注意
・ひとしずくPのおまけmp3と鈴ノ助さんの絵に触発されました
・絶叫系シンクロニシティ
~~~~~~~~~~~~~~
扉が開く音に、リンは振り返った。
殺風景な岩の中に佇む、金の人影。
初めて見るはずの人影にどうしようもない懐かしさを感じ、勝手に瞳が潤むのを感じる。
ずっと昔から知っていた―――彼。
―――ああ。
「見つけた」
彼は優しく微笑む。
傷だらけの体で、それでも優しく。
堪えられなくなって、瞳の端から涙が零れるのが分かる。
「―――…っ、ぁ…」
声が言葉にならない。
歌うための、声を紡ぐための自分の喉が詰まってしまったように感じる。
しかし、リンは必死に彼の名を口にした。
「…レン…!」
「会いたかった」
レンが、駆ける。彼女に向かって。
その姿から目を離せないリン。二人の目線が、交差する。
そして―――万感の思いを込めて、レンは彼女の名前を呼んだ。
「―――会いたかったよ…リンたん!」
?
聞き間違いか、とスルーしようとするリン。しかしその目から涙は既に消えていた。
それでも違和感を意識の隅に追いやり、リンは待ち焦がれていた相手に呼び掛けた。
「レン、来てくれたのね!」
「ああ、リンたんを救うためならどこにだって行けるさ」
「…うん、ちょっと待って?」
流石に二回目は見逃せ、もとい聞き過ごせない。リンは果敢にもおかしな点にツッコミを入れる。
「たん、って何?」
「舌?」
勇者は意外と天然だった。
「それはタンじゃないかなあ。じゃなくて、リン『たん』って」
「…ああ、幾ら双子って言っても初対面ではあるし、呼び捨てはまずいかなと」
「だからってなんで『たん』!?」
「可愛い萌えっ娘には『たん』付けが常識だろう?」
「いっそ呼び捨てにして」
「いいのか?」
不意にレンの眼差しが真剣なものに変わる。
再会を喜び合う明るさだけではなくその眼差しにはもっと激しい感情が籠っているのだと、瞳を向けられたリンは気付いた。
そう、それはまるで、ずっと待ち望んでいたものに手を掛けたかのような―――…
「リンたん、いや、リン」
「…レン…?」
どきん。
リンは胸の奥で鼓動が跳ねるのを感じた。
真剣なレンの瞳に、自分が映っている。
同じ青い瞳であるのに―――何故こんなに胸が高鳴るのだろう。
「俺、リンに渡したいものがあるんだ」
「…え」
「喜んでくれると嬉しいんだけど…」
ぱさ。
…
………
……………………
「…み、見てない見てない、私は何も見てない…」
「無敵のアイテム、これをスクール水着と申します」
「いやあああっ!言わないで、今気のせいだって思い込もうとしてたのに!」
「旅の間中肌身離さず持っていたんだ…戦闘中も就寝中もリンを想いながら」
「嬉しくないし、悪寒を通り越して怖いのは私だけじゃないよね?っていうか、何でこんなもの持ってるの!?」
「良く言うじゃないか。すべてがすべて勇者のもの、って」
「それ、話が違う気がする上に説明としては意味不明だよ!」
目の前の得体の知れない存在から後ずさろうとするリン。
しかしレンは流石勇者!と褒めたくなるような腕力でリンの肩を掴んで身動きを許さない。
―――これ、運命の人との邂逅っていうより、不審者に絡まれてるって言ったほうが正しい気がして来た…
本能的に強張る顔と、勝手に背中を滑り落ちていく汗。
―――どうしてこうなったの!?
頭を抱えたくなる衝動を、リンは必死で耐える。
が、レンはそんな事に構わず、手にしたスクール水着をずいっとリンに押し付けた。
良く見ると胸のゼッケンには『いちねんいちくみ かがみねりん』とある。何故平仮名なのかは、怖くて尋ねることが出来なかった。
「きっとリンのつるぺた体型に良く似合うよ」
「つ、つるぺたじゃないもん!ちゃんと胸あるからね!?」
「というわけで、さあ、レッツウェア!」
聞いちゃいない。
「帰って」
「どうしてだ、リン!」
「お願いだから帰って」
「はっ、そうか、スク水は白が良いのか!流石俺のリン、良く分かってるな。よし今すぐ買いに行こう」
「何でそうなるの!?」
「ん?これで良いのか?…良かった、喜んで貰えて嬉しいよ」
―――喜んでない喜んでない、全然喜んでない!
