玉座に腰掛けたミクに、レンが一礼した。
そして、歌が響く。
水鏡の向こうから、少年特有の澄んだ声が響き渡ってきた。
『その昔
魔物に怯え暮らしていた時代
雪深い王国に
一人の歌姫がいた』
カイトがその歌詞に眉を潜める。メイコはその様子に首を傾げるが、今は魔法を維持するのが精一杯だった。
『かつて彼女は至高の歌姫と呼ばれたが
今はもう歌えない
その歌がもたらす
氷の眠りを嘆いたから』
メイコが創り出した鏡の中のミクはとろんと眠そうな瞳になった。ふぁあ、と小さく欠伸をする。
「ミオソフィリエに伝わる歌、『雪ノ歌姫』。ミオソフィリエ人でありながら、クロイツェル人のような呪いの歌を歌う歌姫の物語。僕が昔、彼に教えた歌だ。」
ようやく何の歌か思い出したカイトが、補足説明を加えた。それを聞いたメイコは、水鏡に翳していた手を降ろした。だが水鏡に変わった様子はない。カイトが覗き込んだその顔は、心なしか青かった。
「呪いみたいだから音を切ったのに、まだ歌が聞こえる・・・」
「そうなの!?」
恐るべき、クロイツェル王家レンの実力。
だが、映像の維持だけで余裕の出たメイコが結果的に状況の推理に一役買う事となったのは大きかった。
「レンが生まれ持った魔法の力は、呪いの言霊を謡うというもの。これはまだ仮説の段階だけど、推測はできたわ。聞く?」
頷くカイトに、メイコは話し始めた。
「クロイツェルの魔法は定義次第でいくらでも融通がきく物。そういう意味ではクロイツェルの魔法はポーシュリカ中で一番何でもありな魔法と言う人もいるわ。彼の場合、呪いの“言霊”を使うという定義を弄れば、いくらでも言霊の範囲を広げられるはず。ーーーねぇ、この歌は最後どうなるの?」
メイコの瞳が金属質の光を帯びてカイトを見る。カイトは目を閉じ、記憶の糸を辿った。
「この歌・・・『雪ノ歌姫』は確か、自分を受け入れてくれた村を滅ぼした魔物を呪いの歌で封じ、一人残された我が身と世界を呪う歌を3日3晩歌い続けて自身も呪いの眠りにつくという終わりだったはず」
カイトの説明に、メイコは頷いて己の仮説を確かめた。
「呪いの眠り・・・レンは多分、ミク王女にその呪いを掛けるつもりね。そしてその呪いが、この歌の“言霊”を歌ったレンがもたらす効果。ミク王女は死んだって聞いているけれど、もしかしたら呪いの眠りで死んだように見えているだけかもしれない。」
「本当か!?」
思わず身を乗り出すカイトに、メイコは「確証はない。けど、」と言葉を切り、深呼吸をした。
レンの歌が終わる。
ミクがゆっくりと目を閉じた。
メイコは覚悟を決めて、告げる。

「フィステューゲン王女ミクリアーナ・エリオ・イル・フィステューゲンは、生きている」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【オリジナル小説】ポーシュリカの罪人・9 ~言霊使いと雪ノ歌姫~

遅くなりました、ポーシュリカの罪人更新です・・・
リアルで部活の新歓号執筆などあったため、と言ったところで他に更新してるから言い訳にはなりませんよね・・・
実は行き当たりばったりで暖めていたネタを書き始めたので、正直少しきついですw

作中に登場した「雪ノ歌姫」は青磁さんの「終焉の歌姫」をモデル(?)にしています。今回コレが一番苦労しましたw

次がいつになるかはわかりませんが、なるべく早く上げるつもりでいます(と毎回言っている気がする昨今)。
生温かく見守ってくださいな。ではでは。

閲覧数:450

投稿日:2011/04/14 19:32:22

文字数:1,137文字

カテゴリ:小説

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  • レイジ

    レイジ

    ご意見・ご感想

    早速読ませていただきました♪

    執筆頑張れ~!

    部活は文芸部とか??(新歓執筆と書いてあったのでw)

    2011/04/14 21:02:47

    • 零奈@受験生につき更新低下・・・

      零奈@受験生につき更新低下・・・

      読んでくださり、ありがとうございます!
      「ハーツストーリー」の世界観を壊さずにコメントしようとして失敗した零奈ですw
      ルーシア王の切れ者ぶりに、カイトは次にどんな目に遭うのかとどきどきしています。
      でもリン達ルータオのメンバーにも登場して欲しいです!
      特に、悪ノ娘と知っても尚リンを友達と呼ぶミレアに。

      当たりです、部活は文芸部です?(後、腐女子がいっぱいの漫画部と合唱メインの音楽部ですね。文化祭前は死ぬ程忙しいです。)
      新歓の原稿は実は3回ほど作り直してまして、

      1回目・・・リン似の悪魔が人間と契約して復讐を手伝う話→「暗い」「長い」とボツ
      2回目・・・グミを彷彿とさせる人形師とその妹の話(妹が語り部)→終わりが見えなかったので自主規制
      3回目・・・「秘蜜」冒頭リンの服と翼を黒くした外見イメージの堕天使と、世界征服に失敗した魔王による宛てのない珍道中。面子が面子なのでまともな事にならなかった作品→やっと採用w

      必ずボカロ要素のある作品歴ですねw
      やっと採用された3回目は「黒の天使と魔王」というタイトルでピアプロに載せてます。
      暇なら見てやってください。

      執筆頑張ります!
      長文・乱文失礼しましたoyz

      2011/04/15 23:05:00

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