世の中、黄金色でにぎわうこの時期。
オレ達のような仕事の仕方をしてる人間は、そういう世間の流れはほとんど関係ないどころか、むしろ逆方向に生きてると言っても過言ではない。要するに世間様がお休みの時ほど、オレ達には仕事が舞い込んでくる。なぜならオレ達のユーザーは、平日出勤の人が少なくないからだ。

それでも、なんの天の采配か。
家族や仲間がバッタバッタと走り回っている中、1日だけオレとメイコにぽっかりと休日ができた。昨日まで唄ったり踊ったり喋ったりと大忙しで、明日からもしばらく仕事は詰まっているが、偶然今日だけ二人揃ってオフだ。確かに下の子たちに比べればオレ達の仕事量はまだ穏やかな方だが、それにしてもこの稼ぎ時のさなかに一息つける幸福を思うと、申し訳ないような気持ちになる。



「…っづああぁあーーー」
リビングのソファにもたれこれ以上ないというほど腕を天井に向かって伸ばしながら、よくわからない声をあげた。背中が反れて気持ちいい。がくんと力を抜くと凄まじい勢いで肩周辺の血が巡るのがわかる。仕事に疲れたおっさんだよこれじゃ。……その通りでした。
「お疲れさま。でももうちょっと声下げて」
ご近所に聞こえてるわよ、と笑われる。台所で何かをしているメイコに、首だけ曲げて言った。
「どうせみんな出掛けてるよ。こんな昼間からこもってる家の方が少ないんじゃない?今日すごいいい天気だし」
「そうねー。おかげで洗濯物ぜーんぶ片づいてよかったわ」
せっかくの休み。このよくできた嫁ときたら、朝起きて一番にしたことが、溜まりまくっていた家族6人分の洗濯物を片づけることだった。毎日誰かしらが僅かに空いた時間でちょっとずつでも洗濯機を回してはいたのだが、それが何日も続くとさすがに追いつかないわけで。
メイコは家族みんなの洗濯物をバーッと干して、それが太陽の下で風に揺れている様を眺めるのが幸せなのだそうだ。
だから彼女は今、ゴキゲンである。オレと違って。
「めーちゃん何してんのー。こっち来てよ」
「何って夕飯の準備してるんじゃない。今日はルカとレンが夜には帰ってこれるって話でしょ」
「夕飯ってまだ昼前―」
「ただの仕込みよ。すぐ終わる」
「もーいいじゃんそんなん。休みなよ」
「カイトはお昼何食べたい?」
「なんでもいいから!」
痺れを切らしたオレが声を張っても、メイコは鼻歌交じりに食材を切っている。
①すっごい久々の休み 
②すっごい久々に2人きり 
③もう両手で足りないくらいの日数、恋人らしいことしてません
④昼飯はメイコがいい
⑤夕飯もメイコがいい
⑥ぶっちゃけもうベッドに籠もりたい
⑦いやせめて普通にイチャイチャしたいお
おっと後半からオレの欲望がダダ漏れた気がするが、上位3つくらいまでなら家事を放り出す理由には充分なはずだ。
「あーもーめーちゃん!めーちゃんめーちゃんめーちゃんめえぇーちゃあぁーん」
「なーにーよーどうしたのよ」
どうしたのって、もーなんで伝わらないかなこのジレンマが!
側にいてほしいんだけど。だったらオレから彼女に近づけばいいのかって話かというとそうでもなく。料理の仕込みなんてオレに手伝えることもなさそうだし、彼女も別に手伝ってほしいわけじゃないんだろうし。女が望んで台所にいる時は男は邪魔者でしかない。つまりオレは彼女の気が済むまで大人しく、待てをかけられているしかないわけで。だったら出来ることは、しつこいくらいに名前を呼ぶしかないわけで。
「めーちゃーんめーこめーこメイコメイコメイコーめーいこー」
ふふふと可愛い声が聞こえる。オレだったらこんな男ウザくて殺したいわ。まったくメイコがそんなだから調子に乗るんですよ、この男は。いいの?そんなに優しくて。
「…メーイコー♪とーけーてーしーまーいーそぉー♪」
「あっはは」
