『グオオオオォォォオオォォオオォォォオオォォオォオオォオン!!!』


 吠え狂うカイト。背中では、黒い翼からどす黒いオーラが放たれていた。

 突如、呆気にとられているリリィにグン!とその赤黒い眼光を向けたカイトは、


 『グルオオオオッ!!!』


 一声叫んで飛び掛かった。


 「わ!?」


 咄嗟に鬼百合を地面に突き立て防御の体勢に入るリリィ。

 直後、鋭い金属音が鳴り響く。カイトが爪を鬼百合に叩き込んだのだ。

 さらにそのまま押し込んでいくカイト。その眼は既に、いつものカイトの眼ではなく、猛り狂った魔獣のそれだった。


 「く…このお!!」


 苛立ったリリィが叫ぶ。その声に反応したリリィの全身の筋肉と鬼百合が、カイトに向かって力を叩きつけた。

 …が、全く通用しない。それどころか、さらなるスピードで押し込んでいく!


 (馬鹿な!?このあたしのサウンドマッスルを超える馬鹿力なんて…そんな馬鹿な!?)

 「くっ!!」


 たまらずリリィはその場を離れ、家屋の屋根に飛び移る。そしてそのまま、屋根を飛び渡って行ってしまった。


 『オオオオオオオオッ!!!』


 カイトは咆哮を上げ、翼を広げてリリィを追って飛び去って行った。

 その様子を呆然と見ていたルカ。しかしふと正気に戻って、がばっと立ち上がった。


 「グミちゃん!!」

 「ふ…ふえっ!?」


 いきなりルカに名前を呼ばれ、グミは思わず縮み上がる。


 「ミクたちを連れてボカロマンションに戻ってて!!」

 「え…え!?ルカちゃんは!?」

 「私は…!!」


 リリィとカイトの去って行った方向をキッと見つめ、ルカは力強く叫んだ。


 「あの二人を追いかける!!さぁ、早く!!」

 「…!!わかった!!」


 駆け出したグミは一気にミク、リン、レンとメイコを背負って、ボカロマンションに向かい走って行った。

 それを見届けたルカは、一気に加速し、カイトとリリィの後を追った。

 2人は未だそれほど離れてはいなかった。相変わらず屋根の上で激しい戦いを繰り広げながら移動していた。

 その様子を見ながらも、ルカは辺りの家屋や電灯をざっと見渡した。

 時は間もなく夕闇に包まれる頃。しかしどこの家屋も電灯も、灯りが一つとしてついていなかった。


 (おそらくカイトさんが変化時に辺りの電気を全て吸い尽くしたのね…!でもそんなこと気にしてる場合じゃない!!おそらくこの様子だと町内の全施設がダウンしてるはず…!!…となれば一番復旧しなければならないところは…!!)


 思考を高速回転させ、そして走りながら携帯を取り出し、ダイヤルを押す。


 「こんな時に頼りになる子って言ったら…あの子しかいない!!」


 何度かベルが鳴り、そして相手側が電話に出た音がして、ルカは思わず叫んだ。


 「もしもし!?ネr―――――」


 『ちょっとおおおおおおおおお!!!?ど―――なってんのよルカさ―――――ん!!いきなり電気落ちてあたしの大事な大事なデータが吹っ飛んだんだけど―――――!!!!?』


 電話の向こうから響いてきたのは、泣き声混じりのネルの怒声であった。

 いきなりの甲高い声にくらくらしながらも、ルカは何とか声を絞り出した。


 「そ…その停電の事で、ちょっと話があって…!カイトさんが大変なことになってんのよ!!」

 『え!?どーいうこと!?』


 ルカは事情を事細かに手早く説明する。それを聞いたネルはしばらく唸ってから、ルカに尋ねた。


 『で!?あたしに何をしてほしいの?』

 「…この停電、おそらくは町内全部に亘ってるわ。たぶん予備電源なんかも電気を食われているはず…。こんな時一番危ないのは病院と近隣の診療所よ。治療中の患者さんとか、何らかの装置を常に回し続けてないといけない患者さんとか、そういう人の沢山いる病院の電気が全部止まったら、とんでもないことになるわ…!!さらに言うなら、カイトさんとリリィの戦いに巻き込まれてケガをした人なんかも押し寄せる可能性がある!そうなったら病院はパニックよ!!」

