「リン!!」

俺は倒れかけた少女を抱きかかえる。そこで俺はこの少女がとても軽いことに気づいた。顔は蒼白で嫌な汗が出ている。俺は迷わずマントを振ってワープをした。

「リン。大丈夫ですか?」

「え…ええ。」
俺が少女をベットに横たえて、問いかけると弱弱しい声が返ってきた。ここは箱。少女の家。オレンジゴールド伯爵邸のリン=オレンジゴールドの部屋だった。

「し、死神様…これを、私の首に…貴方に着けて貰いたいの…」
そう言って、少女が俺に向かって伸ばした手には先ほど買った銀の首飾りが握られていた。俺はそれを黙って受け取ると少女の首にかけた。リンは笑うとそのまま寝息を立てだした。俺はそれを黙って見ていた。孤独で悲しい二人が出会いその下で過ごした太陽が沈みだす。
夕日が部屋に入る頃、荒々しく部屋の扉が開かれた。

「リン!!どこに行っていたのだ!!」
「すごい汗!」
「大丈夫ですかお嬢様!!」
入ってきたのは伯爵と医者、看護師、数人の使用人だった。

「…大丈夫。」
騒がしく入ってきた来訪者達に顔をしかめながら、リンはそう答えた。

「大丈夫な訳ありません。こんな熱で……」
医者や伯爵はそうまくし立てると、治療を始めた。昨日は手遅れだと言ったはずなのに医者は精一杯の延命はするらしい。リンはそれを迷惑そうに眺めていた。治療は困難を極め、三回目の点滴が終わる頃には時計の針は真夜中をとうに回っていた。その間俺もリンも一言も話さなかった。いや、リンは途中から眠ってしまっていた。医者が重い腰をやっと上げ、部屋の中を行ったり来たりしている伯爵に、これ以上打つ手がないと言った。伯爵は黙って頷き、明かりを落として医者達と使用人を引き連れて部屋を出ようとしたが、何かを見つけ一人部屋に残った。

「不吉だ。」
伯爵はリンを見つめてそう言った。伯爵からは見えないが俺は首をかしげた。伯爵は手を伸ばしてリンの胸元にある首飾りを持ち上げた。

「娘はこんなものを持っていなかったはずだ…。」
そう言うと、伯爵は月明かりに照らされきらきらと光っている首飾りを外してゴミ箱に放り投げた。

カンッ

軽い音がして首飾りはゴミ箱に入った。俺はそれをただ見ているしかなかった。伯爵の前では俺はただの風と変わらないような存在なのだ。伯爵はそれを見届けると部屋から出て行った。俺はそれを確認すると、真っ先にゴミ箱に向かい少しくすんでしまった首飾りを拾った。少し磨いてやらなければ…俺がお手洗いでマントの端を濡らそうと部屋から出ようとしたとしたとき、辺りに黒い霧が広がった。

「ソル…」

「ずいぶん早くターゲットを見つけたものだな。まだ、二時間もあるぜ!」
ソルはいつものように背筋が震えるような声で気楽に言ってくる。普段なら俺もそういう態度で仕事をしているのだろう。ただ、今は…
俺は窓の傍まで行き空を見上げた。死に慣れすぎていた今までが異常だったのか…少女と親しくなりすぎてしまったそれだけなのか…
今日は月が明るすぎて星があまり見えない。それでもいくつかの星は確認できた。人間は人が死ぬと星になるというらしい。それが正しいのかどうかは俺は知らない。ただ、なぜだろう…彼女と一緒にいられるのなら、星になりたいと思った。

カッチ、カッチ、カッチ…

俺は死に神

カッチ、カッチ、カッチ…

尽きることのない命と

カッチ、カッチ、カッチ…

朽ちない身体を持ち

カッチ、カッチ、カチ

命の期限を見るもの

「時間なの?」
少女が起き上がっていた。

「ええ。」
鎌を担いだ俺が言う。

「そう。」
そういって彼女が眼をつむる。
俺が鎌を振り上げる。

「きっと貴方も私と同じ 孤独で悲しい存在 でも貴方と過ごせたから 私は幸せになれたの」
少女が言う。時間がゆっくりと流れたような気がした。

カシャン…

「レン。上出来だ。次に行くぞ。」

「ああ、ソル。」
俺はマントを振る。結局返せなかった首飾りを握り締め。霧の中から俺は言う。

「死神が貴方の記憶 永久に守って差し上げましょう。」
淋しくない。

fin...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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オレンジゴールドのナイト―鎌を持てない死神の話④―

白黒Pさんの鎌を持てない死神の話(http://www.nicovideo.jp/watch/nm6630292)を勝手に小説にさせて頂きましたシリーズ、完結です。
ラストシーンは目頭を押さえながら、悩んで書きました。楽しんで頂けたら幸いです。
至らずながら、自信作であったりします。

閲覧数:221

投稿日:2011/03/25 15:45:14

文字数:1,707文字

カテゴリ:小説

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