手を伸ばせば届くと思った。
蒼い空は歪み無く僕を見下ろしていた。
その空を切り裂く戦闘機も、耳を劈く轟音も、不穏な噂も、不安定な情勢も、
自分には関係ないと平和呆けした笑顔で皆生きている。
だから、僕も右にならってきた。
けれどもそれは間違いだった。間違いだと気付くのには遅すぎた。
―――囚人―――
その場所に自由は無かった。
蒼い空との間には有刺鉄線。
手を伸ばせばきっと痛みと共に血が流れる。
だから自由に手を伸ばす事も忘れてしまっている。
生きているのに生きていない、
そんな瞳を持つ仲間が、少年は大嫌いだった。
自分もそんな瞳をしている事を知っていたから。
いつからだろうか。一部の民族がこの国で異端と呼ばれるようになったのは。
殺生に関わる生業をしていたわけではなかった。国家に反する逆賊だったわけでもなかった。
では何故か。それを国民は知らない。
ただ国家が「異端である」とした、それだけの理由でその民族は粛清の対象となった。
粛清対象の民族の村々は容赦なく燃やされ、逃げ遅れた病人や怪我人は焼け死んだ。
命からがら逃げた者も待ち構えていた国家軍に捕えられた。
着の身着のまま逃げた人々に抗う術は無く、一人残らず連れて行かれる中、
少しでも抵抗すればその眉間には風穴が開いた。
冷たい手枷。きつい足枷。
決して乗り心地が良いとは言えない車に敷き詰めるように乗せられた彼らは互いに口を噤み、ただ自分たちのこれからを考え絶望に暮れていた。
(ああ、またあの車だ。)
少年は有刺鉄線の向こうに見えた黒いトラックを見た。
きっとまた、連れてこられたのだ。自分と同じ民族の人たちが。
自分とは違うエリアに通じるゲートをくぐったそのトラックはやがて建物の陰に隠れて見えなくなった。
少年は知っていた。そのゲートをくぐれば一日も経たずに殺されてしまう事を。
少年の家族は、その少年一人を残して皆そのゲートの向こう側に連れて行かれたからだ。
目前に迫った死に怯える母の瞳をきっと忘れることはないだろう。
そしてあの時母と繋いでいた手を離してしまった事を後悔しない日は無いだろう。
風が吹いて少年の金髪がなびく。
本来ならば「透き通るような」という言葉がピッタリなのであろう綺麗な金髪は泥に塗れてくすんでいた。
それでいいのだ。このような閉鎖された場所において、一目を引く秀でた容姿は禍いとなる。
このまま、自分は何も出来ずに大人しく死んでいくのか。
それも悪くない。自嘲気味に少年は呟いた。
シャワー室と呼ばれるガス室で死んでいくのか、
抵抗して軍人の持つ銃で殺されるのか、二つに一つ。
といってもどちらにしても死ぬしか無い。
家を焼かれ、家族を殺され、死を待つばかりのこの身に未練など無かった。
無いはずだった。
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