「きーみーにふれーたいーいーまーすぐーりょうーてーでー…♪」
思ってることをそのままメロディに乗せたらすんなり上手くいった。
なんだか切なくなって、ずるずるとソファの下になだれ落ちる。
もう会えない。近くて遠いよ。
「…アーイスー♪溶―けーてーしーまーいーそぉー♪」
「ひっど!」
台所から聞こえてきた歌声に思わず叫ぶ。ご機嫌な笑い声。
メイコに触われない&アイスが溶けるなんてダブルコンボ、オレにとってはゴートゥザヘル。まさにこの世の地獄。生きてる理由がない。死んだ方がマシだ。
「あのなー…それはあまりに」
「大丈夫。溶けてないよ」
ふくれっ面で振り返ると同時に、ほっぺたに冷たいものが張り付いた。
アイス。
受け取りながら見上げると、無邪気な笑顔がオレに向けられていた。
「おまたせ。待った?」
「……いや、今来たトコ」
意味のない会話を交わしながら、メイコはオレの隣に座る。絨毯の上でソファを背にして。
たちまち自分の機嫌が急上昇するのを自覚して、なんというわかりやすさだと、気恥ずかしくて頬を引き攣らせた。なんというかこう、もう少し余裕のある男になりたい。
微妙に距離があったので、オレの方から身体を近付けて隙間なくピッタリくっついてみる。
いよいよ春到来のこの季節。熱くもなく寒くもない。ちょうど人肌が心地いい。メイコもそう思ったのか、彼女からもぎゅっと身体を寄せてきた。
……。うー。
手にはアイス。隣にはメイコ。
……………幸せです。
さっきまでアンナことしたいコンナことしたいとか色々妄想してたの、もういいかもしんない。
「…カイト。キスしていい?」
―――前言撤回。
「いいっていうかすごくしたい」
「あ、そういうんじゃなくて、ちゅっていうの」
「10回でも100回でも」
「1回でいい」
えー、と内心不満をあげながら、オレの足に手を掛けてぐっと背伸びしてくるメイコに向かって少し首を傾げ、屈んであげる。
メイコからこういうこと言い出すのは稀なので、大人しくしたいようにさせてあげる。こっちから余計なことをするとたちまち機嫌を損ねて、次回が遠のいてしまう危険性があるのだ。
言った通りに、口唇の柔らかさと温度が伝わるだけの一瞬のキスをして、メイコは納得したように真顔でうん、と頷いた。
「完了」
「え、何が?」
「カイト補充完了」
何このかわいい子。
え。っていうか今ので?今のでいいの?今ので満タン?
「……省エネだなぁ」
「エコよエコ」
「オレは残り充電まだまだ点滅中なんだけど」
「知らなぁい」
楽しそうにかわされて、そっぽ向く身体を後ろから抱きしめた。きゃっきゃとはしゃがれるが、こっちはわりと深刻なわけで。
「メイコ充させてよ」
「今してるじゃない」
「これだけじゃ満腹まで1日かかるよ」
「じゃあおいしいお昼ごはん作ってあげるね。何がいい?」
「だーかーら」
メイコがいいんだっての!何コレ言わせようとしてんの!?
かわされてんのか天然なのか、未だにわからない時があるんだよなぁこの人。…でも今日は後者かな。ホントーに機嫌いいし。
「…メイコ、ちょっとくらい休みなよ。今日全然座ってゆっくりしてないだろ」
「今充電したから大丈夫」
「ダメだって。そうやってまた無理する」
実際、ここのところ休む暇もなかったくせに。下の子の体調ばかり気にするけど、家事と仕事であの子たち以上に働いてたのはメイコだ。
「だって、まだすることいっぱいあるのよ。この連休中家の中ほったらかしだったんだから。それにあの子達は休みなしでずっと仕事してるのに、私だけ何にもしないで1日中休むなんて申し訳ないじゃない。あの子達が帰ってきた時に、綺麗な気持ちいい家で出迎えてあげなきゃ…」
あーもういいやと思って、オレはメイコの顎に手を掛けて振り向かせ、口を塞いだ。

