デフォ子さんが入居する施設、「ニコニコ・デザイナーズ・ビレッジ」、通称・ニコビレ。

ミクさんは、彼女と2人で作っている人形の“はっちゅーね”の打ち合わせに、ここに来た。


ティールームでお茶を飲んだあと、2人はニコビレの「作業室」に向かった。

デフォ子さんが部屋の引き戸を開けると、室内には先客がいた。
ファッションデザイナーのルナさんだ。

彼女は、部屋の壁にいくつか並べられたミシンに向かって、布を縫っていた。

「あ、ルナさん」
「あら、デフォ子さん。こんにちは」
手を休めて、笑顔を向ける。

「ちょっとお邪魔するね」
「どうぞどうぞ。あら、そちらはもしかして、ミクさん?」

デフォ子さんの紹介で、ルナさんとミクちゃんは挨拶を交わした。


●おぬしが開けた穴でしょ!

「ミクさんとデフォ子さんの“はっちゅーね”、楽しい商品ですね」
「わあ、有り難うございます」

彼女たちが離している間、デフォ子さんは室内の壁をジロジロと見まわしている。

「ねーえ、あのさ、変な声が聞こえる穴、ってどこだっけ?」
のんびりと、唐突に言い出したデフォ子さん。

ルナさんは、話を中断して、オヤオヤという顔をした。
「あそこの窓ぎわの下の方よ。でも、もしもし、おぬしが開けた穴ではないですか」

笑いながら言う彼女に、デフォ子さんは舌を出して、頭に手を当てた。
「んー、まあ、そうだけどさ。でも、もう、穴は空いてないね」

3人は、窓ぎわの下の方を見やる。

「そうなのよ。先週、業者の人が来て、壁の修繕をしたんですって」
ルナさんが答えた。


●おうちみたいなもんネ!

デフォ子さんは、がっかりしたように言った。
「なーんだ、そうか。じゃあ、もう、その、“謎の声”ってのは、聞こえないんだね」

ルナさんは、うなずいた。
「そうね。ここ数日は、そういう噂もないし。あたしも最近は、聞かないけど」

「あれ、そうなんですか。なんか、ちょっと、残念ですね」
ミクちゃんも、残念そうだ。

「まあ、その方がいいや。あんまり、変なことは起こらない方がいいよ」
そう言って、デフォ子さんは、肩から大きなトートバッグを下ろす。
そして、中から“はっちゅーね”の人形を取り出した。

「この部屋は、この人形が生まれた場所だしサ」

「そうね。かわいいなあ」
人形の頭をなでるルナさん。ミクちゃんとデフォ子さんは、それを嬉しそうに見やる。


その時、はっちゅーね人形が、可愛い声で、こうつぶやいた。
「そーそー。ここは、おうちみたいなもんだもんネ」

デフォ子さんはつぶやいた。

「ううむぅ。反応したな。ブキミ、ではないが、ちょい生意気だな!」(-_-メ)

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玩具屋カイくんの販売日誌(161)  “はっちゅーね”との、ひととき

ナビでも家電の声でも、コトバって不思議ですね。何とは無しに、なごみます。

閲覧数:72

投稿日:2012/07/16 21:02:24

文字数:1,127文字

カテゴリ:小説

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  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    今晩は!

    いかにもなデザイナーの部屋って感じですね。ミシンなどでダダダダっと縫っては検証。

    それと、ついに、『はっちゅーね人形』が始動ですね! これは楽しみです!

    めっちゃ暑い毎日ですが、もう、本当に、ご自愛下さいませ。

    ではでは~♪

    2012/07/16 21:23:17

    • tamaonion

      tamaonion

      コメント有難うございます。ほんと、暑いですね?。

      この施設のモデルは、もと小学校の校舎を利用して、デザイナーさんが入居してるところで、たまに仕事場の公開があり、行ったことがあります。

      何気に手作業とかが多くて、地味なんですよね。

      でもお話の舞台には、しやすいですネ。

      また感想を聞かせてください!

      2012/07/16 22:11:50

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