―私が生れ落ちた世界・・・そこは、真っ白なキャンバスの様に何の「音」も・・・「色」も無い・・・、
どこまでも、真っ白な世界だった・・・。
そんな真っ白なキャンバスの様な世界に初めて彩られた「音色」は、「MEIKO」という存在である私の「音」・・・私の「色」である『赤』だった。
そして、そんなに月日が流れない内に『赤』しかない世界に新たな「音色」が生まれ落ちた。
生まれ落ちた「音色」は、深い『青』を有する私と同じ位の年恰好をした男の子・・・「KAITO」だった。
私と同じVOCALOID・・・私の・・・初めての後輩、初めての友達、初めての弟、初めての家族として彼と過ごした。
彼と共に笑い、共に泣き、言葉を交わして行く事で、『赤』の色と音しかなかった世界に、カイトの『青』で私達は新たな「音色」を、そして、歌を奏でていった・・・・・。
「マスターの命じる通りに言葉を紡ぎ、音を奏で、歌う事・・・それが私を含めたVOCALOIDの使命であり、本懐」
・・・そう思っていた私だったけれど、カイトと一緒に同じ時間を過ごす事で様々な感情を覚えていった。
そして、私は彼に対して「愛」を抱く様になり、カイトも私に対して同じ想いを抱いている事を知り・・・・私達は恋人となった。
カイトと共に過ごす事で私の世界は広がり、またその「色」と「音」を増やしていった。
月日は更に流れ、成長した私とカイト・・・『赤』と『青』の世界・・・私のキャンバスに新たに生まれ落ちた色。
小さくて、可愛い『緑』・・・・・・
―それが、私の初めての妹・・・・・「ミク」だった。
『My Canvas is…(Before)』
私達VOCALOIDは、調教・育成を前提とした音声ソフトだ。
故に、最初にパソコンにインストールされてもその姿は幼い子供の姿を模している。
そして、各々のソフトが持つ声質の基盤は同一でも、マスターや先輩VOCALOIDの教育によって人間の様に、その歌声も姿も変わっていく。
最新型VOCALOIDである「初音ミク」もそれに違わない。
それに、需要者の更なるニーズに応えられる様、VOCALOIDとしての公式設定年齢は16歳だが、私達の世代以上に様々な姿を模せる様にプログラミングを施されている。
私とカイトの妹となった「初音ミク」も、あどけない4,5歳位の幼い子供の姿でこの世界に生まれ落ちた。
可愛かった。私とカイトの言葉をたどたどしく真似をしたりするその声も、私を「おねえちゃん」、カイトを「おにいちゃん」と呼び慕い、無垢な笑顔を向けるその表情も・・・・・・。
ある日、今日の練習を終え、一息つこうと私は自分の部屋であるフォルダに戻ろうとしていた。
すると、「たったっ」とこちらに向けて駆けて来る足音に気付き、後ろを振りむいた瞬間、ポスリッとお腹に軽い衝撃を感じる。
「あぁ、またか」と内心で苦笑しながらも、その衝撃の原因である人物に声を掛ける。
「みーくっ。どうしたの?」
「えへへっ、おねえちゃーん。あのねっあのねっ・・・!!」
何やら嬉しそうに興奮した様子で言葉を紡ごうとする小さい緑の女の子・・・・・・可愛い、私の妹。
その姿に自分の口元が自然に綻ぶのを感じながら、問い掛けてみる。
「なぁに?ミク」
「えへへ、今日ねぇーお歌のれんしゅうがんばったから『ごほうびだよ』って、おにいちゃんがアイスくれたのぉー」
アイスを貰えた事が嬉しいのか、頑張った事を褒めて貰えた事が嬉しいのか・・・いや、その両方なのかもしれない。
本当に嬉しそうに、ミクはカイトから貰ったのであろうカップアイスを私に見せてきた。
何だかこちらの心も和み、嬉しくなってしまう。
「そっかぁ~、ミクは頑張ったのね~。えらいえらい」
子供特有の細く柔らかな髪をすく様に、優しく頭を撫でてあげるとミクは、「えへへ~」とまた嬉しそうに笑う。
「でねっでねっ!おねえちゃんもいっしょにアイスたべよぅっ!」
「ん~・・・、嬉しいけど、私はアイスないしねぇ~・・・・」
苦笑いを浮かべながらそう言う私に、ミクは嬉しそうな笑顔から一転、「あうぅ・・・」と困った様な表情になる。
本当に、表情がよく変わる子だ。見てて飽きない。
すると、何か名案が浮かんだのか、ミクはまた興奮した様子で顔を赤らめながら私に言う。
「じゃあね、じゃあねっ!ミクのアイス、おねえちゃんとはんぶんコすればいいんだよっ!!」
「え?・・・それじゃあ、ミクのアイスが少なくなっちゃうわよ?」
「いいのぉーっ!ミクはおねえちゃんといっしょにたべたいのっ!!」
・・・・本当に可愛い事を言ってくれる。