 『前置き長いよルカさん!!…でも、大体言いたいことは分かった!要するに、病院と診療所を動かせってんでしょ!?』


 声だけでもわかる。大変なことだと理解しながらも、ネルの気分が高揚していっているのが。やれやれといった風に息をつきながら、ルカは話を続けた。


 「ネル!あなたには病院と診療所を丸ごと起動できるような超出力の発電機を作ってほしいの!この町の病院と診療所の電気は、すべて病院の地下にある発電機で賄われてるわ。それにつなげば、病院と診療所を全部いっぺんに回復させられる!!あなたなら、30分もあれば作れるでしょ!?」


 その瞬間、電話の向こうで小さな笑い声。そしてネルの弾けるような声。


 『30分!?ふふっ、甘いよルカさん!!その程度の代物なら、10分もあれば十分!!』


 そう言い残して、電話は切れた。


 (まったく…楽しんでる場合じゃないってのに…。)


 苦笑いしつつ、ルカはそのままカイトとリリィを追っていった。





 『改造専門店 ネルネル・ネルネ』では、電話を切ったネルがさっそく作成に取り掛かっていた。

 机の下から次々工具を引っ張り出し、後ろの棚から基盤やネジ、導線などなど、様々な部品を取り出して机の上に置く。

 ふと、何かを思い出したようにネルはスカートのポケットからあるものを取り出し、首にかけた。

 それは中心に金色のネジが填められた、十字架のキーホルダー。ネルの、一番の宝物だった。


 「さあ!!いっくぞ―――!!!!」


 一声かけて、ネルは超高速で作成を始めた。

 次々導線が基盤につなげられる。ネジがまるでマシンガンで撃ちこまれるかのようにはめられる。基盤が胴体部に取り付けられ、電磁石が組み込まれモーターが組み込まれる。

 作成開始から5分強。カンッ!!と音がして工具が投げ出された。

 発電機は完成していた。―――そう、たったの5分でだ。それこそがプロトタイプであるが故に音波術を持たないネルの、唯一の超技術なのだ。

 出来上がった発電機を抱え込んで、ネルは店の外に出た。店の前には、1台のバイク。ネルの愛車―――もとい愛機だ。

 再びポケットから何かを取り出す。それは、普段使っている携帯とは違う、『このバイク専用』のスマートフォンであった。

 バイクにまたがり発電機をしまい込み、ネルはハンドルの間にある装着台にスマートフォンを接続。そしてそれを百八十度回転。

 数々のメーターの映像が浮かび上がり、エンジンがかかる。


 「さあ…行くよ、相棒『ネルフォンバイク』!!」


 ネルの掛け声とともに、バイクは急発進した。

 しばらく走っていたところで、突然接続されたスマートフォンの画面に顔の様なものが映し出された。


 『Hey、ネル!!ずいぶんご無沙汰じゃないか!?今日はどこにドライブだい!?』


 それは、ネルフォンバイクの『意識』であった。ネルフォンバイク。ネルの愛機にして、ネルが手掛けたメカの最高傑作であり、ネルの唯一無二の相棒なのだ。


 「もう!そんなおちゃらけてる場合じゃないの、ネロ!」


 『ネロ』とはネルのみに許されるネルフォンバイクの愛称。それほどまでにネルと強い絆で結ばれたネルフォンバイクは、一瞬で事態の重大さを理解したようだった。


 『…なるほど?なんかヤバそうだな。で、どこへ向かえばいい?』

 「大病院よ!エンジンの主導権を全て委ねるわ。全力で飛ばして!!」

 『了解!!』


 その瞬間、バイクのライトが突然反転した。その裏側から表れたのは、小型の液晶。そしてそこに、ネルフォンバイクの『顔』―――ネロが映し出された。


 『おらああああああああああ!!!!』


 雄叫びを上げたかと思うと、排気管がいきなり火を噴き、ネルフォンバイクは急加速した。これまでの2倍…いや、4倍以上の猛スピードだ!