噛み合わない会話と話を聞かない勇者(運命の相手)に大幅に体力を削られながら、リンは泣きたくなってきた。
何が悲しくてこんな会話をしなければならないのか。自分に問いかけてみても、答えは見つからない。
「リン」
「な、何?」
「どうしたんだ?顔色が悪い。体調が優れないならそう言ってくれ」
「…あ」
あれだけとんでもない会話をさせられながらも、レンの真剣な表情にほだされそうになるリン。
そう、なんだかんだと言って、彼は自分を迎えに来てくれたのだ。幾多の困難を乗り越えて。
それを忘れてはいけない。
―――うん、多少言動が変だって、レンはレンだもの。
気遣ってくれるのは素直に嬉しい。
リンは微かに頬を染めて唇を開く。
「レン、ありが」
だが、鏡音レンはフラグ破壊に定評のある男だった。
「病気になっても、夢の『はい、あーん♪』も『俺にうつせよ』も出来る。安心してくれ」
…ある意味、かなりの勇者だとも言える。
「今決めたわ。絶対病気にはならない」
「でも、ほら」
「きゃっ!?」
急に抱き上げられ、リンは短い悲鳴を上げた。俗に言うお姫様だっこの状態だ。
腕にかかる重さを確かめるように何度か彼女を上下させ、レンが首を傾げる。
「こんなに軽いんだ、食べ物だってろくに取れてないんじゃないか?」
「…えと、普通に食べてると思うけど」
「外の奴と比べてどうかなんて分からないだろう。ああ、手も首もこんなに細くて…細……はあはあ肌もすべすべだなあ」
「お願いだからイケレンと変態を上手いこと混ぜないで!どんな態度を取って良いんだかわからない!」
「笑えば、良いと思うよ」
「そのネタはボカロですらない!でもじゃあお言葉に甘えて、アハハハハハハハ」
「…リン」
哀れむような悲しげな瞳で見つめられ、リンは乾いた笑いを止めた。
―――は、恥ずかしい…
しかしレンにこんな目で見られるというのはなんとなく理不尽な気がするのは何故だろう。
「疲れてるんだな…そんな追い詰められたような、辛そうな顔をしないでくれ」
「……自暴自棄になってるって表現が一番近いし、そもそも誰が原因だと思ってるのかとか、いろいろ言いたいことはあるわ」
「戦いがリンの心に傷痕を残したのか。…すまない…」
「いや、そこじゃないんだけど」
「でももうそれも終わった。これからは俺のために歌ってほしい。俺のためだけに」
「…」
本来感動するべき台詞のはずだ。
そのはずなのに、何故かリンは手放しで感動する事は出来なかった。
―――言葉通りに受け取れない…
この数分で急激に「レン」のイメージが崩れてしまったリンとしては仕方のない反応だっただろう。少々切ないものを感じるが。
結果として、リンの防衛本能は正しかったと言えよう。
レンは真剣な顔のままで続けた。
「他の奴に笑いかける必要なんて、もうない。リンはこれから永遠に俺一人のものだ」
「病んだ!?」
「いや冗談だよ」
「どの辺が?」
「えーと」
「うん」
「ごめん、言ってみただけ」
「希望を見せてから突き落とすって、結構高等テクニックだよね!」
がくり。リンは脱力してレンの肩口に額を預けた。
もうトキメキやらロマンと言った素敵な感覚は完全に消え去っている。勇者と囚われの姫の巡り会いシーンの筈なのに、この残念さは一体何なのだろうか。
―――なんかもう全部どうでもよくなってきた…
人は拒絶に疲れると、次の段階として受容に向かうという。
それを実感しながらも、リンはどうすることもできなかった。
「ああ、レン、お願いだから元に戻って…」
「元に戻る?そんな、俺は初めてリンに気付いたときからずっとリンが脳内嫁だったぞ。戻るも何も、何も変わっていないんだ」
「何言ってるのか良く分からないけど、あながち使い方が間違ってない気がするのが嫌!」
確かに意識上だけで繋がっている=脳内にだけ存在するという認識であってもおかしくない。しかし明らかに何かが間違っている気がする。例えば、レンの人格とか「嫁」という単語のチョイスとか。
しかしリンの台詞をどう曲解したのか、レンはリンを地面に下ろし、微笑しながら彼女を抱きしめた。
「でも、現実(リアル)の姫(マイスウィートハニー)に辿り着けたのは、まさに…運命(ディスティニー)」
「なんでそんなにやたらめったらカタカナの振り仮名を多用するの!?」
「リン、外の世界ではこれが普通なんだ」
「…嘘…外に出たくなくなってきた…」
遂に頭を抱えるリン。
そのいろいろと限界な彼女の手をそっと掴み、レンは柔らかな笑みを浮かべた。
見返す少女が微かに浮かべた怯えを包むように、彼は愛情に満ちた表情で囁く。
「大丈夫、俺が君を守るから、君はそこで笑っていて」
「だからその台詞は話が違うんだってば!」
「だいたい合ってるだろう?」
「確かに、使い方的には間違ってない…と思うけど、やっぱりもっと根本的な何かが間違ってる気がする」
噛み合わない会話に、リンは確実に疲労していく。
一方レンはきらきらと瞳を輝かせながら、スクール水着を手に迫ってくる。
―――こんなのが楽園だなんて、嘘でしょう…!
