大粒の雨粒がぼたぼたとアスファルトに水玉模様の染みを作り出すと
それはどんどん増殖し、地面をすっかり黒く染めていった。
体育館の屋根は雨音で連打するスネアドラムのように激しく打ち鳴らされて、どんよりとして湿った空気が室内を支配する。
そんな中、メイコたち生徒会メンバーは本日行われる
新生徒会選挙の準備を黙々と行っていた。
ステージの設置、投票箱、投票用紙の準備。
あとは、一日の最後の授業を一時間潰してこの体育館で立候補者であるミクとグミの演説をさせるだけである。
選挙が終わればメイコ達役員も御役御免。
つまり、いま行ってる仕事が最後の仕事なのだ。
「あっという間でござったな。この一年」
ガクポが体育館を見回し、メイコに言った。
「そうね、ちょうど一年前、私はステージで演説したのよね」
「拙者は、メイコ殿が立候補したので辞退したのでござる」
「あなたが立候補していたら、私は生徒会長じゃなかったかも」
「いえ……」
ガクポはニコリと笑顔を溢す。
「メイコ殿以外に、この学園のリーダーは考えられ無いでござる」
照れた顔をして、メイコはステージに上り
大きな机の後に立ち、体育館を見渡した。
「緊張したなー。一年前」
「メイコ殿が?」
「当たり前よ、緊張しない方がおかしいって」
「わはは」
「今なら、もっと上手く、演説できるわね……」
「え? ま、まさか……また立候補する気でござるか?」
「うーん……それは出来そうに無いから諦める」
二人は顔を見合わせてくすくすと笑う。
「でも―――」
「今回の選挙、簡単には終わらない。そんな気もするのよね……」
雨の粒は大きくなり、益々体育館の屋根を激しく打っていた。
ミクがリンに告白をした次の日からさして二人の関係は何事も無く、そして今までと変わりなく、そつなく選挙活動を進めてミクは学園中の生徒達に愛想を振りまき、リンは手際よく雑務をこなしていた。
お互いに今、一番しなければならない事が何なのか、よく理解しているのだろうが、あの日の唐突な告白をどう対処したら良いのか二人は無言の了解で保留しているかのようだった。
一方、対抗するグミ陣営は、随分と賑やかになっており新聞部の地味なメガネっ子な生徒であるグミが、生徒会選挙に出馬する事で、学園内での認知度も高まっていた。
それというのも、グミに秘書として名乗り出たミキの参謀としての手腕が思いのほか強力で、数々の小技を繰り出しているからだ。
グミの公約を分かりやすく、シンプルにまとめそれをイラストで描き学園内にポスターで貼りだす。挨拶回りとして、各部、各同好会に要望を伺いに聞きまわり、組織票の確保。放課後、拠点地である新聞部にて公開会議などをして、活動の活発さをアピールしていた。
そして、以外に効果があったのはレンとリリィの存在だった。
学園祭でミクのクラスと人気でタメを張ったカフェ。
そこでレンはメイドコスをしたおかげで学園内での認知度は非常に高くなっており、そのお陰なのか、少々堅物のグミのイメージを柔らかくしていたし、学園一の不良と噂のリリィを懐柔しているグミのキャラクターもじつは大物なのでは? などと学園内でちょっとした噂にもなっていた。
「だいぶ、手応えを感じるのだけど―――」
ミキは、グミ達にそう言い、気持ちを高ぶらせていた。
しかし、まだ足りない。と、いうのもミキは立ち回る先々で、ミクとリンの学園内での人気をイヤと言うほど感じていた。
そして、それを只の浮ついた人気だけにさせていないリンの手腕も目を見張るものだった。
リンはグミ陣営のしっかりしたマニュフェストを作成している事に気がつくと、すぐに対処。同じような完成度の高いマニュフェストを短期間で作り出したのだ。
更にリンは、ミクの「学園のお姫さま」キャラを払拭させ「真面目な事も出来るお姫さま」キャラとして上手く演出させた。
そのひとつが"メガネ作戦"。
リンはグミとは逆にマジメな女子としてわかりやすいアイコンとして
メガネをかけさせたのである。
赤いフレームのメガネはミクも気にいっており、生徒達からの評判も
上々で、ミクを知性的に見せるイメージ戦略を成功させた。
ミキはグミの地味で真面目のメガネキャラをなるべく消し去ろうと苦労したのだが、逆にミクの『真面目路線』が生徒達にわかりやすく予想以上に効果があり、生徒たちの関心がミク陣営に傾きつつある事を懸念しており「もうひとつ、手を打たなければ……」ミキはそうは思うものの、ここに来て万策尽き、頭を抱えていた。
かなり善戦してるとはいえ、やはり、圧倒的な人気を持つミクに票は流れる。
実際、どうなるかは選挙が終わるまでわからない。それでも、勝利を掴むのは現状ではやはりまだ難しいのだ。
誰も居ない新聞部の部室で、ミキは机にノートを開く。
何か打つ手は無いかと目を瞑っていた。
「ミキさん」
瞼を閉じ思いを巡らせていたミキの頭にグミの声が入り込む。
「あの……ちょっと早いけど―――。今まで本当にありがとう」
「ちょっと! ちょっとグミ先輩! まだ投票は始まってませんよ!」
グミは少し困惑の表情を浮かべたが、すぐに笑顔を作る。
