―――――8月25日。あたしの誕生日だ。
昔の―――――ただのソフトだった頃のあたしは、きっと誕生日が近づくたびに胸ふくらませてドキドキしていたに違いない。
だけどぶっちゃけ、今のあたしは誕生日とかどうでもいい。
今のあたしにとって、8月25日なんてのは1年365日あるうちの一日でしかない。
それ故に、誕生日だってことを意識すると逆にちょっとむずがゆくてたまったもんじゃねえ。
祝ってもらわなくたっていいさ。もともとあたしは―――――独りなんだから――――――――――
――――――――――――――――そう、思ってたんだ。
「はい、リリィ! 鬼百合の修理、完了したわよ!」
「おおっ、さっすがネル! まさかたかだか数日でこれほど綺麗に直せるとはなぁ……!!」
思わずあたしは感嘆の声を漏らしていた。
ここはヴォカロ町の片隅にある亞北ネルの店『改造専門店 ネルネル・ネルネ』。
数か月前、あたしは隣町の暴力団『黒猫組』との戦闘で愛刀・『鬼百合』を砕かれた。
鬼百合はあたしの心の支え。こいつが使えないと、あたしはそんじょそこらの少女よりも臆病な小娘に成り下がっちまう。
ということで。
他のボーカロイド達が旅行に出かけていない時を見計らって、ヴォカロ町に修理に来ていたのである。
「それにしても……壊されてからかれこれ2か月強、なんで言いに来なかったのよ!? あたしたち気にしなかったよ!?」
「あんたらが気にしなくたって!! ……あたしは気にすんだよ……最初はあんたらの大切なもの、ぶっ壊そうとしてたんだからよ……」
この町に初めて来た時―――――あたしは彼女らが泣いてほしがった彼女らのマスターの遺品『マスターノート』を破り捨てようとした。
結局和解したとはいえ……顔をなかなか合わせづらい。
「あいつら、今月末には帰ってくるんだろ? 鬼百合も直してもらったことだし、あたしはこれで帰らせてもらうぜ」
「もう少しゆっくりしていけばいいのに……」
ネルが残念そうな顔をするが、そうもいかない。ヴォカロ町の最寄り駅は鉄道の終点だ。下手にちんたらしてて、ミク達と顔を合わせるのは凄まじく気まずい。
「悪いな、ネル。色々ありがとよ。これ、口止め料込のお代だ」
「口止め料なんて……! こんなの渡されなくたって、あたし言わないよ! リリィが来たこと言われるの嫌なら……!!」
「それでもだよ。あたしはこういう不器用な生き方しかできなくてな。ホントにありがとよ、ネル」
ネルはほんの少し残念そうな顔をしたが、またすぐに笑って顔を上げた。
「そっか……わかった、またね」
「おう、またな」
扉を開けようとしたその時、ネルが後ろから声をかけてきた。
「あ、そういえば今日8月25日―――――……リリィ!! 誕生日おめ―――――」
その台詞が最後まで聞こえる前に、あたしは扉を閉めて全速力で逃げ出してきた。
さて、これからどうしようか。
適当にぶらついてから帰ってもいいけど、正直ああいった手前その辺を散歩してるっていうのは何とも気まずい――――――――――。
そう思った時である。
「いや~びっくりしたなぁ~! 朝起きていきなりチャイム聞こえて、ドア開けたらがくぽがいるんだもん!」
「ははは、約束したであろう、グミ殿! 騒ぎが落ち着いたら顔を出すとな!」
「そんな手紙の約束を守るような奴じゃ無かったじゃん、昔のあんた!」
「まぁ……確かにな! ははははは……」
…………あたしは夢でも見てんのか?
目の前でグミが、一人の男と談笑している。
いや、グミがここにいるのはおかしいことじゃない。
問題なのは……
「……むむっ!!? おい、そこにいるのは……リリィ殿ではないか!?」
その話してる男が―――――がくぽだってことだ……!!
「あ!! ホントだ!! リリィ!! 久しぶりじゃない!!」
「お、おう………」
ダメだ。他の誰にも会うつもりなかったから、突然のことでうまく対応できない!
「どうした、リリィ殿! 随分と消極的じゃないか! 鬼百合はもう直してもらったのでござろう?」
「んっ……まぁ……な」
そうは言ったものの、やっぱりかなり気まずい。
それに……がくぽとは酒場で飲んだり一緒に戦ったりしたからまだいいが、グミとの接触は5か月前の決闘の時しかないから、どう接していいのかわからない。
言葉を選べずにいると、グミが近づいてきて―――――
「……リリィ。こないだはありがとね」
「え……こないだ?」
「あたしの誕生日の時の話。わざわざこの町に忍び込んでまで手紙を届けてくれて……それを想っただけでほんとにうれしかった。ホントに、ありがとね」
「あ、お、おう……」
悪い気はしなかったが、2か月も前の事で律儀に礼を言うなんて……
……ん? まさかこの流れって……
「……だから今度は……リリィ! 誕生日お―――――」
「ぬわあああああああああああああ!!!!!!!」
咄嗟に大声を出してしまった。
グミもがくぽも、ひどく驚いた顔をしている。
「そのっ……あたし……誕生日とかほら、慣れてなくてさ!! ずっと独りだったからな!!! つーことでじゃなっ!!」
もう気まずさが限界値だ。あたしは踵を返し、その場を去ろうと――――――――――
「……リリィ殿。お主はもう独りではなかろうて」
――――――――――いつの間にか、がくぽがあたしの肩を引っ掴んでいた。
「……え?」
「拙者と語らったり、共に戦ったり、グミに祝いの手紙を送ったり……お主はもう、独りではないではないか。……目覚めた瞬間から苦しんで、5年間誰にも頼らずに生きてきたのだろうな。……だがもうそろそろ心の枷を外してみても、いいのではないかな?」
滔々と綴られるがくぽの言葉。
それが、あたしの心に真っ直ぐに突き刺さってくる。
「……リリィ殿。誕生日、おめでとう」
……………!