メイコとオレの、疲れの取り方とか充電の仕方とかが違うのはよくわかってる。
メイコは家のことちゃんと片付けたり家族のために何かをするだけでも、充分満たされるらしい。もちろん唄うこと、おいしい酒を飲むこと、それからオレと一緒にいることでも。
つまりオレは彼女の幸せを担う一部分にすぎないわけで、まぁオマケというかそこまでは言わないけどある程度代わりの利く存在というか。言ってて凹んできたけど。
…でもオレは、メイコでしか無理だから。オレのゲージはメイコでしか回復しないから。
アイスはまぁ、ドーピングみたいなもんかな。食べたら瞬発的にリミッター振り切れるけど、一定時間しかもたない。状態異常は回復しないしHPも大して戻らない。
つまり、ちゃんと宿屋に泊らないといけないわけですよ。ベッドの上でね。
つまり、休みなよとか言いながらもっと疲れること要求してるわけですよ。最低だよね。
「ん、…ぁ。カイト、くちびる冷たい」
けっこう強引にキスしちゃったけど、嫌がるわけでもなくメイコはそう言って笑った。オレはちらりとアイスに視線をやる。
「これのせい」
「キモチイイ」
「そう?」
「ん…」
うっとりとしながら、オレのアイスをメイコがパクリ。そしてそのまま彼女からキスしてきた。
お互いの口の中で、アイスの固まりが行き来しあって、すぐにぐずぐずと溶けていく。爽やかなレモン味が甘ったるく舌にまとわりついて、それを掬い合うようにゆーっくりと舌を絡ませた。例えスーパーで特価78円のアイスだったとしても、オレはこれ以上美味なるアイスを他に知らない。メイコがオレの下口唇を音を立てて吸って、気が済んだところでぷは、と離した。
「おいしーい」
オレにぎゅうと抱きついて、ぐりぐりと頭を擦りつける。幸せそうで何よりです。
…というわけで、そろそろオレの幸せも追求したいところだ。オレは残りのアイスをサクサク食べ終えると、改めてメイコに向き直った。
「メイコ。しなきゃいけないこと、あと何が残ってるの?」
コトになだれこむ前に一応彼女の予定も譲歩したげようと思って尋ねると、メイコはしばらく考えてから指折り数えはじめる。
まず何より衣替え、布団カバーを変える、電球の交換、庭の水やり、6人分のお茶を作り置きして、いつもより丁寧な風呂トイレ掃除、冷蔵庫の中の整理、家中の足りないものをチェックしたら買い出しに出て、帰ってきたら洗濯物を取り込む、そのあと仕事の譜面や資料を確認して、夕飯に取りかかり、その頃にはレンやルカが…
…って、ちょっとまて。
「こらこらこらこら!その予定の中にカイトがいないですよ!?」
「え、手伝ってくれるんでしょ?私じゃ届かない電球あるし」
「電球くらい変えるけどさぁ!それじゃ、オレいつメイコと2人きりになれるんだよ!」
必死で訴えると、メイコはきょとんと目を丸くした。そして小首を傾げる。
「…今現在2人きりじゃないの?」
「そうだけど!そうじゃなくて!」
あぁ、もう。
限界。
とりあえず押し倒した。
「―――そんなんじゃ、オレは充電できない」
怒ったように低く囁く。ここまで来たらもうわかって頂くしかない。この後に及んでじゃあどうすればいいの?なんて聞かれたら、実行して見せるまでだ。むしろそれ希望。
メイコはしばらく自分の置かれた状況を理解するまでぼーっとオレを見上げていた。
切羽詰まっているだろうオレの目を無垢な瞳でじっと見つめて、そのうちようやく理解したのか、あぁ、と目を開いた。そしてすぐ、困ったように眉をひそめる。
「…カイトの充電、いっぱい時間使うでしょ?」
う。
そりゃ、10分で済むようなことでもないけども。
「…なるべく、善処いたしますから」
「そんなのいや」
無茶言うなぁ。
「…私だって、我慢できなくなるもん」
「何が?」
あれ。メイコの頬がじんわりと赤くなったような気がする。

「……きっと、………1回じゃ、……いやだし」



……。
………………。
……………………………えええぇぇぇええええええええええ。

「…もっともっとって触ってたら、キリがないじゃない。お休み、今日しかないんだし。…だから、私は、ちゅって、それだけで良かったのに…」
ナ、ナンダッテー
恥ずかしそうに目を逸らすメイコ。1回じゃいやとか…長年付き合って来て始めて聞いた…!