心の中に響き渡る歎きに、リンはがくりと地面に膝をつく。
残念ながら、押し切られるのは時間の問題だった。
シンクロニシテイマス
リンちゃんの絶叫系シンクロニシティ。
微妙に筋が違うのは、なんだか二人共勝手に動いてしまったからです。そしてミクさん欠席のお知らせ。
…いや、ミクとレンの会話も考えてましたよ?
最後のミクの仮面割るシーンでのレンの叫びは「リンたんのスク水のために!」だったりとか、裏設定としてカイト兄さんの悪影響でパーティーメンバー全員がちょっとアレになってたりとか。
シンクロニシティ原作のイケレン及びリンたんとは何の関係もありません。
コメント2
関連動画0
ブクマつながり
もっと見る「リン、ケッコンしよう!」
白詰草の花冠と白詰草の指輪、そしてシーツのベール。
緑の三葉の絨毯の上で、私は頷いた。
「うん!」
本当は、結婚ってよくわからない。
したからどうなるの?って気もするし、しなくてもいいんじゃないの、って思う時もある。
でも、それがずっと手を繋いで生きていくってことなら…そ...ハッピーマリッジイエローに寄せて
翔破
駅の改札から出ると、辺りは真っ暗になっている。
家路へ急ぐ会社帰りのおじさん達を横目に見ながら、さて私も早く帰らなくちゃと肩からずり落ち気味の鞄を背負い直した。
肺に溜まった嫌な空気を深呼吸で新鮮なものに入れ替えて、足を踏み出す。ここから家までは歩いて二十分ほどで、決して近くはないけれど、留守番をし...むかえにきたよ
瑞谷亜衣
いちゃいちゃ。
いちゃいちゃいちゃ。
いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ。
いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいち...いちゃいちゃ
ルリハリヒスイ
季節がなくなるかもしれないその理由
Diamond Dust of Bellflower
まるで英国を舞台にした映画に出てくるような広場。
踏みしめる石畳は靴の音を響かせるはずなのだが、それももうない。代わりに聞こえてくるのは、ナイロン袋を丸めた時に出るものと似た、乾いた音。誰かが敷き詰めたので...【たとえばの話】季節がなくなるかもしれないその理由
+KK
「…なんかなー」
「ん?何、どうかした?」
隣に座る女の子…リンの金髪が肩に当たるのを感じながら、首を傾げた。
リンはご機嫌斜め、というか、どこか納得出来ないような顔をして俺の事を見上げて来る。
「いや、なんかレン見てると、『男女の間に友情は育たない』とかなんとか言うような迷信を信じそうになると...楽園に別れを
翔破
大学3年生。
理系の学部らしい。(頭いい!)
自称彼女ナシ。(あたしはいると思ってる)
歌のサークルに入っているらしい。(聞きたい。とても)
バイトは、コンビニと家庭教師。(あたしの)
好き、です。(片思い)
あたしの持っている、レン先生の全ての情報。
カテキョ。
「あたし、先生のことこれだけしか知...カテキョ。1時間目
cam_cam
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
まい
ご意見・ご感想
ものすごく笑わせて頂きました!!、本編シリアスな分とても楽しかったです、レンはどこでスク水を手に入れたのかなとか、ゼッケンは自分で縫い付けたのかなとか想像すると楽しいです、素敵な作品ありがとうございました
2010/09/28 03:52:58
翔破
こんばんは!笑って頂けましたか、よかったです!
書いている身なのにレンのスク水入手先については考えていませんでした…いいご意見、ありがとうございます。私もそれについて考えてニヤニヤしたいと思います。
2010/09/28 22:51:58
梨亜
ご意見・ご感想
梨亜です。す、素晴らしいです…!!
腹筋エトセトラから悲鳴が上がっていますww
リンたん大変ですね(主にツッコミ)。だけどこんなレンもありだと思います。
2010/09/02 14:34:06
翔破
なんというか…すみませんでした。
でも絶叫系シンクロニシティの方向性としては、その反応は非常に嬉しいです!
こんなレンもありだと言われて、脳内でのレンの反乱が少し収まりました。
これがうちのレンの基本スタンスです!(キリッ
2010/09/02 21:14:01