第五章 祖国奪回 パート7

「本当に、よく許可を得られましたね」
 セリスが呆れたように言った。晴天の最中、リンを大将とした革命軍は一路ルータオへの道を進軍していた。
「だって、放置もできないし」
 けろりとリンが答える。赤騎士団とロックバードの本隊がザルツブルグへと進軍したのち、リンは一千の兵を率い、ルータオ奪回作戦に向かっていたのである。当然、ロックバードが烈火のごとく反対したのは想像に難くないだろう。
 だが、放置はできぬ問題であった。旧黄の国の主要拠点のうち、唯一残された場所がこのルータオであったのである。ゴールデンシティ攻略戦で帝国軍はその主力を総督府に集めていたものだから、現在は帝国の守備兵が三百ほど駐屯しているばかりで、奪回にそれほど手間がかかるわけではない。それでも千という大軍を押しつけたのはひとえにリンの安全を危惧したからに他ならない。ルータオを奪回すれば、巨大な経済力を有する海運業者をことごとく味方につけることができる。なにより、第二の故郷と言っても差し支えが無いルータオをこのまま放置するなど、リンにはとてもできなかったのである。
 そして、もう一つの目的がこの戦いにはあった。新兵の実戦訓練である。一千の兵と言えども、そのほとんどがフィリップ、或いはゴールデンシティ攻略後に志願した新兵らであった。今後は帝国の本拠地へと逆侵攻する形となる。既に総兵力は一万を越えたが、そのほとんどが新兵で、少しでも戦の経験を積ませておくことが急務となっていたのである。何しろ、実戦に越した訓練は存在しない。どれほど厳しい軍務を課しても、訓練では全てを補うことはできないのである。
 当然、主力となる帝国からの投降兵や、引退していた元黄の国の兵士たちは全てザルツブルグへと派遣している。それでも、全体の三割を補えるかどうか、というところであった。
 そして、人材も不足している。ルワールからフレアをゴールデンシティに呼びこみ、キヨテルにルワールの統治を任せ、フィリップは商会ギルドの自治に任せる、という措置で急場をしのいでいるが、万が一ザルツブルグ攻略に失敗すれば帝国の精鋭がなだれ込んでくることになる。それに、ガクポと言えどたった五千の兵で倍にも匹敵する帝国のリンツ方面軍といつまでも対峙できるはずがない。グリーンシティも、テトを中心とした自治会に任せる他に手が無い状態なのである。
「そろそろ、内政ができる人が欲しいわ。それから、防衛軍を的確に纏められる人も」
「私も、そろそろ軍略について学ばなければいけませんね」
 セリスが言った。一応、副将という立場ではあるが、この軍でもっとも若年であることも変わりはない。傍から見ればリンの従者という立場がもっともしっくりと来るだろう。
「登用も始めないとね。代表と議会は選挙で決められるけれど、官僚まで選挙で選ぶのは現実的ではないわ。この辺りは、王政時代とあまり変わらない形になると思う。勿論、家柄が影響することはないけれど」
 黄の国王政時代でも、以前記載したように王立学校などの教育組織が存在していた。勿論、入学資格は貴族のみである。ただ、民間でも教育機関は小さいながら存在しており、現在でいう義務教育程度、読み書きそろばんを教える私塾は各地に存在していた。主催するのは教会や地主が主であり、実務としてルワールにはこの時点で現代にも続くルワール農学校が存在している。
「高度教育機関はまだまだ少ないけれど、今後はどんどん増やすべきだと思う。大学とかね」
「大学?」
 セリスが首を傾げた。
「そ、大学。ボクが前に聞いた話。リーンと、それから日本で出会った人たち。法律や科学、経済などを実務的に学ぶ場所だと聞いたわ。セリスも、大学に行けるかもね」
 うーん、とセリスが唸った。あまり学問は得意ではない。それでもフレアに仕込まれたお陰で、読み書き程度は難なくこなせるようになっているけれども。
「でも、まずは目の前のことを片付けないと」
 リンが笑った。
 間もなく、ルータオである。

