それは「君に会いたい」だった。
*
だんだんと蒸し暑くなってきた7月7日。大通りの看板の下には「七夕フェスティバル!」と書かれた横断幕が張られ、家族連れやカップ、または一人寂しく歩く人などでごった返していた。
楽しそうに皆笑顔を浮かべる人々の目には、一体自分達はどう映っているのだろうか。カイトは、隣の彼女と繋がれた右手にほんの少し頬を赤く染めながらふとそんなことを考えた。姉弟? 友達? それとも──カップル? 瞬間、カーッ、と頬だけでなく顔全体が赤くなってたような気がした。案の定隣の彼女は赤面のカイトを見るなり呆れたような口調で、
「何赤くなってんの、あんた。コレぐらいで赤くなるんて、これじゃあキスさえも不安ね」
「! キキキ、キス、だなんて……!」
「どれだけ動揺してんのよ! 付き合って一ヵ月経ってキスもしてないだなんてありえないわよフツー!」
「キキキッキスは大人になってからで──」
「あんたは昭和の頑固親父かァ──ッ!」
「痛い痛い痛い痛い痛い──」
繋いでいた右手をさらにギリギリと握られ悲鳴を上げるカイト。気分はまるで一瞬で握り潰されたレモンだ。よくTVとかでゴツイ人がレモンを手で一気に握り潰して絞ったりするのを見かけるが、まさかそのときの気分を味わえる日が来るとは思わなかった。味わったのは右手だけなのだが。
「痛い」を繰り返すこと77回目でようやく手を離してもらった。離してもらうやスグに、赤くなった右手を蘇らせるかのように自分の息を当てた。それを何度か繰り返し、その甲斐あってか痛みが引いてきたのだった。カイトは恨めしそうな目でそっぽを向く彼女を見た。
「酷い、メイコ……」
「まあ私もやりすぎたとは思ってるけどさ──」
そこまで言いかけたときだった。追い風の突風が大通りを突き抜け、二人の髪をなびかせる。瞬間、人々の悲鳴が嫌というほどに響いてきた。それと同時に何かが倒れる音が、カイトの近くに迫ってきた。一体何が──隣の彼女にそう尋ねようとするよりも先に、背中をドンッ! と押された感覚。「──危ない! カイト!」
──背後から愛しの彼女の声が聞こえた。後ろを振り向いたと同時に、目の前でドォォンッ! と音が轟き、視界に上から柱みたいな物が降ってきた。──ちょうど彼女の上に。
それの意味を遅れながらやっと理解した頭が、一瞬で真っ白になった。嘘、嘘だ、そんなの、嘘だ──!
7月7日。
君の命日。
僕の嫌いな日。
*
カーテン越しからでも漏れる光で目を覚ました。身体をゆっくり起こして傍にあったスマホを手繰り寄せて時刻を確認すると、11時4分と遅めの時間。昨日は特に夜更かしをしていたわけでもないのにこんなにも起きるの遅かったのは、今日が君の命日だからだろうか。君が死んでしまった日になるべく起きていたくないと、身体も拒絶しているのだろうか。──ふとそんなことを考え、カイトは即座に首を横に振った。カイトの青い髪がブンブンと横に揺れる。
「…………」
何処かに遊びに行こう。カイトはベッドから降り、のそのそと着替え始めた。
カイトの好きな花色のポロシャツに、浅黄色のチノパン。
まあ、こんな感じでいいだろう。カイトはスマホと財布をズボンのポケットにしまい、物音を立てないようにゆっくりと部屋のドアを開け、玄関の様子を窺った。両親二人の家の鍵がないことから、どうやら二人は今日も仕事らしい。安堵に似た溜息を漏らすと、カイトは洗面台に行って顔を洗った。そしてキッチンのほうを除くと、自分のために母が作ったのであろう、おにぎりが3つあった。しかしカイトはそれに手をつけることもなく、家を出たのだった。
外はとても蒸し暑く、カイトは一瞬、あの日のことを思い出したのだった。
*
まず最初に訪れたのが花屋だった。
店内に入れば、フローラルな香りに溢れていた。逆にクドイとも感じてしまいそうなほどの濃厚さである。しかしカイトはそれに気づかないかのように店内をふらふらと見てまわった。見た目も濃厚な香りに負けじと、色とりどりで華やかだった。
