『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:15


『続きまして次のプログラムはー』
出場者出入り口には参加する生徒達が集まっていた。今アナウンスされた次のプログラムの為に控えている生徒達だ。その中に選抜されたジャマ研メンバーも揃っている。
「ねぇ、何このプログラム」
凛が漣の横から不思議そうに尋ねた。それもそのはず、そこに書かれている部活対抗演目は『アナタにしゃかりき・一途にはちゃりき・どっこいロワイヤル』 これだけでは何をやるのか解ったもんじゃない。毎年この望嘉大付属高校の大体育祭には殺人的に悪魔の所業と言わしめるプログラムが1つ組み込まれている。それがどの対抗のものに組み込まれるかは当日まで実行運営にしか知らされていない。一応教師査定は入るが、それでもギリギリのアウトラインまで粘り込むのがその年の委員達の腕の見せ所になる。それ次第では内申に好い結果を残すとも言われており、作る側も血眼になって案をひねり出す。当たれば御の字というわけだ。
『目隠し組み体操の総合勝者は普通科! なおこのプログラムにおける総合得点数1位は国際交流科2年B組でした。それでは次のプログラムに移ります、お次はー』
放送は流れ、着々とプログラムは進んでいく。
ついに極悪非道の今年最大のバトルが始まろうとしていた。

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『それではルールを説明させて頂きます』
出場者が会場に並ぶ。部費獲得のため、どこの部も全員目の色が変わっている。ここで手柄をあげさえしなければ存続すら危うい弱小部なんかは特に必死さが滲み出ていた。
『スタートは各部2人ずつから。最初のコースは障害物です。障害をクリアし進むと途中パン食いコースが御座居ます。選び食べたパンの中にメモが入っていますので、同じメモの人を探してペアとなり、そこから2人3脚で進んで下さい。ちなみに用意されたパンはロシアンルーレット仕様になっており、“当たり”は1つだけです。皆様存分にお気をつけ下さいね。2人3脚で使われる繋ぎは手錠になっておりますのでご了承下さい。説明を続けます。2人3脚のまま障害物を進み、用意された箱に辿り着きましたら1つ選んで箱の中身を当てて下さい。当たればそこで手錠の鍵が渡されますので解錠して再び各個でコースを進みます。続き辿り着いた砂山の中からサイコロ2つ探して転がしてもらいます。探すサイコロは青と橙を1つずつ、サイコロ面には全部違う御題が書かれており、2つで1つの御題になるよう組み合わせてあります。出た目の御題を探し、借りて最後はそのままゴールを目指して頂きます。』
全ての説明がなされ、観覧側の生徒達がホッと胸を撫で下ろすのが雰囲気で解った。変わって出場者達は目の前に展開されているコースを眺めながら、説明を思い出してすでに生気が尽きかけていた。
「ねぇ~ぇ、何で留佳先輩が出なーいのー? 」
「この間言ってたじゃんか、今年は委員に泣きつかれたって」
「あぁ、そういえば。留佳、そんな事言ってたわねぇ」
「アイツすでに伝説のディフェンディングチャンプに祭り上げられているからな」
ジャマ研メンバーは最初から冷静だった。その横で、どうにか現実に引き戻ってきた他の部の部員達が作戦を練り始めている。
「慣れかしら・・・。他の部の人達見てると、そんなに焦らなくてもって思っちゃうのよね」
「メイ、嫌な慣れ方するなよ」
「だってぇ、ねぇ・・・」
そういって芽衣子と櫂人は観覧側に目を向ける。彷徨わせた視線の先に捉えたのは、岳歩と一緒にこちらを飄々とした表情で見ている留佳の姿だった。
「あ、漣っ。見て見て、拍先輩達見っけたよ~。お~いせんぱぁーーーい! 」
「オマエは暢気でいいなぁ」
そう言いつつも凛に付き合って漣も横で手を振っていた。
「なぁメイ。俺ら多分・・・今年も勝つな、これ」
「そうねぇ・・・。ワタシも、多分そうなると思うわ」
会話を遮る様にファンファーレが会場に鳴り響くと、
『それでは部活対抗「アナタにしゃかりき・一途にはちゃりき・どっこいロワイヤル」スタートしまーーーすっ! 』
無駄に長いバトルの始まりが明るくスピーカーの向こうから告げられた。

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―――パンッ!

