期待の中、僕らは生まれた。
祝福してくれるのは教会の鐘のみ。
双子は不吉だ、とか
男はいらない、とか
大人達の勝手な都合で
僕の存在は消えたはずだった。
だけど僕を召使として
母様が城に残してくれた。
それがリンの身代わりだと
知っても、僕は嬉しかった。
「例え世界の全てが
リンの敵になろうとも
僕が絶対に守るから
だからずっと笑っててね?」
「うん!」
その日から僕はリンと
同じになるように努力した。
髪は伸ばし、化粧も練習し
ドレスの着方を覚え
リンの好みを覚え なにから
なにまで全てリンになった。
リンにはサラシを巻き
胸が成長しないようにした。
可哀相だけど、僕は男だから
仕方ない事だった。
それから数年経った頃
隣の国に行ってみたい、と
リンが言い出した。
僕はもう身代わりとして
既に使われていた為
リンの代わりに外国に
行ったりしていた。
その為、リンは外国は疎か
外に出る事も数える程しか
なかった。
そんなリンの願いを叶える為
僕は連れて行く事にした。
隣の国なら治安も良いし
きっと大丈夫だと思って。
「レン!早くっ!」
「待ってよリン!」
リンは凄くはしゃいで
スキップするくらい
ルンルンで街中を駆け回った。
そんなリンを見て、僕は
とても嬉しくなった。
街の半分を回った頃
僕は走っていたせいで
懐中時計を落としてしまった。
「はい、これ」
拾ってくれたのは
緑の国の王女様。
優しげな声と笑顔に
一目で僕は恋に落ちた。
だけど隣には青の国の
王子が居た。
‥‥リンが想いを抱いている
青の国の王子が。
「レンーっ?‥‥!」
そこに運悪くリンが来た。
僕は緑の国の王女に礼も
言わず、リンの手を掴み
一目散に走り出した。
「ねぇ、なんで?
どうして私じゃないの‥!?」
「リン、落ち着いて」
なんとか城まで連れて帰る事が
出来たけれど
リンは涙をボロボロと零し
精神が不安定になっていた。
「緑の国を滅ぼして」
「‥え?」
「あの女を消すのよ。出来るわよね、レン‥?」
「‥‥仰せのままに」
リンの望みは僕の望み、
そう自分に言い聞かせて
芽生えた恋心に気付かない
ふりをし、
僕は良く切れるナイフを持ち
緑の国に向かった。
緑の国は今日も笑顔溢れる
優しい国だった。
それを壊すのは辛いけれど
リンの命令は絶対。
堅く決意したそのとき、
「あ、こないだの」
「‥!?」
今から探すはずだった王女が
目の前に現れた。
途端に胸の鼓動が早くなった。
恋からか暗殺するからか
どちらで早くなったのかは
わからない。
けれど異常にドキドキした。
「よかったらお茶でもいかが?」
ふわりと微笑んだ王女に
僕は思わず頷いてしまった。
王女に誘われ着いた場所は
森の奥の小さな所に
必要最低限の物が置いてある
木漏れ日が綺麗な場所だった。
「普段は青の国の王子様しか
入れないけれど、貴方は特別!
ふふっ」
そんな大事な場所に
どうして僕を入れてくれたのか
疑問に思いながらも期待を抱き
お茶をご馳走になった。
「ご馳走様、ありがとう」
「いいえ。また来てね♪」
王女をこれから暗殺する僕に
とってその言葉は
心に大きな穴を空けた。
僕の中で決意が揺らぎ始めた。
「どうしたの?」
「‥ごめんなさい‥っ」
シュッ----
僕はいきなり王女の首を
ナイフで切った。
王女は叫ぶ間もなく
息絶えた。
きっとこれ以上過ぎたら
僕は殺せなかっただろう。
コレデリンノ望ミヲ
叶エラレル‥‥
嬉しい事のはずなのに
何故か涙が溢れてきた。
何故か心の穴が広がっていた。
何故か悲しくて悲しくて
涙が止まらなかった。
その後僕はどうにか城に帰った。
そして軍に命じた。
「緑の国の王女は死んだ。
今後どうなるかわからない。
"今のうちに消せ"」
‥と。
軍はすぐに攻め込んだ。
緑の国はあまりにも弱く
いとも簡単に壊滅した。
「良くやったわっ、レン!」
僕は緑の国が滅んだ事を
リンに報告した。
するとリンは笑顔で僕を褒めて
くれた。
それを見た僕は一気に
心の穴が塞がれた気がした。
--ボーン、ボーン、ボーンッ
教会の鐘が3時を告げた。
「あら、おやつの時間だわ」
「今日のおやつはブリオッシュだよ」
それを聞いてリンは笑った。
無邪気に笑った。
"もうすぐこの国は終わる"
きっとそんな考えリンには
ないだろうから‥
せめて今だけでも、と
僕も一緒に笑った。
--翌日正午頃。
青の国をバックにつけた
緑の国の生き残りと
隣国の軍と思われる兵士達が
赤の兵士を先頭に攻め込んで
来たと知らせがあった。
これが報いだと言うのならば
僕は敢えてそれに逆う。
僕はリンに急いでランチを
食べさせ、当分困らない位の
食料と衣服を入れた麻袋を
用意した。
「なんでこんな物を用意してるの!?」
「落ち着いて聞いて‥?
もうこの国は終わりだ。
きっとリンは捕まってしまう。
その前に逃げるんだ」
「‥え」
「ほら、僕の服を貸してあげる。
これを着てその袋を持って
すぐ逃げて」
「‥ねぇ、レンは!?」
「大丈夫、僕等は双子だよ?
きっと誰にもわからないさ」
「まさか代わりに‥?
ダメよレン!そんなのダメ!!」
僕はリンの言葉も聞かず
手早くリンのドレスを身につけ
薄く化粧を施し、装飾品を纏った。
「言うことを聞いて、レン‥!」
「早く行くんだ‥、"レン"」
僕はリンを部屋から追い出し
新しく用意したランチを
ゆっくりと食べた。
暫くして足音が聞こえた。
どんどん近づいて来る。
僕は覚悟を決めた‥。
「‥!居たぞ、悪ノ娘!!」
「この、無礼者!」
僕は囚われ、牢屋に入れられた。
これでもうリンに危害は
及ばないはず。
こんな状況の下にも関わらず
僕は安堵した。
「お前の処刑は明日の3時だ。」
突如赤の兵士が来て僕に
そう告げた。
いよいよ殺される。
僕にはもう恐れなどなかった。
その夜 出された食事に
手も付けず 僕は死んだように
深い眠りについた。
---翌日。
召使だったせいか早くに
目が覚めてしまった。
せっかくだから、と
僕は身嗜みを最高に整えた。
そうしているうちに
いつの間にか朝の分の食事が
置かれていた。
僕はそれにも手を付けず
じっと時が過ぎるのを待った。
そうこうして2時半頃。
僕は牢屋から出され
処刑場に連れていかれた。
手を縄で縛られ ギロチンの
下枠に首をつけさせられた。
そのとき
集まった民衆が一瞬見えた。
そのなかには確かにリンが
居た。
だから僕はひそかに届くはずも
ないテレパシーを送った。
"例え世界の全てが君の敵に
なろうとも僕が君を守るから
君は何処かで笑っていて"
--ボーン、ボーン、ボーンッ
3時を告げる鐘が鳴る。
「処刑の時が来た」
「あら、おやつの時間だわ」
ザシュ‥‥ッ----
"もしも生まれ変われるならば
そのときはまた遊んでね‥"
END
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