思い出す。レン、レン。私――あたしの幼馴染。ずっとずっと、好きだった、大切な人。思い出す。ネル、ネル。あたしの友達。ううん、親友って言っても良い。何時でも冷静な、あたしの大事な親友。思い出す。ミク姉、ミク姉。ネルの従姉妹であたし達にとっては凄く優しいお姉さん。たまに怖い時があるけど、そのギャップが面白い。
 思い出す。覚えてる、頭の中を走馬灯みたいに思い出が駆け巡る。覚えてる、思い出せる。あたしは・・・あたしは・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「レンっ!」
 もう一度、今度は叫ぶ様にリンはレンの名を呼ぶ。その事にネルは驚き、目を見開きながらその方向を見る。が、その手は携帯を高速で弄っており、直ぐに病院と繋がった。
「あ、もしもし。119番ですか? 今、目の前でクラスメイトが大型車に轢かれて・・・。場所は○○町、××公園の大通りです・・・」
 リンとレンの方から目を離さずに、だが冷静にネルは電話に答えていく。その間にもレンの体からは血が溢れ出して止まらない。血溜りが、心なしが先程よりも大きくなった気がする。
 ピッ、と一旦電話を切ると今度は学校に電話をかけた。数回のコール音の後、教員の一人の誰かが出る。
「あ、四季崎先生ですか? 一年の亞北です。咲音先生に代わって頂いても宜しいでしょうか? ・・・・・・・・・・・・あ、咲音先生ですか? 亞北です。鏡音君が、事故に遭いました。・・・はい。かなりの出血ですが・・・・・・。はい・・・・・・はい・・・・・・。分かりました。では、初音さんに伝えて下さい。それでは」
 ピッ、と電話を切り、パタン、と携帯を閉じる。そしてス、と息を吸い、ピタリと止める。ネルのその目はリンのいる場所を睨んでいた。そして少し前屈みになり、思い切り地面を蹴るとネルは走り出した。そして目の前にある柵を利用し、そのまま柵に足を乗せ、思い切り飛び上がった。ストン、とネルは見事にリンの隣に着地成功した。因みに道路の幅は三、四メートル強はあるだろうか。
「・・・ネルかミク姉じゃないと出来ないんじゃない? その芸当・・・」
「お前とレンにだって出来るだろ、多分。・・・其れよりもリン、お前・・・・・・」
 呆れた様に言うリンにネルも呆れた様に返す。が、後半の言葉には驚きが混じっていた。コクリ、とリンは頷く。
「思い出したよ。全部。・・・・・・思い出したくない、思い出し方だったけど・・・」
 そう言ってリンは横たわっているレンを見る。血溜りの中、ピクリとも動かない。ギュウ、とリンは胸元を握り締める。そんなリンの様子を辛そうにネルは見つめていたが、
「大丈夫だ、直に救急車が来る・・・。大丈夫、大丈夫だ・・・」
 そう呟きながらリンの肩を優しく抱いた。

「初音ー」
「何でしょう青マフラー」
 口調と表情はにこやかに、しかし目が笑っていない状態でミクは始音の呼びかけに応える。
「・・・その青マフラーって言うの止めてくれないかな?」
「やですねー先生。いや、青マフラー野郎」
「何か語尾に増えた!」
「で、何ですか? 青マフラー野郎」
「・・・・・・・・・・・・」
「やっだなぁ、もう。此れ位の言葉の暴力にも耐えられない様じゃぁ先生やっていけませんよ?」
「暴力って分かってるんだ! 分かってるんだ!」
「だからさっさと言えっつってんだろうがよぉ! あぁ!?」
 いい加減このやり取りに飽きたのだろう、遂にミクはブチ切れ、木刀を取り出すと其れを始音の喉元に当てる。
「すいませんでした! 御免なさい!」
「誤って済むなら警察はいらねぇんだよ! さっさと用件言いやがれ!」
「・・・・・・。鏡音君が・・・事故に遭ったそうだよ・・・。隣町の公園の大通りで・・・」
「・・・!」
 始音の言葉にミクは目を大きく見開いた。そして木刀を喉元から外す。そのまま呆然とした表情でミクは始音を見つめていた。
「レン君が・・・また・・・」
「鏡音君のご両親は今、海外にいるだろう? 初音、帰っても良いよ」
「え、でも年欠・・・」
「この緊急事態の時にそんなの関係無いだろ・・・」
 始音の言葉にミクは一瞬だけ考えた。が、
「・・・っ! 有難う御座いました! 始音先生!」
 そう叫ぶと自分の荷物を手早く纏め、そのまま昇降口の方まで物凄い速さで駆けて行った。
「・・・始めて先生付けで呼んで貰えた気がする・・・。何か不吉な事でも起こらなきゃ良いけど・・・」
 ポツリ、と始音はそう呟いたとか呟かなかったとか。