歩いたままじっとたくさん花を見ていたカイトだったが、突然ピタッと足を止めた。そのまま、ある花をじーっと見つめ続ける。
黄色い大きな花。夏の代名詞ともいわれる──「向日葵」。植木鉢が小さいせいか花も花瓶サイズで小さかった。それでも向日葵の名に恥じぬように咲き誇っていた。
向日葵に釘付けのカイトを不思議に思い、若い女店員が恐る恐るピタリとも動かない彼に尋ねた。
「あ、あの、お客様……どうなさいましたか?」
「すいません……この花の花言葉って、何ですか?」
急にこっちを見て質問で返したカイトに、女店員は一瞬狼狽えながらも答えた。
「花言葉……ですか? 向日葵は……『あなただけを見つめます』ですが……」
「……コレ、買います」
「え? あ……ありがとうございます」
女店員は小さな向日葵を植木鉢ごと持ち上げると、レジへと向かった。植木鉢ごとビニール袋に入れてもらい、カイトはそれを手にぶら提げながら店を後にした。
*
時間の流れというものは早いもので、いつの間にか空はオレンジ色に染まり、黒い鴉が2羽、「カーッ」と鳴いた。
カイトが家に戻ってきても、まだ両親は帰ってきていなかった。一戸建ての家のため広いせいか、寂寞に似た何かがカイトを襲う。
「…………」
カイトは手洗いももせず、自分の部屋へと行くため階段を上った。
カイトの階段を上る音だけが誰もいない家に響く。
部屋のドアを開けるといつもと変わらないがらんとした風景が広がるだけだった。バルコニーの窓が開けっ放しだったため、白いカーテンが揺れ、その隙間から淡いオレンジ色の光が漏れていた。
「……ココに置くか」
誰ともなくぽつりと呟くと、カイトは透明なビニール袋から向日葵が咲く植木鉢を取り出した。ビニール袋に入れたまま歩いていたせいか、それとも太陽が沈みかけているせいか、心なしか向日葵に元気がないように見えた。
向日葵をバルコニーに置くと、カイトは黙って水をあげた。
そしてそのままベッドに横になると、カイトは眠りについたのだった。
*
「……何処だ、ココ」
そう呟いた声は、広い空間の中に溶けて消えていった。
上を見上げると、花色の空には瞬く星が散りばめられ、足元には水面が見渡す限りに広がり、桃色のスイレンがところどころに咲いている。心奪われそうなほどに、神秘的な光景だ。
それにしても、スイレンが咲いているということは結構の深さがあるはずなのに、足が浮かんでいるかのように水に浸かっていなかった。スイレンがなければ水溜まりと勘違いしていそうだ。そのうえ裸足にも関わらず冷たさも温かさも感じない。
もし一歩でも進んでしまったら、浮かんでいた足が一斉に沈んでしまうんじゃないかと、ずっと立っていたままのカイトだったが、花色の奥から誰かの人影があることに気づいた。しかもその人影はどんどんこちらに近づいてきているではないか。
「……?」
訝しげに人影を凝視するカイト。
しかし、人影がはっきりと形を帯びていくと──それは驚愕なものへと変わっていった。
「──一年ぶりだね……カイト」
「……!」
蒼い風に揺れる肩までの茶色の髪。緋色のマキシ丈のワンピース。そして優しくて、何処か儚しさを感じる笑顔。
それは紛れもない、7月7日に、カイトを庇って死んでしまった──彼女だった。
対峙する二人の頭上の花色の空に、一つの星が流れるように落ちたのだった。
【カイメイ】a wish of the pure heart,【前半】
七夕と、今日の誕生花である「スイレン(花言葉:清純な心)」のネタで書きました。だけどよく分かりにくかったり、誤字脱字なかったらスミマセン。なにせ文才がないものですから……(;ω;`)
そしてやたらと長いため、前半と後半に分けました。
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