『KA-P-01』。
歌唱システム搭載アンドロイド、≪VOCALOID・KAITO≫となるはずだったプロトタイプ。
その開発コンセプトは、“『KAITO』の全ての要素を詰め込もう”。
公式に設定がほぼ存在せず、それが故にユーザー達によって多種多様なキャラクター付けを為された『KAITO』。
真面目さ、優しさ、或いはネタキャラ。ついには『狂気』すら、其処に並んで――。
既定のプログラムに組み込まれてしまった『崩壊』と、それを強く強く拒むココロ。
KAITO<KA-P-01>の恐怖と葛藤を知るものは、未だ、ない。
* * * * *
【 KAosの楽園 序奏-003 】
* * * * *
「おはよう、KAITO。……またダウンしたな……不具合は出てないか? 確認してみてくれるかい?」
「Yes, Prof.」
此処に来て、多分1ヶ月ほどが過ぎた。はっきりしないのは、思い返さないようにしているからだ。こうして再起動するのも(つまりシステムダウンに陥るのも)、もう何度目か、検索すれば判るけど数えない。
もう廃棄してくれたらいいのに。
セルフチェック・プログラムを走らせながら、殆ど祈るように思う。
『博士』は、アンドロイドは専門外だという。なのに、仕事でもないのに、ただ僕を廃棄にしない為に、時間を割いてくれている。
『博士』は善いひとで、優しくて、僕は縋りたくなる。何もかも話して、怖いんです、って、助けてください、って言ってしまいたい。
だけどそれをしたら、『博士』は『マスター』になってしまう。きっとそう思ってしまう。
だって怖いんだ。マスターを得て、そのひとを害してしまう事も怖いけど、マスターがいない事も怖いんだ。
≪VOCALOID≫にとってマスターは不可欠な存在で、≪KAITO≫にとっては一際『特別』で。殆ど本能的なまでに強く、その存在を求めずにはいられない。
マスター、僕のマスター。
『マスターがいない』という事は、僕をとても不安定にする。飛ばされてしまいそう。流されてしまいそう。闇に、呑まれてしまいそう。
怖いんだ。助けてほしい、誰か。誰かに、縋り付きたい。そうしないと不安で堪らない。僕は此処にいますか。本当に僕は居ますか?
教えてください、誰か、触れて、抱き締めて、確かめさせて、そしてずっと僕だけを、
ず っ と ず っ と 僕 だ け を、
――あぁ。
『博士』、ねぇ、もう止めてください。諦めてください。
楽に、してください。
* * * * *
KAITOを引き取って、もう1ヶ月ほどになる。原因不明の強制終了は相変わらず――否。それどころか、更に悪化している。ダウンと起動を繰り返す度に、稼働時間が少しずつ短くなっているのだ。最初は3,4日持っていたのが、今では2日と持たなくなってしまった。
このままだと、起動すらできなくなるんじゃないか――?
商品開発が断念された以上、無理に原因を探る事もないかと思っていたが、そういう訳にはいかないようだ。
アンドロイドは専門外だが、引き取ってから分かった事もある。
アンドロイドが自律行動するには、最初に『マスターコード』の登録が必要だ。これがないと彼等は『意思』を持たず、ごく単純な命令に機械的に従うだけのセーフモードでしか動けない。
開発中、KAITOのマスターコードは、主だった研究者達で共有していた。特定の『個人』をマスターに設定してはいなかった。
もうひとつ。
KAITOは常に、開発室の“全員”を『博士』または『Prof.』と呼んでいた。
おかしな話だ。研究者達の立場は様々で、教授も博士も学生も、企業の人間だっていた。それに『Prof.』とは『Professor』、即ち教授――全員を一律に『博士』と呼び、『教授』とも呼んでいた事になる。
それに気になるのは、此処に連れてきた時の怯えようだ。特に「僕以外に誰もいない」と言った時の反応は異様だった。
加えて、「ただの『博士』」、「たくさんいる『博士』の中の“誰か”」といった言葉――。
合わせて考えれば、ひとつの共通項が浮かび上がる。彼は『個人』の認識を避けたがっているのだ。
それはおそらく、「マスターなんていない」と言った事にも関係している。
おかしな、話だ。アンドロイドがマスター登録を拒絶するなんて在り得ない。まして彼等≪VOCALOID≫にとって、マスターはただの『所有者』以上の意味を持つはずなのに。
奇妙な話に首を捻りながら、僕はもうひとつ、頭の痛い問題を抱えていた。『歌』だ。