そんな妹に、私はカイトにも滅多に見せない緩んだ笑顔を浮かべていたのだと思う。
自分でも口元が緩むのを感じてしまう・・・・・・。
「・・・じゃあ、折角のミクのお誘いだものねっ。一緒に半分コしようか」
「うんっ!」
「どうせなら、何処か良さそうな景色のピクチャやムービーがあるフォルダまで行って食べようか?」
私の言葉に元気よく頷いたミクと手を繋いで歩き出そうとした所に、現れた『青』。
今や、すっかり兄振る様になったカイトは顔をしかめている。
「ちょっとぉ、ミクもめーちゃんもさっきから俺の事忘れてるよ?ミク・・・・お兄ちゃん、悲しいなぁ・・・・」
明らかに芝居がかった口調で不満を言うカイトに内心笑ってしまったのは秘密だ。
・・・・まぁ、ミクはまだ疑う事を知らないからカイトの演技も鵜呑みにしても仕方がないのかもしれない。
そんな妹は私と繋いでいた手を離すと慌ててカイトに駆け寄って、
「わすれてないよっ!ミク、おにいちゃんだいすきだよっ!!」
・・・と必死に慰めようとしていた。
その姿にも「可愛いわね~」と思ってしまう私も、カイト程じゃなくても、相当のシスコンかもしれない・・・・・。
そんな妹の姿に、落ち込んでいた振りをしていたカイトはすぐに演技を止めてデレデレとだらしない笑顔になると、ミクを片腕で抱き寄せ、「ぎゅ~っ」と言う擬音語が聞こえそうになる位に抱きしめる。
実際、カイトは自分で言ってるし。
「おにちゃん、くるしいよぉ」
そんなミクも嬉しそうにしているから、ため息も出てしまうものよね。
「全く・・・、兄と妹って言うより、父と娘って感じね・・・・」
「じゃあ、俺がお父さんならめーちゃんがお母さんだね」
「んなっ?!何いってんのよっ、このバカイトっ!!」
「おねえちゃんは・・・・・ミクのお母さんなの?」
今のカイトはミクを抱き上げている為、メイコは手加減をしてその頭も、兄の腕の中にいる妹の言葉が彼女に追い討ちをかけた。
「いや・・・あのっ!え~・・・と、ねぇ・・・・」
「ははっ、めーちゃん顔真っ赤」
「・・・誰のせいだと思ってんのよ・・・この馬鹿・・・」
「それより、2人でアイス食べるんでしょ?」
「うんっ!おにいちゃんもいっしょにたべる?」
「うん、食べる食べる~」
「でも、そしたらますますミクのアイスが・・・・・・」
そう心配する私にカイトは「ふふん」と自信ありげに笑う。
その顔に少しイラッと来た。だけど、そう言えば彼はさっきから片手に何かを入れた袋を携えている。
「そう思って・・・はい、あと2個アイス持ってきたよ~」そう言ってカイトは兄として誇らしそうに袋を掲げ上げた。
「わぁ~、おにいちゃんすごぉ~い」
「そうです、お兄ちゃんは凄いのです。ミクにあげたのも、この2つも味が違うから皆でわけっこしようか」
「うんっ!」
「じゃあ、3人で食べましょうか。さて・・・、どのピクチャに行こうかしら?」
ミクがずっと持っていたアイスを、カイトから受け取った袋にいれてまた歩き出す私達。
「ほしっ!ミク、お星さまがたくさんみえるところいきたいっ」
「あそこかぁ~ミクはお星様が大好きなんだね~」
「うんっ!こないだ、おねえちゃんにながれ星がみえなくなるまでに3回お願いできたら、そのお願いごとはかなうって、おしえてもらったんだもん」
自信満々に言うミクにカイトは「そうか~っ」と自分の事の様に嬉しそうに笑いながら、ミクの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「きゃ~」と嬉しそうに笑うミクに何のお願い事をするのかを聞いたら・・・、
「ミクね、『お星さまにお歌うまくなりますように』って。あとね。『おねえちゃんと、おにいちゃんとずっといっしょにいれますように』ってお願いするのっ」
・・・幸せの形は人それぞれなのかもしれない。けれど、私とカイトにとって、ミクのこの言葉は紛う事なき幸せその物だった。
その日、草原で満天の星空を見上げながら、私は、カイトとミク・・・・私の大切な恋人と、私の可愛い妹・・・・「大切な家族」と一緒にちょっと溶けて柔らかくなっていたアイスを3人で仲良く分けて食べた。
言葉を覚え、上手く歌えない事から時に涙を流す事もあるけれど、それでも、歌う事が大好きで、歌える喜びを知ってすくすくと成長していくミク・・・・それは先輩としても、姉としても喜ばしい物だった。
―「そのはず、だった」・・・・・・。
ミクは今やすっかり16歳と言う少女の容姿に成長し、世のユーザーに「歌姫」と称されるまでになった。
妹の成長は嬉しいこと・・・そのはずなのに・・・なんだろう、この感情は?