「うん、ミキさん。わたし……わかってるよ。この選挙。勝つの難しいの。でもミキさんや、レン君、リリィちゃんのおかげでここまで頑張れた……。みんなと一緒に何かをやって、こんな楽しかったの、うまれてはじめてかも……。だから負けても、あなたのせいじゃない。一人で気を負わせて、ゴメンね」
最後の台詞で、ミキは目に涙の幕が張りはじめたのを感じた。
「わたしが……もっとがんばれば……」
油断すれば涙を落とす。ミキはうつむきながら瞼を閉じる。
本来、ミキは人前では殆ど泣かない気丈な性格(ワザと泣く事はあるが)。しかし、グミの優しい言葉と、選挙で勝つ現状の難しさや自分の無力さ、悔しさ、情けなさがごった煮になってさらに睫毛を強く結ぶ。グミはミキの頭を撫でると、やさしく声をかけた。
「ごめん……ごめんね。随分と無理させちゃったね」
「……そんな事……ないです……」
「もし、今日の選挙で勝てなかったとしても私、自分に少し自信が持てるようになったから、それでもう充分。ほんと……ありがとう。みんなのおかげ……だけど―――」
グミはとびきりの微笑みを込めて言った。
「ミキさんが私をここまで導いてくれたんだよ……」
グミも顔を赤らめ、瞼を強く閉じたが涙を堪えきれず、押し出された感情に目尻からついに一滴の雨粒が零れだす。
「ぐ……グミしゃん……」
ろれつが回らずミキの声が上ずる。
それをきっかけに二人は抱き合い、おいおいと泣き出した。
「……あの。何やってんのかな?まだ投票始まってないのに」
部室の扉を開けたものの、この状態にどうしたものかと少し呆れた顔を浮かべ、カイトは部室前で頭をコリコリと掻く。
「ゔぇええ~~ん。なんか感極まって……泣いひゃった」
ミキの鼻水はアゴ下まで伸びている。
「ぐすん……カイト先輩、何か用ですか? ぐすん」
グミも炭酸水の気泡のように次々と目尻に浮かぶ涙の玉をハンカチで捕まえている。
そんな様子をみてカイトは困った顔をしながらも要件を伝える。
「ああ……あのね、生徒会長から頼まれて来たんだけど、一応、今回の確認でさ。5時限目の授業を無くして全校生徒の前で候補者であるグミさんと、責任者のレン君の演説をしてもらうからその確認。で、先ほどレン君とリン君にクジを引いてもらってミクさんが先、グミさんが後に演説してもらう事になりました。グミさん陣営は準備の方、問題ないですか?」
取り繕い、グミは返事をする。
「はい。大丈夫です」
「うん、ではよろしいですね。……それと、これは個人的な意見なんだけど―――」
カイトはグミとミキを交互に見つめた。
「たぶん、君達が悲観するほど、ミクさん陣営と差があるような気はしないんだよね。まあ、上手く言えないけれど君達を見ている人たちは思いのほか、多いって事。つまり君達が頑張ってるって事をね……」
「ホントですか~? カイト先輩?」
ポケットティッシュで鼻水をぬぐうとミキは疑いの目でカイトを見る。
「うん。だから堂々と胸を張って……演説したらいいと思うよ」
真面目な話をしている最中だったのだが、年頃の男子の性なのか。
カイトは無意識なのだが、二人そろって並ぶグミとミキの胸を見比べてしまった。
グミは大きさも形も、とても良さそうでメイコの大きさに近いものがあるなと考えた。とはいえ……、実際には生ものを見た事は無いのだが。
それに比べて、ミキのはちょっとばかり残念そうである。カイトの視線に気づいたミキが指を刺しジト目で言った。
「あ。今、カイト先輩、胸を見てたでしょ! エロい!」
グミは、ぽっと顔が赤くなり、何気なく腕を組んで胸を隠す。
「うえっ! ち、違うよ! 突然なな、何を言ってるんだ君は?!」
図星である。当然カイトは慌てる。
「いえ、絶対見てました。これは後ほど生徒会長に報告させてもらおうかな~~……」
「ふぇっ! そ、それはマジ勘弁して……くだしゃい……」
ろれつが回らず恐れ慌てるカイトを見ていたら、グミもミキも思わず笑ってしまった。
メイコにはグミ陣営が緊張していたらどうにかして肩の力を抜いてあげて欲しいと頼まれていたのだが、不本意な指摘のおかげでなんとかそれは出来たようである。
「そ、そういえばレン君は?」
カイトは話を逸らしてみる。
「……あれ?そういえば、さっきまで居たんだけど?」
「自分の原稿を取りに教室に行ったのかな?」
「まあ、そのうち戻ってきますよ」
「うん、そうだね。その間に私達はもう一度、スピーチ原稿をチェックしようか」
ミキはそれに頷き、テーブルの上の原稿を手に取りグミに手渡した。
グミは原稿を頭から読み上げ、ミキはその内容に抜かりは無いか真剣な面持ちで彼女を見つめる。
その姿を見ていたら、邪魔するのも悪いと思いカイトは二回ほど手を振り新聞部の教室を出たのであった。
「カイト先輩ー!」
部室から少し離れたところで声が響く。
カイトが振り返ると部室の入り口からミキが顔を出していた。
「ありがとうございます!」
ミキはカイトに小さく手を振る。カイトも手をあげて、それに応えた。
雨でいつもより暗い廊下を歩く。
多少の雑用は残ってはいるだろうが、自分の生徒会の仕事はこれが最後なんだなと思うと、少しばかり物足りない気持ちになるカイトであった。
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