りそうなっているんだ。
ネットで話した時のように、本来は元気ないっぱいな子で、
落ち込むときも、ここまで塞ぎこむ…。
「お姉さんに任せなさい!
なんせここには天使のミクさんも居るのよ♪
大船に乗ったつもりで、どんとね♪」
となりでミクが困った笑顔を浮かべている。
しかし、私の言葉を遮るようなことはしない。
彼女を安心させるのに、必要な言葉として汲み取ってくれている。
「あ、ありがとうございます。
少し喋り方を戻しますが、やはり目上の方ですから…
ゆ、ゆっくりと直しますね…。
お姉さま、ミクさんと呼ばせて頂きます。」
た、たしかに私は鬱になる年齢と公表してるけど、
30代は風評被害ですからね!
目上って言われるとちょっとショックかもしれない…
いや、これが女子高生パワーなのだ、あうぅ。
見ると、まだ緊張の解けない手で、彼女はお茶を口へと運んでいた。
「あ、そういえば忘れていました。これ、お土産の中国酒です。」
いそいそと旅行鞄を開け、中から黄色く丸い紙箱を出してきた。
「え、これも二鍋頭(アールグオトウ)なの?」
驚きの声を上げると、その感想を聞いた少女もまた驚いている。
「えぇ、そうです。リクエストされた時は、
日本の方がご存じだなんて、本当に驚いたんですよ?
これは少し良いものを持ってきました。
リクエストの時に言われた紅星二鍋頭よりは、
ずっと飲みやすいはずです。」
二鍋頭とは、中国の一般的なお酒で、強い蒸留酒の中取りだ。
とんでもなく強いが本当に悪酔いしない。
翌朝すっきり抜けてるさまはカルチャーショックさえ感じる。
ホンシンは日本でもよく見かける銘柄で、凄くお手頃。
遠慮してこれをリクエストしたのに、なんだか高そうなものを
持って来てもらってしまった。少し、申し訳ない。
「武術もやってらっしゃるというし、
メッセンジャーが不安定な私の為にQQまで実装してくださるし、
素敵なお姉さまに出会えたなって♪」
あ、なんか全身こそばゆいです。
やめて、ミクさんまで隣で誇らしげな笑顔しないで~。
「お酒はもとから世界中のどんなお酒でも、強ければ大好きよ♪
韓国ならアンドンヂュウ、台湾ならジンメンガオリャン♪
忘れちゃいけないポーランドウォッカ、スピリタス~♪」
「凄い凄い、金門島の高遼酒までご存じですか!
武術もできて酒豪なんて、まさに理想の女侠さまです!」
か、彼女の中で、私はどんな人物像になっているのだろう。
さっきの挨拶もそっち方面への誤解からかしら…。
「それに武術はほら、酒飲みで急に胸が大きくなったからなのよ。
背筋を鍛える為、太らない為に始めた、って……」
あ、やヴぁい。
三人押しなべてナダラカな少女たちが、
私の胸に死んだ魚の目をむけてらっしゃる。
や、やってしまったわ。
「あ、あはは。武術はお勧めするわ。
自然と胸も成長すると思う。実際、始めてから大き…」
「本当ですか!」
三人とも身を乗り出して聞き返してくる。
いや、ミクさん、天依さん、
ボカロの胸が成長できるかどうかは、開発者の方に聞いてくださいな…。
「は、話の腰がボキ折れたわね。
で、阿綾の悩みごとってなんなの?」
突然に話が戻り、少女はハっと驚いた。
だが、これくらい砕けた空気の中なら、彼女も話しやすいだろう。
「えぇと、私の悩み事って言ってしまうと、
ほかにも、兄のこととか、兄のこととか、
どうしようもないシスコン兄のこととか、いっぱいあるんですけど……」
いや、お嬢さん、お兄さんになにされてるの?
「でも、そんな些事は構いません。
この子のことで、ご相談したいことがふたつあります。
ひとつはミクさんに、ひとつはお姉さまに……」
会ったことのないお兄さん、さようなら、些事だそうです。
それより、また落ち込まないうちに、悩みを聞き出してしまわないと…。
この為に、昨日はお酒を抜いているのだ。
彼女の悩みをちゃんと解消し、この縁起良さげな56度の黄色い箱で乾杯といきたい。
すっと、ミクのほうへ向きなおった阿綾が、言葉を紡ぐ。
「まずは、ミクさん。ボーカロイドの食事のことです。」
「食事?」
ミクは、何のことだろうと、目をしばたたかせた。
「はい、うちの「世界第一的吃貨公主(せかいいちのくいしんぼうひめ)」
なんて呼ばれるこの子みたいに、ボカロの皆様は
けっこう燃費がかさむものなのでしょうか…」
あ、やっぱり、ひとつはそれか…
「え、基本は燃料は問わないですし、むしろ食べないでも良いはず…」
「天依ぃ~?」
さっきまでお淑やかに座ってた彼女のボカロ、
今は口笛吹きながらそっぽ向いている。
わ、わかりやすくて可愛いなぁ。
「な、なるほど、だからあんな大量の支度金が送られて来たのね。
それでも大過ぎじゃないかしら、
振込み名目に一か月分って書いてあったわよ?
あの額をまた送ってくるの?」
彼女のご両親が過保護なのかと思ったが、どうやら彼女のボカロの為らしい。
「いえ、それは兄が…」
お兄さん、とにかく過保護を止めることが、妹さんに好かれる方法じゃないでしょうか。
「わかりました。
この子が特別に吃貨(くいしんぼう)なのは、
これで嫌というほどよくわかりました。
まさか、ゼロ 対 一千万パワーとは…」
ちょっと、お嬢さん何時の生まれ?
でも、この調子なら私への質問も簡単に済みそうね。
ホームスティ期間、悩むことなく楽しんでもらえるかしら?
「じゃ、じゃあ、私への質問って?」
「あ…… はい…… えぇと……」
相貌を真っ赤にして、俯いてしまった。
もじもじとし、必死に伝えようとしているようだ。
「……い生…活…です……」
えっ?
もう少しで聞き取れそうなんだけど……
「ぼ……」
「ぼ?」
すぅっと深く息を吸い込み、
更に顔を真っ赤にした少女は、驚きのセリフを発した。
「ぼ、ボーカロイドとの性生活についてです!」
・・・・・・・はい?
驚きの余り、その場の空気が凍った。
ふたりのボカロは石と化し、
私は混乱の余り、酩酊時の数倍は目を回していた…。
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中国のボーカロイドは公式が物凄い病気です。
公式ページ:http://vocaloidproject.com/ へ行って頂いて、
ANIMATIONのタブから、公式WEBアニメを見て頂くとわかりますが、
公式が徹底的に天依と阿綾の百合カップリング押しの上、
徐々に人気があがりつつあった龍牙お兄ちゃんの出番をキャンセルしてしまうという徹底ぶり。
それと、
僕は今後も、ミクハク南北組で小説を書き続けようと思いますが、
今回のように、お酒ネタと武侠ネタを毎回ひとつづつ盛り込むつもりです。
くいしんぼうについては、中国でほぼデフォルトとなっている二次設定です。
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