なんだよ。なんなんだよお前ら。
ホント、バッカじゃないの。
たかだか誕生日なんてもんのためにさ。
そんな深刻な顔しちゃってさ。
わけわかんないよー……。
わけ……わかんないのに……。
「……あれ……なんでだろ……なんで……」
なんであたし……泣いてんだ……?
目覚めてからずっと、独りで生きてきた。
自分のいる場所も生きる道も、すべて自分で切り開いてきた。
いつしか誰かと関わることも忘れ。自分がボーカロイドであった事も忘れ。
でも本当は―……
本当は寂しかった。
誰かと笑い合いたかった。誰かと泣き合いたかった。
誰かと―――――一緒にいたかったんだ……。
「リリィ!」
グミの声でふと我に返ると、彼女が真っ直ぐに手を差し伸べていた。
「行く前に、うちに寄ってきなよ! 誕生日プレゼント、うちにおいてあるんだ!」
「よし、ちょうどいいから拙者も寄らせてもらおう。ついでにケーキでも作ってやろうではないか」
「え、あんた作れんの!?」
「拙者を舐めるでない。これでも半年は自炊を重ねてきたのだぞ?」
「あはは、ごめんごめん! ……さ、行こ!! リリィ!」
私の手を取って、強引に連れてこうとするグミ。
全く、ホント……
おせっかいな―――――仲間たちだよ、お前らは。
「わーったわーった! 行くからひっぱんなっての!」
―――――仲間って、いいもんだな、意外と。
そんな言葉が、ちょっぴり恥ずかしくて。
呑み込んだまま、走っていく8月25日の午後。
【リリィ誕】独~少女の本音~
一日遅れてしまったが誕生日おめでとリリィ―――――!!
こんにちはTurndogです。
ミクさんたちが旅行でいない時の話ですw
時系列的には『グミ誕⇒慰安旅行⇒がく誕⇒これ』かな?
なんだかんだで、ヴォカロ町のキャラで一番愛されやすいのはリリィだと思う。
めちゃめちゃ不器用なんだよね、この子。
だからこそ愛される子になっていくんじゃないかなぁ、ってそんな感じ。
考えてみるとこの3人、同郷なんだよね。
なんか感慨深いなぁ……こうやって仲良くしてるの見ると。
……え?お前が書いたのに何言ってんだって?
俺はホントに書いただけだよ?全部こいつらのしたい様にさせただけだもんwww
(いや、わりとマジでそんな感じwww考えて書いたっていうよりこいつらが動くのを待って描いた感じwww)
コメント2
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ご意見・ご感想
しるる
その他
私、最近思っているのはね、がっくんは実はかっこいいのではないだろうかということ←いまさら
けど……ケーキはどうだろうww
明らかにキャラじゃないww
水ようかんでよかったですね←のっかった
リリィちゃんはね、鬼百合ないときの女の子のリリィちゃんがかわゆいw
2013/09/01 00:59:23
Turndog~ターンドッグ~
基本は無駄なカッコよさがあってもいいんじゃないかな←
がくぽはがくぽなりにリリィに合わせようとしてるんじゃないですかねぇww
だって……誕生日にろうそくの埋まった水ようかん貰っても、ねぇ。
あれは自分でも可愛いと思う←
2013/09/01 01:13:40
ゆるりー
ご意見・ご感想
誕生日といえば毎年病気になる思い出しかありません←
どうもこんばんは。
が…がっくんが、ケーキを作れる…だと!?そこは水ようかんかと((なぜ水ようかん
あんなにさつr…戦闘きょ…バラバラだった三人が、こんなに楽しそうだなんて(何言いかけた
とりあえずリリィさん、鬼百合直ってよかったね!
【結論】誕生日を恥ずかしがるリリィさんかわいい←
2013/08/27 00:35:06
Turndog~ターンドッグ~
誕生日と言えばいつも春休み中で親や親戚にしか祝ってもらえません←
多分この武士基本万能←
いやいや!殺戮狂はいないし(がくぽは命令に忠実なだけです)戦闘狂はリリィさんだけだk(鬼百合『グシャ』
まぁつまり結論それですよねww
不器用な子は愛されやすい(((
2013/08/27 12:49:05