『ヘンゼルとグレーテル』舞台編です。キャストは以下のとおり。

 配役

 ヘンゼル:鏡音レン
 グレーテル:鏡音リン
 ゲルトルート(母親):メイコ
 ペーター(父親):カイト
 眠りの精:グミ
 朝露の精:初音ミク
 ロジーナ(魔女):神威がくぽ

 話の中身はオペラ『ヘンゼルとグレーテル』どおりに進みますが、歌詞や台詞を全部書くとだらだらしてくどすぎるため、かなり適当にはしょったりまとめたりしてありますし、書き手の趣味でアレンジした箇所もあります。まあ、『ヘンゼルとグレーテル』なので、グレーテルがヘンゼルと呼ぶ時は、日本語字幕でも割と「お兄ちゃん」になってたりしますが。

 三幕のオペラですが二幕めが短いため、第一幕と第二幕をつなげて、二幕ものとして上演されることも多いです。今回は三幕ものとして扱いました。一幕がめーちゃん視点、二幕がレン視点、三幕がリン視点になります。


 第一幕

『ヘンゼルとグレーテル』の第一幕の舞台は、一家が暮らしている家だ。幕が上がると、家の中でヘンゼル役のレンとグレーテル役のリンがお手伝いをしている。『ヘンゼルとグレーテル』なので、レンはシャツと半ズボンにジャケット、リンはブラウスにフレアスカートにベスト、更にエプロンという格好だ。二人とも実際の年齢より下の役になるけれど、オペラだと成人してる人がこの役をやるので、むしろレンとリンの方が違和感なく見えてしまう。両親役の私とカイトは、舞台裏で待機中。
「お腹空いたなあ」
「お兄ちゃんさっきからそればっかり」
 この一家は洒落にならないほど貧乏らしく、二人はここしばらくまともに食べてない不満をぼやきながらお手伝いをしている。ちなみにレンがやっているのはホウキ作り、リンがやっているのは編み物だ。
「そうは言うけど、ここのところ固いパンばっかりだったろ。今日もかと思うと気が滅入るんだよ」
「あ、それなんだけどね、お兄ちゃん。今日はミルクがあるのよ。お隣さんが特別に分けてくれたの。お母さん、帰ってきたらそれで美味しいものを作ってくれるって」
 ぼやくレンにそんなことを教えるリン。レンが見せてくれと言うので、リンはミルクの入った壷を持ってきた。レンは味見と称して壷の中に手を突っ込んだ。
「もう、ダメでしょ! それよりお手伝いを終わらせておかないと、お母さんに怒られるわよ」
 レンから壷を取り上げて、テーブルの上に置くリン。二人はお手伝いに戻ろうとするのだけれど、子供だから集中力が無いのか、結局のところそのまま遊び始める。
 最初は仲良く踊っていた二人だったけれど、そのうちに走り回って追いかけっこが始まった。ドシンバタンとすごい勢い。セット倒れなきゃいいけど。
 と、ここで私の出番。「ただいま~」と声をかけて帰宅する。「お母さん、帰って来ちゃった!」と硬直する二人。家の状態を見て目を向く私。
「あんた達ときたら……家の手伝いもしないで遊んでばっかりいて! お母さんが帰るまでにちゃんとしておきなさいって、あれだけ言っておいたでしょ!」
 ああ、なんかゲルトルートの気持ち、わかる気がする。この前私もレンとリンに家の掃除を頼んでおいて出かけたんだけど、帰って来たら二人とも掃除はほったらかしでゲームに夢中だったのよね。怒りたくもなるわ。
「だってグレーテルが……」
「だってお兄ちゃんが……」
 二人はそろって責任のなすりつけあいを始めた。ああこれも見たことのある光景だわ。
「全く……ちょっとこっちに来なさい!」
 レンの襟首を掴もうとすると、向こうが逃げ出す。私は逃げ回るレンを追い掛け回すうちに、テーブルの上のミルクの壷を引っ掛けて落として割ってしまった。引きつる私。
「ああもうっ、うまくいかないっ! あんたたち、今すぐ森にイチゴを摘みに行きなさいっ! 籠がいっぱいになるまで、帰ってくるんじゃないよっ!」
 はい、完璧に八つ当たりです。でもこういう脚本だから仕方がない。レンとリンは籠をつかんで家から駆け出して行った。
「はあ……これからどうしよう……」
 割れた壷を片付けると、椅子に座り込んで私はぼやいた。もうこの家にはまともな食料がない。お金もない。このままじゃあ一家四人飢えて死ぬか、でなければ心中(あっちの人には心中という概念はないそうだけど)するかってところ。ゲルトルートじゃなくてもため息が出るというものだ。
「ああ神様、これでどうやって子供たちを食べさせていけばいいのでしょう。私にはもうどうしたらいいのかわかりません」
 私がお祈りをしていると、「ランラララ~、ランラララ~」という歌声が聞こえてきた。父親のペーター役のカイトが帰ってきたのだ。大きな袋を手に持っている。
「ただいまっ! この家の主のご帰還だぞっ!」
 上機嫌で声をかけるカイト。前回と違って気楽な役どころなので、とても生き生きしている。私は脱力しているので、力なく「ああ、あなた……お帰りなさい……遅かったわね……」と言うだけ。
「なんだか暗いね。でも僕が持って帰って来たものを見たら元気になるよっ!」
 手にした袋の中身をテーブルの上にざーっと空けるカイト。中から出てきたのはベーコンに卵にソーセージにチーズにじゃがいも……と食料がどっさり。びっくりして立ち上がる私。
「あなたどうしたのよ、こんなにたくさん!」
「それがさあ、隣町で大きなお祭りがあるって噂を聞きつけたもんだから、ちょっと足を伸ばしてみたんだよ。そしたら案の定準備に大わらわで、あっという間にホウキがぜーんぶ売れちゃったんだ!」
 誇らしそうにカイトが胸を張る。私は「きゃ~っ、あなたすてき!」と叫んでカイトに抱きついた。そのまま手を取って二人で喜びのダンスを踊る(くどいようだけどこれも脚本)
「じゃあこれ早速料理するわね。ああ、久しぶりのご馳走だわ……」
 エプロンを手に取る私。カイトは家の中をきょろきょろと見回して、首をかしげている。
「ねえ、子供たちはどうしたの?」
「あっ……忘れてたわ」
 忘れたてたはないでしょ、ゲルトルート。
「お手伝いもしないで遊んでばかりいたから罰として、森にイチゴ摘みに行かせちゃったのよ。そのうち戻ってくるでしょ」
 罪悪感をごまかしたいとしか思えない台詞だわ。一方でカイトは唖然とした表情になる。
「ちょっと待ってよ! 子供たちだけで森に行かせたの!?」
「ええ、だって、すぐそこじゃない」
 カイトは私の両手をぎゅっとつかんだ。
「そんな、ダメだよ! 知らないのかい? あの森には魔女がいるんだよ!」
「魔女? ってあなたそんなおとぎ話じゃあるまいし」
 カイトは真剣そのものの表情で話し始める。音楽も暗いシリアスなトーンになる。
「本当にいるんだよ! 邪悪で恐ろしい、ホウキに乗って空を飛ぶ魔女が」
 話しながら、カイトは置いてあったホウキ(多分売り物)を手に取った。それを振り回しながら話を続ける。
「魔女はお菓子でできた家に住んでいて、それで子供をおびき寄せるんだよ。大きな魔法のオーブンを持っていて、それに捕まえた子供を入れて焼くと、子供はクッキー人形に変わってしまうんだ。それを晩御飯に食べちゃうんだよ!」
 これの原作であるグリム童話では、魔女は単に子供を丸焼きにしていたんだけれど、このオペラの製作者は「それではグロすぎる」と判断したらしく、ずいぶんとファンシーな味付けがされている。両親も子供を捨てるんじゃなくて、お仕置きでイチゴ摘みに行かせただけだし。
「じきに暗くなるよね。なのにまだ戻ってこない」
「……どうしよう」
 私はがたがたと震えだす。森に魔女が住んでいることを知らなかったあたり、ゲルトルートはこの辺の出身じゃないのかもしれない。
「あの子たち探しに行ってくる!」
 エプロンを外して私は駆け出す。後ろからカイトが「待って、僕も行く!」と後を追ってきた。家が無人になったところで、第一幕は終了。幕が降りる。


