時は流れる。
 国が滅び新たな治世が始まりそして又滅び。人々が愚かな歴史を繰り返す中、森のはずれに、ずっと変わらずそびえたつ英知の塔があった。その塔はかつて賢者たちが暮らしていた塔。書物が沢山詰め込まれた塔。
 そして手が届く届かないにかかわらず、そこに宿る英知はあまりにも難しく、読み解くにあまりにも膨大で、だれも手を出そうと思わない、塔。
 塔の中の書物をすべて理解することができる存在は、そこで独りで暮らす気の狂った獣だけだった。
 獣はかつて、知恵ある獣として名をはせた存在だったのだと言う。本当は狂ったふりをして人を試しているのだと言う。やはりすっかり狂ってしまっているのだと言う。
 誰もが好き勝手に言うが、誰も本当の事を知らなかった。
 獣は、涙を物語を紡ぎ、吼え、そして人々に知恵を与えた。
 塔はもうぼろぼろに壊れていて、あちこちに穴が開いていた。正面の厳つい趣の扉も、今はすっかり曇ってしまった豪華なステンドグラスの窓も、最上階にある小さな窓も、全て開け放たれていた。誰もかれもが好き勝手に塔の中に出入りし、好き勝手に知識を得た。中には悪意を持って知恵を使うものもいたが、そんなものに対しても、獣は知恵を与えた。
 知りたい。と願うものに、獣は知恵を与え続けた。
 私が持っているもの全て与えればよかった。と獣が小さく呟いたのを聞いた者もいた。

 ごうおう、と獣が吼えていた。
 現在を見失った獣が大きな声で吼えていた。ぼろぼろの塔の、一階玄関ホールと二階の大広間をつなぐ、巨大な階段踊り場の暖炉の前。ぼろぼろのクッションと毛布が積み上がった、白い欠片が散らばるそこで獣は吼えていた。
 褪せる事のない過去を、満ちた感情を抱きしめて、獣はそこで吼えていた。
 ごうおう、ごうおう、とぼろぼろになってしまった穴だらけの塔の中で獣は白い欠片を抱きしめて吼え、そしてまた、知恵を与え、涙を、物語を、紡ぐ。
 何千年も先にある、その日を待ち続けて。

―いくら願っても私が愛を与える事はもうできません。
 私の愛する人は、もういないのです。



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

愚者の塔・14~The Beast.~

ここまで読んでいただきありがとうございます。

月が綺麗、と、わたし死んでもいいわ、は夏目漱石と二葉亭四迷だったと思います。
(ちゃんと調べてから書くべきだと思う)
獣は「これがツンデレというやつなのかな?」と思いながら書きました。
アヤは、最初はもっと投げやりな子だったのですが、なんだか悪ガキになってしまいました。
スペクタクルPさんのブログであったり百科事典であったりを色々参考にしたりしました。
あのマントが絨毯だったという事に、私も吃驚したよ。


本当に相変わらずの妄想全開二次創作で、好き勝手に世界を作り上げてしまったので、イメージと違う!と思われる事、多々あると思いますが了承ください。

ここまで読んでいただきありがとうございました!!

原曲様・スペクタクルPさん
【初音ミク】The Beast.【オリジナル】

http://www.nicovideo.jp/watch/sm12075172


追記・番外編として「月と愚者」をピクシブにアップしました。
アヤの話です。ボカロの気配無しなのでピクシブ投下。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=202523

閲覧数:703

投稿日:2010/11/25 21:16:32

文字数:882文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

  • 関連動画0

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    こんばんは。週末までなかなか時間が取れませんで、遅ればせながら読ませて頂きました。
    原曲様の方も聴いたことがなかったので、これを機に聴かせて頂きましたよ。 ←このセリフ、自分が使う日が来るとは……。