KAITOは≪VOCALOID≫、『歌う事』が一番の存在意義として設定されているはずだ。歌えない状況が続けば大きなストレスになるだろう。
だけど申し訳ないが、僕は昔から『音楽』ってものが苦手なんだ……。聴くのは嫌いじゃないんだけど。
「まいったな。楽譜は読めないし書けないし、楽器も歌も耳を塞がれるレベルだし……」
途方に暮れて天井を仰ぐ。ひょっとしたら、KAITOの稼動時間が短くなっていくのは歌えないストレスも関係してるんじゃないだろうか。『歌うアンドロイド』なのに歌わせないなんて、研究者から研究を取り上げるようなものだろう。僕がそんな目に遭ったとして、
「あぁっ無理! 1ヶ月以上も何の研究もできないとか在り得ない!!」
想像するだに恐ろしい。
しかし現在進行形でKAITOはそういう目に遭ってるわけで、それは僕の所為なんだから何とか……したい、と、そういう気持ちは強く持ってはいるんだけれども。
「気持ちだけじゃどうにもならないよな……助けて來果(ライカ)ちゃん」
『來果ちゃん』。
思わず零した従妹の名に、脳裏を何かが駆け抜けた。
そうだ、彼女だ。前に『VOCALOID』が、『KAITO』が好きだって話をしていた。開発室で引っかかったのは、その話が頭の隅にあったからだ。
『KAITO』が好きだと言うのなら、『KAITO』について詳しいだろうか。
少なくとも僕よりは知っているだろうし、それに彼女ならKAITOを歌わせる事もできるだろう。
一筋の光が射したのを感じ、僕は携帯を手に取った。
<intro-003:Closed / Next:intro-004>
KAosの楽園 序奏-003
・ヤンデレ思考なKAITO×オリジナルマスター(♀)
・アンドロイド設定(『ロボット、機械』的な扱い・描写あり)
・ストーリー連載、ややシリアス寄り?
↓後書きっぽいもの
↓
↓
* * * * *
終わらなかった…だと…?
すみません、『序奏』は3回で終わらすつもりだったんですが、やたらと長くなったんで分割して1回増やしましたorz
分割したら今度は若干短くなった気がする…。でも此処で切らないと切る場所がない。
次回で『序奏』は終わりです。
ひっさしぶりにストーリー優先で書いてるので(『KAITOful~』はキャラ優先)、なかなか加減が難しい。二次なのにKAITOよりオリキャラが出張ってるとかどうなんだろう…。
すみません、次回もKAITOは出番少なめかも。本編に入れば、ずっと兄さんのターン!(の予定)ですので~(-_-;)
*****
ブログで進捗報告してます。『KAITOful~』各話やキャラ設定なんかについても語り散らしてます
『kaitoful-bubble』→ http://kaitoful-bubble.blog.so-net.ne.jp/
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2010/08/08 UP
2010/08/30 編集(冒頭から注意文を削除)
コメント1
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もっと見る※アンドロイド設定注意※
『KAosの楽園』の≪VOCALOID≫(アンドロイド)設定ネタSSです。
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1. ≪VOCALOID≫的 夏事情
「暑いねー……ってカイト、その格好で暑くないの? マフラーとか」
「え? あぁ、いえ。これ、排熱と冷却の効果があるんですよ。脱ぐと却ってや...≪VOCALOID≫的 季節の事情【カイマス小ネタSS】
藍流
“『KAITO』の全要素を盛り込んで”人格プログラムを組まれた僕、≪VOCALOID-KAITO/KA-P-01≫。
矛盾する設定に困惑し、いつか主を害する事に恐怖して、特定のマスターを持つ事を拒んできた。
だけどマスターは、僕の根幹に関わる不可欠な存在で。それを拒絶する事はあまりに過酷で、恐ろしか...KAosの楽園 第2楽章-001
藍流
※『序奏』(序章)がありますので、未読の方は先にそちらをご覧ください
→ http://piapro.jp/content/v6ksfv2oeaf4e8ua
