――――――――――#8

 はあ。困った事になった。亞北ネルと巡音市長が射る胡散臭そうな視線を正中線からちょっと右よりあたりに十字砲火されてる。

 「「弱音准将?」」
 「……私が、今日神威中将閣下と初対面だというのは知っていますか」

 物いいたげなハモリに対し、中央から出向してきた天才参謀弱音ハクの頭脳がフル回転する。

 「知らないな。それで?」

 亞北ネルが素っ気なく言い返す。それが狙い目だ。

 「なら私も、猫村中将とメイコ殿の交流については存じていないと言えば、ご納得頂けますでしょうか」
 「いや、その理屈はおかしい。元攻響兵の女将に上手く言いくるめられてたみたいな話で、筋が通らない」
 「ははは、中央ではつまらない話でも機密扱いになりますので」
 「言ったな。でも今日はこっちに市長が」
 「機密なら仕方ありませんね。お話はおいおい伺いましょう、とりあえず中で」
 「本日はご馳走になります」
 「おいぃ?」

 弱音ハクも経歴は生粋の軍人だが、中央勤務では任務も極めてお役所仕事である。このノリはネルよりも市長の方がよっぽど分かってるし、今ので全て通じ合った気さえする。

 「猫村閣下も既にご存知のようですが、先の戦いではご活躍なされたそうで」
 「そのように聞いています。私は直接関わっておりませんが、戦争末期には初音ミク隊の予備部隊を兼ねて西方のハルモニアで活動していたそうで」
 「おい」

 後ろから声がするが、二人は気にしない。戸口をくぐり、履物を脱いでたたきを上がる。

 「ハルモニアですか。後方は安心しろと言われていましたが、海からの脅威を心配せずに作戦を行えました」
 「ええ。戦争は数ですから」
 「あの時、撹乱作戦が失敗したのってまさか」

 ハクが後ろを振り返る。

 「ご存じなかったので?まあ、工作員は全員捕虜にしましたので」
 「あいつら、帰ってきてから何もいわねえんだけど、何した?」
 「別に。ちょっと難しい話をして、取引をしただけです」
 「ちょっと難しい話、な。よっぽどだな?」
 「ええ。当時の最高機密をそのままお知らせしました」
 「お、ま、え、は」

 恐らくネルが今でも知らない話を、その時にした。ネルが放った工作員達は精鋭であったが、能力の高さ知能の高さの故に、口は堅くならざるを得なかったろう。

 「シャーロックは手紙を解読しました。ですが、推理はまだ終わっていません」
 「何の符丁だ」

 ネルが履き物を脱ぎながら訊く。

 「まだ黙っていろという意味です。大して芸のない言葉遊びですけどね」

 言い終わると、仲居を促した。実はネルにとってもハクにとっても、メディソフィスティア戦争は継戦中なのだ。

 「てめえ、今更何があるってんだ!」

 興味はない。必要があるだけだ。巡音市長が後から付いてくるが、その足音はやや忍び足だった。

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機動攻響兵「VOCALOID」 第4章#8

なんかラスボス属性多いなー(他人事風)

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投稿日:2013/02/19 22:37:39

文字数:1,211文字

カテゴリ:小説

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