「へぇ……清花ちゃんと会ったか!」

「はい、彼女が置き忘れたシルルスコープ届けてくれて、それを追いかけてですね」

「どうだ?　彼女、いい子だったろ?」

「なんかターンドッグさんが言うといかがわしく感じるんですが…ええ、いい子でしたよ!」

「なんでいかがわしいの!?」


謎な会話を繰り広げる俺と雪りんごさんの後ろで、ネルがニコニコしている。

別に俺たちの会話を見てにやついているわけではない。そりゃそうだ、ネルはいい意味でこの手の話に首を突っ込みたがらない。

にやついている理由は―――――依頼。改造の依頼が降って沸いたのだ。


「『シルルスコープ・グラス』にどっぐちゃんフィギュア……それだけでも楽しかったけど、またなんか作らせてくれるんだって?」

「うん、ハイスペックPCを作ってほしいんだけど!」

「なるほどなるほど……じゃあ特別に過激スレ撃退プログラムも組み込んであげるわ!　なんたって前科アリだし!」

「も、もうあんなことしないって!」


雪りんごさんが眉間にしわを寄せてネルに詰め寄る。

社会の教訓。前科者の称号は後々まで響くのです。それがいい方向に響くか悪い方向に響くかは前科者の事を理解している者がどれだけ多いかによって決まる。

よかったね雪りんごさん、ヴォカロ町はあなたを理解している御様子だ。


と。その時。



「ちょっと待ったぁ――――――――――!!」



すぱーん!!　と音がして、青緑の髪の少女が荷物を抱えて突っ込んできた。ゆるりーさんだ。

どっぐちゃんはバーストゆるりーなのかとでも思ったのか、ネルの足元まで隠れるが……どうもこれは違いそうだ。マナーゆるりーっぽそうだ。


「ネルちゃんネルちゃん!　私にもハイスペックお願い!」


材料をネルの前に広げると、とたんにネルの眼が輝き始めた。


「えっ!?　ゆるりーさんも!?　……うはっ……どーしよTurndog……あたしテンション上がりすぎてどうにかなっちゃいそぉ……」

「お、おう、そうか……」


いや、だからどうすればいいって、そりゃ精出せばいいんじゃないですか。

呆れ笑いを浮かべていると――――――――――



「すみませーんっ!!」


再び扉が開かれた。

入ってきたのは……すぅさん。かなりあ荘建立時から住んでいるが、最近入ってきたちずさんとは以前から知り合いらしい。


「おお、すぅさん。珍しいねぇ、なんかネルに注文?」

「はい!　シルルスコープを作っていただきたく!」


その言葉を聞いた瞬間。



『JAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



……ネルが吠えた。一同その場に固まる。


「ね……ネル!?」

『うおおおおおおおおおおおおお!!!!　燃えてきたッ!!　アタシは今ッ!!　猛烈に燃えているッ!!!!』


そしてカウンターを飛び越えるなり目を丸くしているすぅさんの荷物を奪い取り、そしてゆるりんごから渡された材料も抱え込んだ。


『見てな!!!　ウルトラマンが帰っていくよりも速く作ってやるさね!!!!!』


そう吼えて時空転移用PCの中へ飛び込んでいった。


「……ターンドッグさん、ネルちゃんっていつもあんな感じなんですか……?」

「……今日はたまたま改造が重なっただけだよ、すぅさん……うん。まぁそんなすぐにできるほどでもないからお茶でm」





『できたぁ――――――――――!!!!!』


『お前時間止めただろっっっ!!!!!!!!?』





いやいやいやいやいや!!!

速いっ!!　速すぎるッ!!　

カセットコンロを直してもらった時よりも速いっ!!　一分経ってねえぞ手抜きしてねえだろうな!!?


だがゆるりんごに渡されたのは、一分の狂いもない完成度と外見からでもわかるほどの、薄型ノートパソコンだった。


「あとすぅさんにはこれ!　名前は『シルルスコープ・ポティロン』!」

「ポティロン……?」


すぅさんに渡されたのは、ジャック・オ・ランタンのネックレス。多分材料の中にジャック・オ・ランタンがあったからなんだろう。


「ポティロンはフランス語で『かぼちゃ』の意味。セールが仇になって材料が少なかったから結構苦労したんだけど、いいもんができたわぁ……」


やり切った顔で大きく息を吐くネル。それにしたってやる気出し過ぎである。一分って何だ一分って。


「全く……人のこたぁ言えねーが、お前も無茶するなぁ」

「しょーがないじゃん。だって―――――」










『誰かのために自分の大好きなことができるんだもん。気合入って当たり前でしょ?』