「ネルちゃん! リンちゃん!」
「ミク」
「ミク姉!」
 レンが搬送された病院にミクが駆け込むとその姿を見つけたネルとリンが立ち上がり、ミクを手招いた。ミクは二人の方に駆け寄りながらも直ぐにリンの様子が何時も通りになっているのに気が付いた。
「リンちゃん・・・。もしかして・・・」
「うん、思い出したよ・・・全部」
「但し、思い出し方はかなり最悪なパターンだったがな・・・」
 フ、と息を付いてネルはチラリと後ろを見る。“手術中”のランプが赤々と照らされていた。
「レン君・・・・・・。大丈夫なの・・・?」
「・・・思ったよりも出血は少なかったらしいが・・・打ち所が少し悪いらしい。だが命に支障は無いそうだ」
 ネルがそう説明するとミクは安心した様にホォ、と息を付いた。
「なら大丈夫なんだ・・・。良かったぁ・・・」
 ス、と胸を撫で下ろし、ミクはリンの方に向き直る。
「リンちゃんも記憶、取り戻したし。後はレン君の回復を待つだけだね」
 ミクの言葉にリンはコクリと頷いた。しかしその表情は暗い。
 ――無理も無いよね。二度あることは三度ある、て言うけど、レン君が自分の為に事故に遭っちゃったんだもんね・・・。
「リンちゃん、大丈夫だよ。ほら、レン君なんか悪運強いじゃん? 今までだって大丈夫だったんだから今回だってきっと大丈夫だよ! レン君の手術が終わって、入院する事になっても、私達、リンちゃんと一緒にいるから? ね?」
 ミクの言葉にリンはゆっくりと頷く。その瞳からは涙が零れていた。
「ど、どしたのリンちゃん!? どっか打ったの? 痛い?」
 あわあわと慌てながらリンの身体をそっと触りながらミクが言うとリンはフルフルと首を横に振るった。その度に大粒の真珠の様な涙がポロポロと零れる。
「ちっ・・・がうの・・・。あたしっ・・・いっつもいっつもミク姉とネルに頼ってばっかで・・・そんな自分が情けなくて・・・! あたし・・・何も出来てない・・・っ・・・!」
「そんな事は無い」
 そう言ったのは、ネルだった。
「リン、自分だけが何も出来てないなんて思うな。リンにはリンにしかできない事がある。レンの傍にいて良いのはこの三人の中ではリン、お前だけだ。リンにとってレンが大切なら、レンにとってもリンは大切なんだよ。目覚めた時に、レンが目覚めた時にお前がいなくちゃ、何も始まらないぞ?」
 しっかりとリンの目を見据えながらネルは言った。その言葉にリンはポカンとしながらも目尻に溜まっていた涙を拭い、
「うん!」
 としっかりとした返事を返した。

 そして、手術は成功し、レンは個室に入れられる事になった。その移動の間もレンは目を開かなかった。医者曰く
「目覚めるまで時間がかかりそう」
 との事だった。リン、ネル、ミクは三人、交代しながら病院に通ったがレンが目覚める事は無かった。とうとう学校の終業式になっても。そして、今日――――

