※高校生設定です。
「はよーっす!カイト、ノート見せて!昨日出た宿題」
「おはよ。…てか自分でやってこいよ」
カイトが教室に入って来たのを見つけるや否や、カイトの机の前に座るのは、同じクラスのユウマだった。
ちゃっかり自分のノートとシャーペンを持ってきており、写す準備はバッチリだから早くと目が訴えてきている。
「ほら。担任来る前にやれよ」
カイトが机に数学のノートを置くとユウマが「サンキュ」と一言いい、カイトのノートを開いた。
綺麗な字で複雑な計算式がぎっしり並んでおり、ユウマがうめき声を上げる。
自分のノートを広げ、視線を慌ただしく動かしながらユウマはさらさらと写し始めた。
が、すぐに口を開く。
「なにこれ分からん。…てか、ホントお前器用だよな」
ユウマがノートに書き写しながら、カイトに話しかけた。
その間も視線はカイトのノートと自分のノートに行ったり来たりと、慌ただしそうだ。
「何が」
窓際の席は朝日が降り注ぎ、5月の暖かな陽気が凄く心地よい。
カイトは壁に背を預けて椅子に座り、頬杖をついてユウマを見た。
「部活と生徒会を掛け持ちしてちゃんと宿題も忘れないじゃん。すげー」
「そうでもないけど。てか生徒会毎日ないし、基本部活中心だし」
カイトが軽くため息を吐くと、ユウマが「まぁそうねー」と気のない返事をする。
もう一度ため息を吐き、持ってきたギターに目を向ける。
「生徒会の方はもうすぐ任期終わるし、そうしたら曲作るかなぁ」
「……」
一瞬の間が出来る。
高校3年になって、いよいよ受験に本格的に目を向けないといけなくなってきたのは、みんな痛いほど自覚していた。
テストと勉強という日々。
後は運動会と文化祭が大きな学校行事になるのだが、文化祭は軽音部の自分たちにとっては最後の舞台になるだろうと思う。
「…文化祭の?…あ、間違えた。カイト消しゴム貸して」
「そう。文化祭の」
そう言いながら、手を差し出してくるユウマに消しゴムを渡してやる。
ノートを見てみれば宿題の終盤あたりを写しているので、あと数分あれば終わるぐらいだろう。
「サンキュー、ってうおぉ!」
ユウマのお礼の言葉が最後は悲鳴に変わったと同時に、頭がガクンと下がる。
ユウマの頭の上には大きめの鞄が乗っており、その重さで机の上の自分のノートに衝突寸前だった。
ついでに受け取り損ねた消しゴムは、無残にも机の下に転がってゆく。
「そこ俺の席」
ワンテンポ遅れて、低い声が聞こえてきた。
「おはよ。神威」
声をかけると、ガクポは眠たそうな目を向けてくる。
カイトの言葉にガクポも挨拶を返すが、その声がいつもよりも更に低く、よっぽど眠たいみたいだ。
だが、ガクポはユウマの頭に鞄を乗っけてはいるものの、鞄から手は離していないので加減はしてやったらしい。
カイトは笑った。
「お前、早起きしてそうな感じなのに朝弱いよな。意外」
「起きれんものは起きれん」
ガクポは鞄を机の横に掛け、ユウマが移動しないので隣の机に誰もいないのを確認してから浅く腰かける。
座る前に、消しゴムを拾ってユウマに渡してやるのも忘れない。
ユウマがガクポに何かブツブツ言って、ガクポが眠そうな顔でうんうんとうなずいる。
カイトは笑みを浮かべながら窓の外を見る。
爽やかな風が髪を撫で、カイトは小さく歌を唄った。
登校途中の生徒達の姿があちこちに見え、よくある日常の光景が広がっている。
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