新聞に記された日付が、電子映像の端に映る日付が、私がいた世界との差を示していた。
よくできた夢だということで無理やり思考を片付ける。
しかし、一応はこの時間帯から元の時間帯への戻り方を思案した方が良いだろう。
目を閉じて大きく息を吐いた。
>>04
自分の中にある確かなことを再確認してみよう。
私がいた世界に、タイムマシーンだとかそういう時代を遡ることができるものなど存在していない。
以上、再確認終わり。
つまりどういうことか。
やはり私が未来人ということも、今いるこの場所が34年前だということも、あり得ないということだ。
――ただ、何となく感じてはいる。
ここが自分のいた場所とは違うのではないかと。
先ほど日付を確認するために見せてもらった新聞――私がいた場所の新聞には、写真は使われていない。
写真は写真でも、静止したものではなく、動画が張り付けられたものだ。
確かに三十数年前ならまだ動画写真ではなく、写真だっただろうが。
元いた場所に戻れるならば戻りたいとは思っていたし、その方法も探すべきだとは思ったが、想定外すぎてどう考えていいのかわからない。
やはり思考スイッチをオフにしておくべきなのだろうか。
他に頼れるものがないので自分で考えるしかない。
カイトを信じてみるのもいいかと思ったが、彼は――。
「念のため聞きますが、メイコさんはタイムマシーンやそれに代わる何かに乗ってきた、もしくは使用してきたということはないですか?」
「ないよ。もしそんなものでここへきたなら、こんなに混乱してはいない」
というように、先ほどから同じような確認ばかりを行っているカイトが、信頼に足る人物かどうか微妙なところだ。
そもそも、さすがに私がいた場所には、過去や未来へ時間移動、もしくは空間移動するような原理は解明されていないし、されていたとしても理論上のもので、実際にそんなものが造られたなどという話は聞いたことがない。
そんなものが造られたなら、世紀の大発明だとメディアが放っておくはずがないからだ。
秘密裏に造っていたとしても、それに関わった者たちが黙っているとも思えない。
それとも何か……私が実験に選ばれたとでもいうのだろうか。
――いや、それはまずない。
そうだとすれば普通、本人には知らせるものではないのか。
考えても考えても新たな謎が出てくるばかりで途方に暮れた。
目の前で未だに確認を続けているカイトの目が輝いているのを呆れたように見つめながら、簡潔にその確認作業に付き合ってやるが、正直なところそれどころではない。
しかし、目の前の彼を見ていると、どうも考えることがバカらしくなってきた。
「……君は何故そんなに楽しそうなんだ?」
青色の双眸が眩しいほど輝きながら私に微笑んでいる。
新しい玩具を見つけた子ども、というのはちょうどこんな様子なんだろうか。
「僕はそういったことに興味があるんです! こう、ロマンを感じませんか!」
「……ロマン、ね」
身振り手振りを交えながら弾けるような笑顔を見せているカイトに、ため息交じりに応える。
私に言わせれば、ロマンを感じられるのは男性だけだと思うのだが。
少なくとも、私には理解できない。
メイコさんのいた場所はどんなところでしたか。
どれぐらいこの時代から変わっていますか。
交通機関はどうなっていますか――。
次々と繰り出される質問には本当に呆れるしかない。
私にはわからなかった。
自分のことにすら興味のない私には、何故そんなに人のことについて尋ねられるのかわからない。
そうして知ったところでどうなるというのだろう。
知ってしまったことを整理して少しぐらいは考えるが、自分から人を知ろうと質問することはあまりない。
彼にはきっと、世界は輝いて見えるのだろう。
その感覚がない私には、彼の考えなどわかるわけもない。
適当に全ての質問に答えたところで、興奮がようやく収まってきたらしいカイトが冷静な視線を投げかけてきた。
「少し気になっていたんですが」
もう質問は終わったと思っていたのに、とうんざりしながらカイトの双眸を見据える。
思わずぎくっとした。
それが、今までの輝きに満ちていた目ではなく、真摯な目だったからだろう。
逃げることもせず、ただその言葉の続きを待った。
「メイコさんは、何事にも無関心すぎませんか?」
真っ直ぐな視線が、本当にわからない、と疑問の色を浮かべている。
無関心と言われ、まさしくその通りだと心の中で肯定した。
そう、昔から私はそうだった。
記憶というものにすら執着できず、親にも特別な思いを抱いているわけではない。
他人が同じ屋根の下で暮らしていることに嫌悪感を抱かないのもそのおかげだろう。
親ですら私は他人だと思っている。
目の前にいるカイトももちろん他人だし、これといった興味の対象でもない。
父は、そういうことは『寂しい』と言う。
カイトもそう言うのだろう。
「世界は実に空虚だよ。退屈でつまらない。面白味の欠片もない」
私の目に映るカイトが悲しそうな顔をしていた。
何を考えているのかと思ったが、すぐに考えることをやめた。
そんなことは無駄でしかない、と。
>>05
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自称神の戯れ言に耳を貸すな
ヤツらの甘い言葉に惑わされるな
自分の正しさを武器にして
あらゆる愚行に異議を唱えても
結局自分も同じ穴のムジナだから
考え過ぎて馬鹿になってはいけない
所詮僕らは人間だ
硝子の破片を丁寧に拾っていては
誰だって生きづらいだろう...publicdomain
Kurosawa Satsuki
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