 ルータオ攻略戦はリンの予想以上にあっけなく片が付いた。
 既に帝国軍に抵抗の意思はなく、僅かな過激派だけが小競り合いを仕掛けてはきたものの、いくら新兵とはいえ数で勝る革命軍が負けるはずもなく、僅か数時間でルータオ奪回を成し遂げたリンとセリスは、先行していたキヨテルと共に巻貝亭へと赴いた。
 同座したのはルータオ一の海運業者であるミキと、行商主のリリィである。
「お初にお目にかかります。私がミキと申します」
 流石大陸一の女棟梁、という風格であった。
「初めまして。革命軍のレンです」
 リンが答える。セリスは護衛を兼ねて、個室の端で起立していた。
「まず、革命軍としての条件を伝えます。海運に関しては関税を停止し、従来通りの自由貿易を許可するわ。租税に関しては利益の10%程度、旧黄の国とそれほど変わらない水準にします」
「構いませんよ。これまでは半分取られていたんだ、安いものさ」
「助かるわ。あとは軍備の調達ね。これはリリィが中心なのかしら?」
「一応、かき集めるものはかき集めたけれど、製造が間に合っていない状態ね」
「資金はあるだけ出すわ。特に攻城兵器が欲しいの」
「となると、とうとう帝国本土への進軍ですが」
 キヨテルが言った。
「ええ、そうなるわね。ミルドガルドは一つになるべきだと思うから」
 ミキが頷いた。
「では、こちらからも提案を。ルーシアとの同盟をご検討ください」
「つてがあるの?」
「ええ、部下を何人かルーシアに派遣しております。王都ルーシアの復興も順調に進んでおり、対外戦争を行うだけの国力を取り戻しつつあるとのことですわ。早期に手を打つことが肝要かと」
 そうね、とリンは考え込んだ。
「なんなれば、軍事同盟も可能かと。西と東、双方から帝国を攻めればかのカイト皇帝でも白旗を上げる他に道は無くなるでしょう」
「それは、避けたいわ。彼らも実利を求めている。兵力の提供があれば、その分彼らの言い分に答えなければならなくなるから。帝都をルーシアに渡す訳にはいかないの」
「よいご判断です」
 ミキが微笑んだ。
「でも、ルーシアと戦う余裕がないことも事実。相互不可侵条約あたりで手を打てないかしら。報酬はオリエント交易の独占を認める、ということで手を打てれば一番なのだけれど」
「十分かと。ただし、ミルドガルドの常識が及ばない異国であることもご理解ください。彼らはあくまで彼らの利益のために動く。騎士道という概念は通用しませんわ」
「ならばこそ、実利を与えろということね」
「はい。恐らく、今後近い将来に陸路は衰退してゆくと思われます。海運は遥かに輸送実績が大きい」
「それについては、心配はしていないわ」
「と言いますと?」
「鉄道ができると思うから」
「鉄道?」
 ミキが首を傾げる。認識がないのも仕方がない。この時点では蒸気機関はようやくその萌芽が見え始めた頃合いなのだから。
「その内分かるわ。陸路を大量に輸送する機関よ。その内、このルータオにもできると思う」
 くす、とリンが笑った。リーンが言う「ロメンレッシャ」のことを思い出したのである。

「リンダさん、これ、ウェッジさんから」
 ミキたちとの会合を終えると、リンは巻貝亭のウェイターであるリンダを呼び出した。
 手渡したものはゴールデンシティの工芸品である。
「あの阿呆はリン様にご迷惑をおかけしていませんか?」
 心底呆れかえった様子でリンダが言った。あはは、とリンが苦笑いをみせる。
「とんでもない。ウェッジは今や革命軍の突撃隊長ですから。あのシューマッハ元帥を捕えたのもウェッジですし」
「でしたらいいのですけれど」
 ふう、とリンダが溜息を漏らした。ホントはお土産がなくて、私が選んだと知ったら激怒するだろうな、と内心に苦笑する。そんな準備もする間もなく、ウェッジは「姉に宜しく伝えてくれ」と言い残してザルツブルグへと旅立ってしまったのだから。
「それで、この後ルータオはどうなるのでしょうか」
「さっき、ミキさんに話したわ。従来通り、自由都市として活動して欲しいの。その内民主主義国家が生まれれば、少し違う形になるとは思うけれど」
 でも、とリンは続けた。
「男も女も、貴族も庶民も関係のない、自分の理想を追い求められる世界にするつもりよ。ある程度の制度は王政からの引き継ぎになるだろうし、まだ王政を求める人たちが多いことも知ったわ。だけれど、ゆっくりでいい、自立する世界を作り上げたいの」
 はい、とリンダが答えた。
「微力ながら、お手伝いさせて頂きますわ」

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  • 非営利目的に限ります

ハーツストーリー77

閲覧数:379

投稿日:2017/01/15 15:07:06

文字数:3,562文字

カテゴリ:小説

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  • matatab1

    matatab1

    ご意見・ご感想

     月並みですが、お久しぶりです。

     ユーザーTOPページの『フォローしているユーザーの作品』のnewマークに釣られて覗いたら、ハーツストーリーの続きが上がっていたのでビックリしました。

     勝てないと判断したのもあるのでしょうが、シューマッハがあっさり投降したのが意外でした。何か企んでいるような気がしないでもないですが、徹底抗戦して犠牲を出したくなかったのかな、と。
     
     ようやくリンが祖国を奪還して帰れた事にほっとしています。ジョンさんを筆頭に、残った人達も嬉しかったでしょうね。

     それでは、続きを楽しみにしています。

    2017/01/15 18:57:15

    • レイジ

      レイジ

      ご無沙汰しておりますー! コメント本当にありがとうございます!

      長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
      この数年アイマス界隈で浮気しておりました…w

      本当はシューマッハは死んでもらおうかとも思ったのですが、なんとなく生き残ってしまいました。不思議だ。

      戻っても女王としてではないですからね。王政復古のシーンは本来予定が無かったです。
      でも、そういう人も沢山いるのだろうな、と思って追加させて頂きました。

      これからも応援宜しくお願いします!

      2017/01/15 22:31:11

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