スターターの空砲が放たれ、選手は一気に走り出す。ジャマ研から一番手は凛と漣。他の部は誰か1人でもゴールして点を獲得しようという計画らしく、スタートと同時に味方にすら目も向けず進んでいった。双子はというとそんな事を気にもせず2人一緒に並んで進んでいった。網をくぐりハードルを越え、平均台を渡る際のボール攻撃からはまるで曲芸師かの様にちょこまかと逃げ切り、双子は誰よりも早く同時にパン食いコースに辿り着いた。
「漣~、届かない~」
「はいはい」
漣は凛が選んだパンの前まで行くと、体を抱え上げた。凛は難無くかぶりつき、そのままモシャモシャと美味しそうに頬張った。
「おい、凛。メモまで飲み込むなよ」
「ほぉぁーぅ」
そんな凛の横で漣は自分のパンを取って食べ始めていた。どうやら2人の食べたパンは何ともないらしかった。漣が食べ終わって凛の出したメモと照らし合わせようとしていたその時、
「~~~っぐぁあぅぉあぁ! 」
「~~~っっ!?! 」
「あああああああああ!!! 」
凛と漣が目を向けると、後続の選手達が悶え苦しんでいた。
『おぉっと“当たり”を引いたのはジャマ研の名物双子っ、くじ運ですらコンビネーション抜群ですね~』
ふと漣が幾つか地に落ちたパンの欠片に気付いて目を向けると、そこにはパンの中身とは思えない程の緑や赤の中身が見えた。それらは明らかに山葵やハバネロで、物によってはそれらに口直し程度に蜂蜜が練り込まれているのが色で解った。
「・・・いやねぇだろ、これは」
さすがの漣もコレには言葉が出なかった。司会が差すところの”当たり“とは「ハズレに当たる」ということではなく、「ハズレじゃないものに当たる」という意味だったのだ。
「れぇーんーっ、メモはー? 」
「あぁ、はいはい」
運良くその“当たり”に当たった双子のメモには大きく『奇跡のブリオッシュのお味は如何? よかったな!! 』と書かれていた。

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悶絶する選手達を後ろに、双子は足に手錠をはめて息の合った2人3脚でどんどん先へと進んで行く。土管くぐりに松葉杖走り、縄梯子をのぼってビニール坂を滑り降りる。そのまま走り進むと、その先で待っていたのは9教科神経衰弱ブース。基本の9教科の問題と答えを神経衰弱するというゲーム仕立てになっている。
「漣、あれ」
「はいはい。すいません、あれ開いて下さい」
双子のあまりの潔さにパネル担当者はたじろぎながらパネルを開いていった。パネルは2種類あり、問題用と解答用が用意されていた。凛の担当は問題パネル、漣は解答パネル。単純な消去法で凛の頭がとても残念なので必然的に漣が解答に回ったのだ。最初の何回か誤解答を繰り返した後、凛が適当に遊び感覚で開いていくパネルの解答を、漣が覚えた答えのパネルを的確に当てていき、ノルマの5問がすぐに終了。双子が軽快にその場を走り進み去って行く中、パン食いコースからようやく辿り着いた死にかけの後続選手達がその後ろ姿を眩しそうに見ていた。
その先の箱の中身はナンダロなコースでは、物怖じしない凛によってあっさりと攻略し、手錠を外して競い合うでもなくゆるりと進み、砂山に辿り着いた。凛は砂遊びを心から楽しむ様にサイコロをさっさと2つ見つけて転がした。漣も続いて見つけるとすぐに賽を投げ、コーナーアナウンス担当がそれを確認し読み上げて会場に出た目の御題を流す。その間に漣はすでに観覧側に向けて走り出し、しばらくして留佳を連れて戻ってきた。
「おい、凛。連れてきたぞ」
「わぁーい! ありがとーっ、レェーン~!! 」
凛が出した目の御題は『尊敬する/荒くれ者』
「漣、何を持って私が荒くれ者に当たるんだっ。こんなにも謙虚でシオラシイというのに」
「どの口がほざきますか。さぁ、早く凛連れて行って下さい」
はしゃぐ凛と留佳を見送ってから漣は自分の御題と向き合った。

