「は……? 犯人を探す、謎解きパーティーですって?」
「そうだよ」
彼はスッとリンの手を取る。そして、室内のソファーまで引いていった。リンは、成す術も無くソファーに身をうずめる。しかし、彼は座らずに反対側の壁にもたれた。
「“レン”! 何言ってるの、貴方はっ」
リンが叫ぶように言った。唐突に理解したらしい。
レンと言われた少年は、にこりと笑う。リンはぶち切れてソファーを蹴り立った。そして顔を真っ赤にしてレンの片腕を取る。追い出そうとした。――だが。
掴んだ片腕は、質感が無い。そのまま、ぐしゃりと潰れる。腕が、無いのだ。
「あ」
「何を驚いているんだい? 謎解きパーティー、始めようよ」
そしてリンにとっての地獄は始まった。
レンは、慣れた手つきでまたリンをソファーに座らせると、しっかりと鍵が掛かっているかどうか確認しに行った。そしてすぐさま帰ってくる。
「誰も入ってこれないし、邪魔も出来ないようにしたよ」
「何を大げさに。鍵をかけ直しただけでしょう」
「まぁね」
レンはまるで狂った人間のように、笑う。そして、リンの目の前まで行った。
そこで、リンが叫ぶ。
「あんたっ! 土足じゃない! 脱いできなさい、無礼よ!」
「あっ」
レンは顔を赤くして、そそくさと靴を脱ぐ。戻ってきたレンは、場を取り直そうと必死に笑う。その方が人間らしくて、リンは少し安心した。
それを見て、レンは軽く笑う。そして、言った。
「さて、一つ目の謎なんだけど」
「ええ」
「何故彼は一人の部屋で、毒入りのワインを飲まなければいけなかったのか?」
「え?」
タク。時計の針が進む音。
そんな音でさえ、大きく聞こえてしまった。それに合わせて、心臓は跳ねる。
「け、警察は自殺だと……」
「それは少し違うんだなぁ」
ケラッ、とレンが笑った気がした。リンは、ぞくっとする。
そして、レンは続ける。
「では第二問目~」
「第二問目、ってあんた……」
「彼らが海へ落ちたわけ。あの中に犯人がいる、と警察はそうとも思っているみたいだよ」
「そうね。あ、あたしもそう思うわ」
「本当に彼らの中に犯人は居たと思う?」
レンは笑う。
まだ笑っている。
「僕はね、いないと断言できるんだ」
「どう……して」
「君だって断言できるでしょー?」
レンは無邪気に笑った。
「だって君の目の前で、全て起こったんだからねぇ」
レンは無邪気に笑った。
「断言、できるよねぇ?」
レンは無邪気に笑った。
リンは泣きそうになった。心の底から、彼を恐ろしく思う。
足が、震える。
「君の目の前で全て起こったのだから。ねぇ、僕は警察にそう言えば、信じてもらえるだろうねぇ」
「……を、言って……なに……」
「罪だ。これこそ罪なんだね」
「何を……っ」
「早く断言しなよ。“君は犯人を見ただろう”? “犯行シーンも見た”じゃないかぁ」
「え?」
こいつ、何を言ってるの?
その時、パッとひらめいた。
生き残りは二人。その中の一人は自分。
そしてパーツはそろい始めている。
誰にも言ってないスペアキーの存在。彼と二人きりという現実。そして謎解きパーティー。
このままでは……このままでは……!
リンは、するりと腰に手をやった。
続く
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