軋むベッド
生ぬるい毛布
閉まったカーテン
この上ない不健康感が咎めない2DKのam11:30は気持ちいいものではない
せっかくの休日なんだし、なんて目が向けられるかもしれないが休日にまで外を歩くなんて面倒なことは御免だ
「もう、こんな時間か」
無駄に10時間も睡眠時間をとったにも関わらず、むしろ昨日よりも重すぎる体を持ち上げるようにベッドから踏み出す
適当に顔を洗い、適当に風呂に入り、適当に朝だか昼だか区別のない飯を食べて
よく「お前はやる気のなさそうな顔をしている」と言われるがその通りだからしょうがない
適当にそのへんにあったシャツを着こなし、跳ねる寝癖を叩きつけ、溜まっているSNSを確認して
「えっ今日に限ってこんな安いとかマジかよ……」
布切れのくせに俺の存在価値より高いんじゃないかと思う服屋が駅2つ隣の店舗で半額らしい
極力外出はしたくないがしょうがない
昼前という面倒くさいの塊みたいな時間帯だが電車は空いているはずだ
大きく溜息をついて、ジャケットを羽織った
≪Lukewarm temptation≫
『あら、カイトじゃない』
聞き慣れたそれを聞いたのは、ホームで電車を待っているときだった
「こんにちは。…休日なのに、奇遇ですね」
『本当ね。昼間の私服カイトも新鮮味があるわね』
「俺の私服なんてさんざん見てるでしょう…裸まで」
『はいはいオフの日の昼間からそういうお話はやめようねーカイトくん?』
「ったく、この人は」
俺とこの人は、職場が一緒の仲だ
もっとも、俺はバーテンで彼女は週三のゲストボーカルだが
『カイト今日何しにいくの?』
「欲しい服が安く売ってるらしいのでそこを。あと適当に楽器屋でも回りますけど」
『そっかー♪』
「楽しそうですね」
この人が楽しそうにしているときは大抵何か俺にとって良くないことを企んでいるときだ
『ふふー、バレた?』
「バレたどころか顔に出てますけど。メイコさんは今日は何かあるんですか」
『うん、今出来た!』
まさかとは思うが……もしかしてそれって
「あの、もしかして俺についていくなんて『カイトについてく!』
…ですよね。
何故か彼女は目を輝かせてこちらを見ている
まるで酒でも入ったかのようだ
「昼間からまさか飲んでないでしょうね」
『そんなわけないじゃない…私が酒に強いの知ってるでしょう』
「まあそうですね…嫌というほど」
たまには酔って普段見れない姿を見てみたいものだ
だんだん入れるお酒を強くしているが、それでも一向に効果はない
本当、今度割ってないテキーラでも飲ませてみようか
「っっ…ふにゅ!?」
『なんかお仕事と話の内容変わんないわね〜〜〜もう』
「ふぁ、ふぁの、やめへくらはい」
『ふふふー♪やなこった♪』
「れんしゃひゅるんれ、はなしてくらはい」
『はいはい…私の手を握ってくれるなら離すわよ?』
「わふぁりまひたから…」
くそ。
この人はいつもこう…
「しょうがないなぁ」
そんな形だけの言葉を投げて、左手を華奢な指に絡める
「これでいいでしょ?」
『…わかってるじゃない』
「もうすぐ電車きますから」
『そうね』
実に満足そうなその表情を横目で見ながら、重なった手の温度の暖かさに少しだけ頬が緩んだ
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