 超高速であるにも関わらずネルの絶妙のハンドルさばきにより町の裏道を次々潜り抜け、バイクはあっという間に病院の前に到着した。

 バイクを飛び下りたネルは、発電機を抱えて病院に入った。中は既にてんてこまいしており、数十人の医者や看護師が慌しく動き回っていた。その中で、最も年配そうな医者がネルに気付いて駆け寄ってきた。この病院の院長・氷山清照。ネルとは主に機材の関係で深い付き合いだ。


 「おお、ネル君!いやいや、突然のこの大停電でとんでもない騒ぎでねぇ…。」

 「そのことで院長、発電機を作って持ってきたわ。こいつを地下の発電機に接続すればすべての機能を回復させ、辺り一帯の診療所も動かせるだけの電気を作れる。接続の仕方はコントロール装置にコードを繋げればいいだけだから、簡単にできるはずよ。」

 「おお、かたじけない…!」


 氷山は発電機を受け取った。踵を返して病院を出ようとしていたネルは、ふと思い出したかのように指を上げた。


 「そうそう!ルカさん――――巡音流歌警部補からの忠告なんだけど、今外でもちょっとごたごたが起きてるから、ケガ人が大量に来る可能性もあるわ!動かせる医者は全員スクランブル状態!同じようなことを辺りの診療所にも伝えておいて!」

 「あ、ああ、わかった!本当に何から何まですまないね。」

 「お礼ならすべて片が付いた時に行ってちょうだい!じゃ、あたし行くね!」


 ネルは外に駆けだし、ネルフォンバイクの元に戻る。そしてふと振り返り、病院の窓をじっと見つめた。

 待つこと1分。突如、全病室に眩いばかりの灯りが灯った。

 その様子を満足そうに確認したネルは、ネルフォンバイクにまたがり、走り去っていった。





 『さぁーて!!一仕事終わったし帰るとすっかぁ!なぁネル?』

 「…………。」

 『?どうしたネル?』

 「…ネロ。今起こってる出来事についてはさっき走ってる時に話したよね?」

 『ああ、それがどうした?』

 「…ちょっと様子見に行ってみたくない?」

 『はあああああああああああ!!?』

 「ていうか決定!!遠くから見るぐらいなら大して危なくはないでしょ!!」

 『ちょネル待てオイ…!!』

 「ほらネロ、エンジン全開!!」

 『く…くそう!!どうなっても知らねえからな!!?』


 猛スピードで方向転換したネルフォンバイクは、そのまま暴走するカイトとリリィの方角へと走って行った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

蒼紅の卑怯戦士 Ⅳ~ネルの本気~

久々のネル登場です!!こんにちはTurndogです。

前々作『RIN RIN SOUND BURST!!』では大層な困り者で愛しのレン君にも叱られちゃったネルちゃんですが。これが本来のネルの姿!!有事の時には持ち前の技術でとんでもないものをあっという間に作っちゃうのです!!
発電機の作りについては…調べたけどよくわからなかったのでかいつまんで書きましたwww…物理は嫌いだああああ(泣)

ネルの相棒ネルフォンバイクですが…ええ、文じゃ形がわかりにくいですよねwwwこの話が終わって暇があるかどうかはわかりませんが…あったらイラスト描いてお見せしましょうwww
因みに呼び名の『ネロ』は「フ○ンダースの犬」からとったわけではなくてですねwww亞北ネルの弟という設定の派生キャラ「亞北ネロ」から頂戴しました。性格が顔とまったく一致しない気もしますが気のせいです(おい

あ、そうそう。病院の院長・氷山清照は「こおりやませいしょう」と読みます。某ボカロ先生とは何の関係もございませんwww
………多分。

次回!首突っ込んじゃったネルにカイトの魔の手が!!その時、「あいつ」が降臨する!!乞うご期待!!

閲覧数:354

投稿日:2012/05/25 23:30:21

文字数:4,417文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    あのリリィが押されてる………この世界、どんどん強くなっていくな~ww
    いやいや、それよりもグミちゃんも怪力だなって思ったwwだって、四人を一気に担げるんだもんww

    ネルがかわええなぁww
    いや、すごすぎだけども…wそこはもうつっこまないwwww
    レン君との関係も気になるところ…ww

    2012/05/26 04:39:03

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      パワーインフレの副産物です…www
      あ!!何気なく書いてたけど確かにwww

      なるべく可愛くしました!だってそうしないと殺伐としすぎなんだもんwww主にバカイトのおかげで。
      突っ込んでたら身が持ちませんなwww(それでいいの!?
      バカイトが大騒ぎしてるおかげでいちゃいちゃはまだです!www

      2012/05/26 07:57:12

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