    しかし今回は、一際の大作でしたね。
    こないだ僕が12ページを書いて瀕死の重傷を負ったというのに、なんと14ページとは。 sunny_mさんあなた充電中じゃなかったんですか(w
    内容もまた、肺腑を抉る内容ですね。こういう話って、書くのに物凄い気力と集中力が必要なのに。
    なんだか、魂を削って書いているって感じがしました。合間に挿入される獣の独白、特に後半の心理描写は素晴らしかったです。手を伸ばしたいのに伸ばせない、その焦燥にも似たジレンマの感覚や、アヤを喪った直後から始まる、タガが外れたような思いの奔流。鋭利と言いますか、非常に高い集中力で書き綴られた言葉という感じを受けました。sunny_mさんの本気を見た思いです。

    原曲様も聴かせて頂きましたが、dominoであのクォリティとは……すごい技術力のP様ですね。
    歌詞の方も非常に心がこもっている印象でした。何だかタイトルのことで一悶着あった様ですが、これからも頑張って頂きたいものです。

    久方にハイクォリティな文章を拝見させて頂きました。
    ありがとうございました。

    2010/11/26 23:15:44

    • sunny_m

      sunny_m

      >時給310円さん
      読んでいただき、ありがとうございます!!!
      基本が不定休なので、なかなか奇妙なタイミングで投稿してしまう私で申し訳ないです。
      そして原曲様も聴いてくださったみたいで、こちらもありがとうございます!!
      疾走感のある感じとか、ピアノとか、低く轟く音とか、こういうの好きなんですよね?。

      本当に、またもや「充電してください。」って表示が出てしまいました(笑)
      なんかもう、ハロウィンでスイッチを押されてしまったのですよ。
      こういう話はどっぷりと世界に浸かって書いているので、いつも以上に客観的にみる事が出来ないのです。
      そうですか、鋭利ですか?。おおお、なんか凄いなぁ。

      集中力、というか、どの話もそうなのですが、書いている最中はご飯を食べるのを忘れます(笑)
      そして我に帰るとすごくお腹が空いている、という。
      そうか、だからご飯の描写を書きたくなるんだな、私(笑)

      こちらこそ、読んでいただき、ありがとうございました!!!
      ではでは

      2010/11/29 21:55:13

  • 藍流

    藍流

    ご意見・ご感想

    こんばんは。
    新着にずらっと並んだインパクトに吃驚しつつ、なかなか纏まった時間が取れずにお邪魔するのが遅くなりました。

    「The Beast.」はきちんと聴いた事が無かったので、リンクから動画を見てきました。いいですね……。
    sunny_mさんの書かれたこのお話も、空っぽの塔に反響する獣の咆哮が喪失の痛みを伝えてきて、悲しい結末なのだけど良かったです。

    「アヤ」が文字を意味する、というのは、「文(アヤ)」なのかな……と思いつつ。
    お邪魔しました^^

    2010/11/25 20:25:40

    • sunny_m

      sunny_m

      >藍流さん
      読んでいただき、ありがとうございます?!!
      ただいま、誤字チェック中でした(笑)

      基本的に大雑把に話を決めた時点で書き始めてしまうので、なんだか長い話になる事が多いのです…。こんな長い話を読んでもらって、ホントありがとうございます。
      原曲様も視聴してくださったみたいで、嬉しいです!
      もー、ピアノの音とかにホント弱い私なのです。

      アヤの名前は、そうです「文」です。
      なので、時折アヤの事を「文蔵さん」と私は呼んでいます。

      読んでいただき、ありがとうございました!!

      2010/11/25 20:58:36

  • 伯倫

    伯倫

    ご意見・ご感想

    素晴らしい…その一言に尽きます。

    敢えてだめだしするとすれば数か所の誤字のみの、しっかりまとまった傑作だと思います。

    こんな良作に触れることができて、望外の喜びです! 

    ありがとうございました<(_ _)>

    2010/11/24 20:34:31

    • sunny_m

      sunny_m

      >hakuyaku4356さん
      はじめまして!読んでいただきありがとうございます!!
      お褒めの言葉も嬉しいです!
      す、素晴らしいって、、、あわわわわどうしよう。

      誤字については、本当にお見苦しい事で申し訳ないです。
      基本が大雑把な人間なのですが、本当にもう、ちょっと見直してきます。

      こちらこそ読んでいただき、ありがとうございました!!

      2010/11/25 19:25:15

ブクマつながり

もっと見る

クリップボードにコピーしました