寒い。
寒すぎる。
どうして今年はこんなにも寒いんだ。
雲に隠れてなかなか顔を出さないお天道様を恨みつつ、今日も自転車を漕ぎだした。
「あ、メイコおはよー!」
いつものように親友のルカが校門の前で声をかけてくる。
徒歩通学勢め、羨ましい。
自転車置き場から戻ってきて、「おはよ」と返しつつルカの方を見る。
何かいつもと違うと思いよく見ると、彼女の首に紫のマフラーが巻きついていた。
「ルカ、そのマフラーどうしたの」
紫という時点で大体分かったが、一応聞いてみると、
「あ、これ?なんかがっくんが風邪引くぞってくれたんだ!別に大丈夫だって言ったのに…」
さて、ここで言っておこう。
こいつら付き合ってないんだぜ。
この天然無自覚バカップルめ、さっさとくっ付いて爆発しろ。
そんなことを思いながら、私は「そ、そう、良かったわね」と曖昧な返事をした。
教室で、ルカと喋りながら朝の読書の本を用意する。
ちなみにフィンランド神話。
北欧神話とは別だから注意しよう。
と、そこへ。
「めーちゃん、今日のお昼何?」
ヒョコッと覗く青い髪。
「何の用でしょうか、カイトせ ん ぱ い」
先輩の部分を態と強調して言う。
「だーかーらー、今日のお弁当のおかずは何!?」
子供か。
ちなみに今の会話で察してくれた方もいるはずだが、何故か私は一学年上の幼馴染みであるコイツ、始音カイトの弁当を作ることになっている。
もちろんきっちり材料費は頂いているが。
黙りやがれください、と呟くと、めーちゃんが反抗期!と喚くので昼飯抜きにしますよ、と言っておいた。
。・゜・(ノД`)・゜・。って感じで戻って行った。ざまあ。
…食べ物を棄てるのは勿体無いので後で与えておいた。
全く、コイツは人の気持ちも知らないで…。
キーンコーンカーンコーン
やっと授業が終わった。
帰れる。
そう思って外に出た私に、思いがけない試練が待っていた。
風が強い。行きより寒い。
ナンテコッタ。
「panna cotta‼︎」
いきなり現れたルカが叫ぶ。
「うわああああああ!?っていうか何でパンナコッタ!?てか発音良いな‼︎」
「えへへー♪なんとなく言わなきゃいけないような気がしたの‼︎」
ルカ、そこキリッとするとこじゃない。
「そんなことより、一緒に山の葉ショッピングモール行こうよ!」
折角学校から近いんだしさ、というルカ。
私はここで初めていつもルカと一緒に帰る神威がいないことに気づいた。
どうしたのか聞けば、今日は図書委員の当番があるらしい。
暇だから行こうというルカ。しかし、
「ルカ、自転車は?」
「…取ってきマス」
どうやら考えていなかったようだ。
まあ、ルカの家から此処まで大体5分だし、大丈夫だろう。
そう判断し、急いで取って来なさいと言うと、猛ダッシュで帰っていった。
全く、ちょっとは計算して人生を送りなさい。
あ、全部神威がやってくれたからああなったのか。
そんなこんなで辿り着いたショッピングモール。
フードコートのラーメン屋に惹かれているルカ。
さっきお昼食べただろ、大丈夫かこの子。
食べ物を与えると神威に怒られそうなので、その場から退場させた。
「むぅ…。メイコ、あの服屋寄ろう!」
しばらくむくれていたルカだったが、何だか可愛らしい店を指差して言う。
そのまま引きずられるようにして店に入った。
「メイコ、これこれ!この前見つけたんだけど、メイコに似合うかなって‼︎」
手に取ったのは茶色に赤のタータンチェックのマフラー。
この店の雰囲気にしては珍しい、大人しめな色のもの。
「確かに最近寒いし…。買おうかしら」
そう言うと、ルカはそれをそのままレジまで持って行き、これくださいと店員に声をかけた。
「ちょっとルカ⁉︎自分で買うから良いわよ?」
予想外の行動に吃驚していると、
「だーめ!今日はメイコの誕生日でしょ?プレゼントに要らないものを贈るのは嫌だから、本人に確認したの」
そう言って微笑むルカが天使に見えた。
すっかり忘れてたけど、なんだよ今朝のアイツの態度。
イラっと来るわ。
ルカにお礼を言いつつ、明日の弁当本気で抜きにしてやろうと思った。
早速ルカに貰ったマフラーをして家に帰る。
すると、玄関扉の前に見慣れた青い物体。
「めーちゃん、お帰り!遅かったね」
寒い寒いと震えるソイツ。
どうやらずっとここで待っていたらしい。
風邪でも引いたらどうするのと呆れて、とりあえず家に入れた。
「あれ、めーちゃんそのマフラー可愛いね」
マフラーに気づいてサラッと褒める奴をドゴッと殴りながら。
照れ隠しだなんて絶対言ってあげないけど。
「もー…。めーちゃん酷いよめっちゃ痛い!」
「黙れ」
カイト涙目。ざまー。
…ん?
どうしてコイツは私を待っていたのだろう。
そう思ったとき、カイトが口を開いた。
「めーちゃん、いつもお弁当作ってくれてありがとう」
「どういたしまして?」
急に改まって言われたので緊張してしまう。
「それでさ、…これからもずっと、お弁当作ってくれる?」
「何言ってるの、材料費さえきっちり頂ければいくらでも作るわよ」
本当に何言ってんだコイツ。
「そうじゃなくてさ。ああもう、めーちゃんはこういうの鈍いよなぁ…。これからも僕と、ずっと一緒にいてください」
カイトはそう言って跪いて、私の手の甲に口付け、取り出したブレスレットをそっと手首に着けた。
…え?
ちょっと待てどういう事だ。
プシューッっと自分の頭から湯気が出るような感覚。
「誕生日プレゼント、気に入ってくれた?」
そんなカイトの言葉に、このアホ‼︎と返すと、あれ俺フられた⁉︎なんてオロオロしてた。ったく。
「しょうがないからずっと一緒にいてあげるわよ」
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