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結局1・2フィニッシュを決めたジャマ研だった。その様子を櫂人と芽衣子がゆるーい目で見守っていた。
「漣の御題も凄かったわね」
「確かにな、でもあれはないだろう」
漣が出した目は『大好きな/後輩』だった。漣はまだ1年のため、賽は振り直しとなり、出た目は『同級生』 その後、漣はゴール目指して走り出すと、ゴール向こうの凛を引っ張りだしてコースに戻りゴールしなおした。
「・・・あいつも馬鹿だよなぁ」
「へ、何が? 」
呟く櫂人の横で芽衣子が不思議そうに顔を向けた。櫂人はチラリと芽衣子を見て、すぐにまた目線を双子に戻すと、
「いや、何でも無い」
独り言だったとでもいう様に流した。
『最初のトップはジャマイカ音楽研究会でしたー! いやぁ微笑ましかったですねぇ~』
アナウンスが流れる中、櫂人が観覧側に目を走らせると、さすがの櫂人も渋面を浮かべるくらいの輝かしさで未来が物凄く活き活きとしている様が見られた。
「「せんぱぁーい、ただいまー」」
「おかえり、2人とも」
「漣、お前よくあれで反則取らなかったな」
「自分の可愛さという物を熟知しているが故の行いですよ、櫂人先輩も試されてみたら如何ですか」
「出来るわけねぇだろ」
「いやいやいけるでしょう~、無駄な色気とかで」
「・・・すすんで未来の餌食になってたまるかよ」
「ほら櫂人っ、次の選手呼ばれてるわよ」
「へーへー、解ってるよ。今行く」
「「いってらっしゃぁーーーい」」
双子に見送られる中、ジャマ研3年選手はスタートコースへと歩き去って行った。

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「櫂人先輩、こっち気付いてましたね・・・」
「えぇ・・・。本当大丈夫かしら・・・」
その頃、観覧側では拍と久美がすでに暴走し始めた未来に手を焼いて一旦形勢を立てなおそうとしていたところだった。未来は目も心もランランになりながらすでに何個目か解らないSDカードとバッテリーを器用に素早く入れ替えて撮り続けていた。
「次は先輩達ですね」
「そうね」
「・・・拍先輩、あたし・・・何か嫌な予感しかしないんですけど」
「久美ちゃんも? ・・・実は自分もなんだけど・・・」
「「・・・」」
騒ぐ未来の後ろで、拍と久美はとても心配そうに成り行きを見守るしかなかった。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:15

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

はい、気付けばまた長くなってます
これで体育祭編は終わらせようと思っていたのに・・・
えぇ気付けば中編です、何故にっっっ
途中で行き詰まり、数日置いた
内容は思い付いてはいたんだけど何でか筆が進まず;;;
ルール考える時が一番輝いている様に思う(笑
まぁでも一番書きたいのはこの次の後編だったりするのですが・・・

今回は双子メインっ!
大好きっ、大好きだ双子っ( ̄▽ ̄*)!!
反則行為にも思われる漣の行為
もう一つの展開として、全く無関係の人間が漣の御題相手で、凛に「オニイチャン」と呼んで欲しいという交渉を勝手に成立させてゴールを目指すといった案もあった
あと漣の半ズボン魅力に御題相手が悩殺される案も
・・・どう構成していいかわかんねぇし、これ以上面倒な面白さを入れるのもあれだと思って自己没しました
でも他で使えたら良いな、文化祭編ででも使うかね( ̄∧ ̄)≡3

はてさて次で終わればいいな・・・(気付けば文章が長くなってる何て事さえおこらなければ

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投稿日:2012/10/27 21:37:56

文字数:4,371文字

カテゴリ:小説

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