 第一幕が終わった後、両親は第三幕の最後の方まで出番がない。一息いれるために楽屋に戻ろうと廊下を歩いていると、ばったりルカと出くわした。
「あら? 今回は出番無しだから、観客席でゆっくりと鑑賞してるんじゃなかったの?」
 尋ねると、ルカは苦笑した。
「私もそのつもりだったんですけど、がくぽさんにメイクを手伝ってくれって頼まれてしまって」
 そう言ってルカは手にもったメイクバッグを見せた。
「気合を入れて仕上げますから、第三幕を楽しみにしててくださいね!」
 明るくそう言って、ルカは去っていった。ちょっと怖いものを感じる。がくぽ、どうなるのかしら……。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ボーカロイドでオペラ【ヘンゼルとグレーテル】舞台編 第一幕

 第一幕です。
 作中でめーちゃんも指摘していますが、オペラの『ヘンゼルとグレーテル』はかなりほのぼのした仕上がりになっています(演出でそれがぶち壊しになっている場合もありますが)「原典破壊」と取る人もいるようですが、正直、子供と見るなら気楽に楽しめる方がいいんじゃないかと思うんです。めーちゃんも言ってますけど、文字で読むのと目の前で動かれるのとでは、刺激が全然違うんですよね。
 私が見たことがあるのは、2008年度のメトロポリタンのものと、2008年度のロイヤルオペラハウスのものなんですが、どっちもかなりホラー色が強かったです(特にメトロポリタンの方)今回これを書くに当たって、「オーソドックスな演出のものを見てみたいな」と思い、評判の良かった1982年度のメトロポリタンのDVDを購入してみました。こちらはそれこそ絵本のような演出で、見ていて楽しかったです。子供と一緒に見るのなら、やっぱりこういうのがいいのではないでしょうか。

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閲覧数:649

投稿日:2011/05/28 18:27:49

文字数:3,564文字

カテゴリ:小説

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