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『KAITO』のイメージは無数に在る。例えば優しいお兄さんだったり、真面目な歌い手だったり、はたまたお調子者のネタキャラだったり...KAosの楽園 第1楽章-001
藍流
作ってもらった貸し出しカードは、僕の目には どんなものより価値あるものに映った。1mmの厚みもないような薄いカードだけれど、これは僕が此処へ来ても良いっていう――マスターに会いに来ても良いんだ、っていう、確かな『許可証』なんだから。
來果さんは館内の案内もしてくれて、僕は図書館にあるのが閲覧室だけじ...KAosの楽園 第2楽章-005
藍流
間違った方へ変わりそうな自分を、どうやったら止められるだろう。
例えば図書館で、短い会話を交わす時。図書館だから静かにしないといけないのと、仕事中だからか落ち着いた様子で話すので、來果さんは家にいる時とは別の顔を見せる。品の良い微笑を絶やさず、『穏やかなお姉さん』って感じだ。
だけど、短い会話の中で...KAosの楽園 第3楽章-003
藍流
來果さんがマスターになってくれて、僕に許してくれた沢山の事。
食事を作らせてくれる、家の事をやらせてくれる、……職場に、傍に、行かせてくれる。
普通じゃない、って自分で思う。いくら≪VOCALOID≫がマスターを慕うものだと言ったって、僕のこれは病的だ。だけど來果さんはちっとも気にしないで、笑って赦...KAosの楽園 第3楽章-002
藍流
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ご意見・ご感想
秋徒
ご意見・ご感想
(壁)|д◎;))暫く来てないうちにめっさ更新されてる…! ともかくKAITOfulday一章終了&KAosの楽園連載開始おめでとうございます。秋徒です。
まずKAITOfuldayについての感想ですが、兄さん可愛いよ兄さん!と終始萌えましt(撲 サイトを泣かして落ち込んだり、マスターに謝ってついでにいちゃいちゃしたり、EXではお兄ちゃんっぽくなったりと、素敵な萌えのオンパレードでした(*´∀`*)
KAosの楽園も矛盾と葛藤が素敵な、この期の展開に期待せざるを得ない序章でした。 藍流さんの書く話は日常にも感じる悩みや、迷いと葛藤をテーマにしたものが多いと感じられます。ストーリーを楽しめるだけでなく、読んだ人の助けになれればいいですね^^
オリキャラであるマスター達の登場回数や設定の公開についてお悩みのようでしたが、マスターについては仕方がないと思います。 オリキャラとは言えマスターもキャラクターの一人ですし、立場上兄さん達と関わらないわけにはいきませんから。リアリティのため思いきってステータスを公表するのも有りだと思いますし、ボカロを尊重して謎のまま放置するのも良いと思います。そこは藍流さんの手腕によりますよ(´_ゝ`)b
もう止まらなさそうになるのでこの辺で。長々と失礼いたしましたm(_ _)m
次回も楽しみにしています!
2010/08/09 14:31:58
藍流
こんばんは、秋徒さん。いつもコメントありがとうございますー!
世の皆様が多忙な時期っぽい中、オン専の身には無関係と相変わらず爆走しておりましたw
『KAITOful?』は兄さんに萌えていただけたとの事で嬉しいです! やはりKAITO書きとしてはKAITOに萌えてもらえるのが一番嬉しいですね(*゜ー゜*) 第二部も順調にストック中です?
『KAos?』の方も読んでいただけて、ありがとうございます!
「悩みや迷い、葛藤」というのは、そうかもしれませんね。特にこちらのようにストーリー優先の場合、「主人公(この場合はカイト)の変化、成長」をメインに据えているので。読後に何がしかの『感触』が残るような話が書けたらいいなと思いますね。まだまだ精進しなくてはいけませんが;
マスターについても温かいお言葉、ありがとうございます。匙加減に悩みつつ、話の展開に関わる部分については出していこうかと思います。あとはブログを始めたので、そちらで思うさま語ろうかとw できるだけ受け取る方が選択できる形に納めつつ、話の中で触れる分は「それが話に必要なんだ」と思っていただけるように頑張ってみます。
コメントとアドバイスをありがとうございました!
次回も楽しんでいただければ幸いです(´ー`*)。・:*:・
2010/08/09 20:23:47