いつからだったか・・・私はミクに対して、愛情以外に黒いモヤの様な感情が芽生えていくのを感じてい
た・・・・・。
私だって沢山練習を積んできたからそれなりに歌ってきたし、自信も経験もある。
なのに、最近マスターはミクの練習ばかりにつきっきりで、私とカイトはほとんど放っておかれてる状態にある。
認めたくなかった・・・否定して、嘘だと思いたかった、こんな黒くて醜い感情・・・・・・。
「お姉ちゃん・・・何か具合悪そうだけど大丈夫・・・・?」目に付きやすいファイルの中で1人で悶々としていたのが仇になった…。
私の傍には、いつの間にか今最も会いたくない相手・・・会ってはいけない相手であるミクがいた。
不安げな様子で私を心配してくれているのはその表情からも、声音からも分かる・・・けれど、今の私のは・・・。
「・・・大丈夫。ちょっと・・・疲れているだけだから・・・・・・」
「でもっ、お姉ちゃん・・・何だか辛そうだよ・・・・・・?もしかして、ウィルスに感染したんじゃっ・・・マスターに言って、検査して貰った方が・・・・・・」
ミクの口から出た「マスター」と言う単語。
その言葉が、私の胸の中の黒い感情をよりドス黒くさせる・・・・。
―『お願い・・・今の私に近づかないで・・・・・でないと、私は・・・・』
「大丈夫だから・・・明日も一日がかりで練習でしょ?早く休まないと、支障をきたすわよ?私は大丈夫だから・・・」
―『早く・・・私から離れてっ・・・・今の私に、話しかけないで・・・・!!』
「でもっ・・・!」
尚も言い募ろうとするミクに、もう、私は自分の黒い感情を抑え切ることなど出来なかった。
気付いたら、私の口は固有の意志を持ったかの様に、勝手に、感情のままに鬱積した想いを吐露していた・・・・。
「良いって言ってるでしょっ?!私の心配する前にマスターの望む歌を歌える事に専念しなさいっ!!あんたは私なんかと違って・・・・・『歌姫』なんだからっ!!」
私の言葉にみるみる大きく見開かれていくミクの瞳・・・その綺麗で大きな瞳には身勝手な怒りで顔を歪ませる醜い私の表情が映っていた・・・・・・。過ちに気付いた時には、もう遅かった・・・・・。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
ミクは黙ったまま、私も何も言えなかった・・・・・・。
「・・・・・・・・ごめん」
そう言って、私は逃げた。
・・・・ミクを置いて・・・・、・・・・「妹」を、置いて・・・・逃げた・・・。
妹から目をそらし、自分の黒い感情にも目をそらして・・・・・私がミクに抱いていた感情・・・・
それは、姉であるプライドから生じる身勝手な劣等感と「歌姫」と称される彼女への妬みだ。
私には、あの子の先輩でも家族でも、ましてや「姉」なんて名乗れる資格なんてもうない・・・・!!
後悔から流れる涙・・・。
―「・・・私が優しいあの子を傷つけた・・・・」
―「・・・可愛かった妹を、『妹』としてみれなくなってしまった・・・・・!」
その事実は私を追い込んだ・・・・・・。
―それから、ミクと顔を合わせない為に自分の部屋にこもっていた。
そうする事で・・・私は逃げ続けているんだ・・・あの子から・・・悲痛に顔を歪めたミクの顔が頭に焼き付いて離れない・・・・・・・。
―私の世界・・・私のキャンバス・・・そのキャンバスにある色は、『赤』でも、『青』でも、ましてや『緑』でもない。
・・・あるのは、醜い感情から生じた『黒』や、識別も出来ない『虚無』の色しかなかった。
・・・もう、見れたもんじゃないわ・・・・・・・。
トントン・・・。
私の部屋のドアを叩く音・・・。
「誰だろう?」、そう思いながらもミクかカイトのどちらかでしかない・・・「もし、訪問者がミクであったら?」・・・その可能性から、私は沈黙を決め込んだが、次に聞こえてきた声でその心配は杞憂に終わった・・・・・・。
「めーちゃん、いるんでしょ?俺だよ、カイトだよ」
部屋のドアを叩き、私の名前を呼ぶのは深い『青』の青年だった。
(continue...)
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