――――――――――#11

 十秒後。ネルはレンにLat式ミクを制止させていた。テトがリリックコードを間違って自爆した場所だ。

 「ああくそ。ダメコンやんないとだめだ。凍結しすぎだろ!」

 本当は基地の外から重音テトを追撃しやすいポイントに移動したかったが、ヘヴンズクロスという名前の三叉路周辺数十メートルが、地面といい建物といい、ほとんど霜で覆われている。

 「こちら亞北ネル!ヘヴンズクロス地点で1小隊が遭難した!遭難地点のヘヴンズクロス周辺は重音テトの攻撃で凍結しているので車両の使用は禁止する!繰り返す!ヘヴンズクロス周辺は重音テトの攻撃で凍結しているので車両の使用は禁止する!衛生兵はヘリか徒歩で来い!あと現場の気温はかなり低いぞ、防寒服は持っていけ!司令所聞いていたか!?送れ!」

 通信機から返信が流れる。二三言で後の救護指揮を丸投げして、ネルは考え込んだ。

 「まずいな。こんなに基地荒らされると動けないぞ。どうする大佐」
 「僕に聞かれても、僕は降りて救護作業しに行きますとしか言えませんけど」
 「捕虜はどうする。お前なんか因縁あんだろ」
 「……!!!」

 黙っていようとは思っていたが、ネルはレンが捕虜について何かとんでもない情報を聞き出してると当て推量をしていた。

 「攻響兵がエコーを拾うと言っても、攻響兵はエスパーじゃない。テレパシーみたいな現象もあるが、効果は限定的だ。だから、お前がエコーを使って何か話をしたとしても、私は内容を知らない」
 「……じゃあ、なんで僕が捕虜と何か話したなんて分かるんですか」
 「舐めるな。メディソフィスティア僭主討伐戦争で唯一普通の人間として「VOCALOID」初音ミクと渡り合った工作員と言えば、亞北ネルの事だ」

 亞北ネルはLat式のコックピットを開いた。

 「お前はまだグレートコードが生きてるから、テトより先に捕虜の所にいける筈だ。場所は分かるな?」
 「……ネルさんは何のために僕を行かせようと」
 「亞北准将だ。私の勘だが、重音テトとこの襲撃の画を書いた奴は、お前の存在を計算に入れてない。かなりタイトな決め打ちで仕掛けてきた筈だ」
 「……つまり」
 「荒らすのさ。素人ぶっこんで段取りを狂わせる。どさくさに紛れて捕虜をナンパしてこいなんて、気の利かせ方はしない」
 「結局は亞北准将も軍人なんですね」
 「当たり前だ。平和に暮らしてる市民にさせられない汚れ仕事をするのが仕事だからな」
 「……」

 コックピットの開いた先には、巨大な氷柱と放射冷却で凍りついた空気が小さなブリザードを起こしている。

 「ああいうのを、人間の心に直接ぶちかますとどうなると思う?」
 「!!!!!!」
 「精神攻撃できるぞ。余裕で」

 KAGAMINERENN――――――――――ふけ風、翼持つ馬となって騎士の行く道を踏み飛ばせ!

 ネルは瞬時の判断で、レンをコクピットから叩き落した。案の定、物凄い風圧がレンめがけて集結した。

 「お前殺すぞ!明日からみっちり座学だから覚悟しとけぇ!」

 判断が遅れていれば、流石の亞北ネルもバックブラストで爆死していた。攻響兵はこういう事故をよく起こす。

 「……まあ、いい。あれでちょっとは空気が入れ替わった。対処するなら今だ」

 AKITANERU――――――――――おいハク、ヘヴンズクロス意外に状況悪いから救護活動するわ。基地の指揮頼む。
 YOWANEHAKU――――――――――ちょっと待ってください、鏡音大佐が重音テトを追っていますが。
 AKITANERU――――――――――あ?私が行かせた。
 YOWANEHAKU――――――――――あなたが何を言っているのかよくわからない。
 AKITANERU――――――――――大丈夫。あいつもエルメルトの「VOCALOID」だぜ?重音テトぐらいどうにか
 YOWANEHAKU――――――――――なる訳が!!!
 AKITANERU――――――――――まあ見てろ。中央で地図ばっか見てたお前より、現場で地図を妄想してたテロリストの方が信頼できるって分かる。
 YOWANEHAKU――――――――――な。なにを。
 AKITANERU――――――――――通信機に切り替えるぞ。

 亞北ネルは操縦席に収まって、氷柱を撤去する段取りを考える事にした。ミクは夜明けまで市の警察で警備支援だろうし、ハクも忙しくなるだろう。
 本当に鏡音レンは、単騎で重音テトとお姫様を争う事になる。ちょっと無茶振りしたと思わなくもないが、最悪のシナリオでも基地無事だからいっか♪という軍人思考で納得する事にした。

 「頑張れよ。手前の命とか矜持ぐらい、自分で面倒見て一人前なんだからな」

 心配でないと言えば嘘になるが、兵士なんかそんなもんである。それも運命じゃないか。多分。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

機動攻響兵「VOCALOID」 3章#11

がんばって熱い展開にするのです(炎)

閲覧数:70

投稿日:2013/01/21 16:04:47

文字数:2,029文字

カテゴリ:小説

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