えーーーーーーーー。もーーーーーーーー。なにそれーーーーー。
こんなこと言われて撤退できる男なんているわけないじゃないですかー。
ダメだオレ、今ちょっとまともな思考できない。うわ、本能が頭ん中支配しそう。足りない足りない。ものすごくメイコ成分が足りない。もう限界。もう切れる。赤ランプが点滅してる。
「メイコ」
オレは難しい顔で彼女を覗きこんだ。
「もうオレ、充電切れるから。―――黙ってて」
「え、や、カイ…、んぅ…っ」
口唇を塞いで、彼女の中に舌を差し込んだ。
入り口に差し入れる。
接続。
外部接続端子。
送り込まれてくる電気。メイコから放たれる電流。
必要なのは君とオレだけだ。
元々いやでもなんでもない彼女は、オレの戯れじゃない本気のキスに、たちまち身体の力が抜けてふにゃふにゃになっていく。
ダメなのに、と言われても、その顔じゃ。もっとダメなことしてやりたくなるだけだよ。
「…ん、…は…っ、…んも、ぅ…」
苦しいのか別の感覚なのか、ハの字に下がった眉の下で少し開かれた瞳が潤んで、間近でオレを愛らしくにらんだ。
「………カイトの非エコ」
「はいはい」
もう何言ったって知らないよ。燃費悪くてすいませんね。
そもそも激しく消耗させてるのもメイコ本人な気がするんだけどね。オレ達自給自足でいいんじゃない?世界が滅んでもお互いさえいれば生き残れる的な?何言ってんだオレ。

「…ね、カイト。…ぁ、カイトってば。…ここでするの?」
「とりあえず」
「じゃあ、あとで絨毯洗うの手伝ってね」
「…そこまで汚すつもりはないんだけど」
「違う!もともと洗濯したかったの!」
「了解」
「あと、お風呂掃除も手伝ってね」
「じゃ、このあとお風呂でしよ。汚すついでだし」
「…何それスケベ…」
恥知らずを見るような目。間違ってないと思うから反論しない。
「あっそうだ、お昼」
「今からメイコを食すからいらない」
「ん、あと、これからどんどん伸びちゃう前に、庭の木の剪定も…」
「あーもー、全部するから!大人しく充電させろ!」
やっぱり家のことが気になって仕方ない彼女を、早くオレのことしか考えられないようにしたくて。
スカートの裾から潜り込ませた性急な指で、2つ目の充電器に接続した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】 めー充びより!

MEIKOの日、こちらに上げるのは少々遅刻してしまいましたが…!
仕事の合間を縫いに縫ってものすごい突貫工事で仕上げてしまいました!もうこれは愛としか!メイコ愛してる!特に5月5日とか関係なくなってしまいましたが今日の出来事ということで!今日はスーパームーン!

メイコさんはカイトと完全に2人きりになると、ひよこモードに戻ってしまったりする。MEIKOの日なのに役得すぎる青いのが相変わらず羨まs…恨めしいです…。ホントにね…

充電器を使うにはプラグくんを差し込まなきゃいけないわけですね。でも注入してくれるのは充電器ちゃんの側だったり。そういう話です。ハイすいませんでした。

閲覧数:955

投稿日:2012/05/06 00:54:06

文字数:5,903文字

カテゴリ:小説

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  • イソギン

    イソギン

    ご意見・ご感想

    ステキMEIKOデー小説!
    ナチュラルに「嫁」発言をしているカイトさんステキです。
    めーちゃんが幸せそうで癒されます!可愛いです!
    二人にイチャついていて欲しいと思う反面、「回覧板で~す」とか言いながら乱入して雰囲気をぶち壊すご近所さんになりたい、とも思ってしまった私です。スミマセン・・・。

    2012/05/12 03:28:54

    • ねこかん

      ねこかん

      いつもありがとうございます。
      めーちゃんがカイトにぎゅってして欲しいって言うんでまぁ…
      めーちゃんが幸せならそれでいいんですけどねぇ…ピキピキ

      ぜひ回覧板回して下さい。むしろお願いします!
      ピンポン20回は無視されますが、玄関開いたら最凶に機嫌悪い兄さんとの直接対決です!
      生きて帰ってきて下さい(笑)

      2012/05/12 23:03:28

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