「何か雪でも降りそうだねー」
 病室の窓から外を眺めながらミクは呟いた。空は厚い雲に覆われミクの言う通り、雪でも降りそうな天気だった。
「ホントだな・・・。・・・あ、そういえば、今日だな。リンとレンの誕生日」
「うん・・・」
 ちょっと気恥ずかしそうにリンは頷く。そう、今日十二月二十七日はリンとレンの十六歳の誕生日だ。本当なら・・・・・・・・・
「家で祝いたかったんだけどね・・・皆で」
 寂しそうに、リンは呟いた。その表情を何処か悲しげにミクとネルは見つめる。と、不意にミクが
「あっ!」
 と声を上げた。
「なっ・・・何だよ急に。驚かせるな・・・」
「あはは、ごめんごめん。ちょっと喉渇かない? 飲み物買ってくるよ!」
「あ、ならあたしが・・・」
「だ~め! リンちゃんはレン君と一緒にいなさい! じゃ、ネルちゃん、付き合って」
「応」
 ス、とネルとミクは立ち上がり、そのまま病室を去って行った。病室にいるのは、リンとレン、二人だけ。
「・・・なんか前にもこんな事無かったっけ・・・」
 少し頬を赤らめリンはそう呟く。あったようななかったような・・・。
 そしてその気恥ずかしさを紛らわせる為か、ふとレンの方を見る。白いベッドの上に寝かされていて微動だにしない。その蒼色の目はまだ開かない。ス、と立ち上がりレンの方に近付く。
「・・・馬鹿レン。早く起きなさいよ・・・。分かってんの? 今日、あたし達の誕生日なんだよ・・・? 本当ならあたしかレンの家で祝ってた筈なのに・・・皆で。待ってんだよ? ミク姉もネルも麗羅も。・・・あたしだって・・・。ずっと・・・ずっと待ってるんだからね・・・?」
 ポロリ、リンの瞳から涙が零れる。一度溢れ出すと、もう止まらない。止められない。
「本当にさ・・・。何してんの? もうやだって言ったじゃん? レンが怪我するのもうやだってあたし言ったじゃん? 何で・・・何でまたこんな風に・・・・・・」
 ポトリ、涙がレンの頬に落ちる。と、「ん・・・」と声が聞こえてきた。ハッとして直ぐに涙を拭う。レンは薄らと目を開き、数回瞬かせた後、リンの方を見据えた。
「・・・リン?」
「“・・・リン?” じゃないよ馬鹿ぁ!」
 思わずリンが叫ぶとレンは驚いた様に目を見開く。
「あんたねぇ・・・! 人がどんだけ心配したと思ってんのよ!? もう怪我すんなって言ったじゃん! 何もう破ってんのよ! 馬鹿? あんた馬鹿? どんだけ馬鹿なのよこの馬鹿レン!」
 叫ぶだけ叫び終えるとリンはハァハァと肩で大きく息をした。その様子をポカンとした表情のまま見つめていたレンだがゆっくりと上半身を起こすとそのままリンを抱き締めた。
「なっ・・・!?」
「ごめん。何時も何時も迷惑かけて。リンを悲しませたくない、悲しい顔は見たくない。でもリンが傷付くのは、リンが傷付くのを見るのは、やなんだ」
 ギュウ、とリンを抱き締める腕に力を込めながらレンは呟く。
「分かってるよ。此れは単なる俺の自己満だって。でもさ、好きな子ってやっぱ自分で護りたいじゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
 レンの言葉(特に後半部分)にリンは顔を赤く染める。と、不意にレンの腕の力が緩まり、互いに見合わせる形になる。
「リン。今更になるかもだけど、一応、言わせて。










































 好きです。もし良かったら俺と付き合ってください」


































































 レンの言葉にリンは驚いた表情をしたが、直ぐに其れを泣き顔に変えると































































「・・・・・・っ・・・・・・はいっ・・・!」































































 幸せそうに微笑みながら応えた。
































































 互いに目を見合わせ、クスリと笑い合う。そしてス、とレンの腕が伸び、リンの頬にレンの手が触れる。驚いた表情でリンはレンを見つめるとレンは優しく微笑みながらリンを見つめていた。
 リンも微笑み返すと互いの顔が近付き、そして、




















































 そんな二人の様子を見護っていたのは、空から降る雪だけだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

誕生日プレゼントは、

最高の贈り物でした。
と、言う訳で此れで私的学パロはお仕舞いです! 読んで下さった方々、本当に有難う御座います!

ただ、作品をブクマする際は何か一言lunarに声掛けして欲しいです。ブクマして下さるのは有り難いのですが。

たま~に番外編的なの出すと思いますのでその時にまたお会いしましょう。

それでは、此処まで読んで頂き有難う御座いました!

閲覧数:440

投稿日:2010/12/27 16:31:06

文字数:5,071文字

カテゴリ:小説

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