これから始まるのは、現代に生きる人達の物語。
その連続事件のあまりの特異性に、メディアでは「現代のおとぎ話」と呼ばれる。
そのうちのたったの一つが、これだ。
時は20XX年。
あるところに、緑色の長い綺麗な髪と透き通るような白い肌を持つ少女がいた。
彼女はとにかく歌が好きで、いつも歌を歌っていた。
声もとても綺麗で、聞いた人全てを魅了するような歌声と言っても過言ではなかった。
少女の名前は、ミク。
「あ~したてんきになぁ~れ!」
たったそれだけの言葉でも、口ずさむとみんなが耳を傾ける。
彼女は歌姫と呼ばれた。
彼女の声を模して、歌を歌わせる機械も出来たほどだった。
ただ、当然それだけ人気もあると、同業の妬みも買う。
歌の女王と呼ばれた、メイコという女性がその筆頭だった。
「……死ねばいいのに」
ボーイッシュな見た目をどこかエロティックに変える胸の大きさと、妖艶で大人びた声。
もう若くはない方に入るであろうが、依然として彼女は人気だった。
それでも、アイドルとしての力は緩やかに減退していく。
そんなメイコの妬みといらだちのはけ口は、ミクであった。
「ねぇ? そう思わない?」
ミクとは違う美しさを持つ声でメイコが囁いた相手は、メイコとデュエットをよく歌っているがくぽという男。
この業界での王と呼ばれている。
「……その通りだ」
二人は、顔を見合わせて、優しくとも言える笑みを浮かべた。
長いことメイコのファンであった、リンとレンという双子がいた。
メイコのライブには毎回来ていたし、通い詰めたおかげでメイコとリアルでも友達になったぐらいの双子だ。
二人の名字は、鏡音。
鏡にうつしたようにそっくりな双子である。
そんな二人が、今夢中なのは、ミクの声を模した機械であった。
「これで私たちにも……」
「曲が作れる!」
双子は、早速メイコに自慢しに行った。
それが、全てを狂わせた。
「……殺してやる」
メイコは笑みを浮かべたまま、ぽつりと呟いた。
それを受け、がくぽはにやりと笑った。
「そうだな」
この業界からの、抹殺。
その一つは、喉を壊すこと。
もう一つは、評判を落とすこと。
もしくは。
徹底的に恐怖を植え付け、出てこないようにすること。
「……あなた、映画の撮影が入っているんじゃなかった?」
メイコながくぽの剣を優しく撫でた。
「がっくん。久しぶりにその剣持ってきたんだね!」
決行の日、ふらっと歩いているがくぽに話しかけたのは、がくぽの幼なじみであるカイトだった。
おっとり王子キャラで売っているが、本性はダークで鋭い。
「あぁ、そうなんだ。ちょっと必要になってな」
「お仕事?」
「ん」
「頑張ってね!」
にこにことがくぽに向かって笑っているカイトを見て、がくぽは少しだけ背筋が冷えた。
だから普通に少しだけ笑って返すのに、かなりの時間を要した。
「……ダメだった?」
「あぁ。すまん」
がくぽはメイコに手を合わせた。
「……しょうがないわね。他の手を考えましょう」
そう。がくぽはミクを、映画の撮影に見せかけて剣を見せるように下に置いておいたとき、ミクは脱兎のごとく逃げ出した。
とにかく闇雲に走って視界から消える。
どこかの建物に逃げ込んだようだった。
半分成功、半分失敗である。
「……多分、誰にもいわないだろ。言ったところで誰かが信じるわけでもなし」
「そうよね。……でもその前にとどめを刺してしまいましょう」
「誰かに頼むのか?」
「まさか。この手で壊してやるわ」
メイコはそっと、毒を仕込んだワインを撫でた。
彼女にとって、ミクを抹殺することはもう遊びと化していた。
「……これくらいは、飲めるわよね」
赤ワインと全く同じ色の唇をゆがめて、メイコは笑った。
「た……助けてっ! 助けて……」
「あらあら、どうしたの?」
「何かあった?」
血相を変えて近くの建物に飛び込んだミクを、優しくなだめたのはルカとグミ。
「落ち着きなさい」
「大丈夫?」
ミクが落ち着くと、ルカとグミはミクの頭を撫でた。
「いいこいいこ」
「落ち着いたわね」
ミクが、ゆっくりと笑う。
「「で、何があったの?」」
二人は、息ぴったりであった。
それを見て安心したのか、ミクは目を閉じて話し出した。
「……あのね、私は歌姫と呼ばれているの。と言ったら、信じる?」
ルカとグミは顔を見合わせた。
「信じるわ」
「ただ……ごめんね、実際に知っているわけじゃないの」
ミクは小さく首を横に振った。
「知らなくていいの……信じてくれれば。それで、恨みを買ったのね……多分」
「「誰の?」」
「わからないわ……顔までは、見えなかった……剣が、そこに置いてあって……」
「「それで逃げてきたの?」」
「……そういうこと」
ルカとグミはミクを優しく抱きしめた。
「大変だったわね」
「もう大丈夫よ」
ミクは小さく頷いた。
「……ところで、ここは……?」
「「私たち二人がホームシェアリングをしているの」」
ミクは、そういうことか、と頷いた。
「ねえねえめーちゃん、なんか僕に隠していることない?」
カイトは、にっこりと笑顔でメイコに聞いた。
「隠していること? どのことかしら?」
メイコも同じようににっこりと笑った。
幼なじみの二人。
メイコがカイトではなくがくぽとユニットを組んでいるのは、カイトとだとお互い腹の探り合いのみになることがわかっているからなのだろう。
それにこの業界で一緒にいるには、お互いを知りすぎているのだ。
「わからないよ。そこまではね」
「質問がはっきりしないなら、応える義理もないわね」
「ううん。質問ははっきりしているよ。隠していることがある? ない?」
「あるわよ。全て話せる相手なんていると思っているの?」
「直近……一ヶ月。その間に、新たな秘密が増えなかった?」
メイコは再びにっこりと笑った。
「たくさん増えたわよ」
「へぇ、給料のこととCDの売り上げとライブのこととそれ以外に?」
「ええ。まだあるわ」
「それを話す気はない?」
「話したら秘密にはならないじゃない」
「それもそうだねぇ。じゃあ頑張って僕が見つけるしかないのかな」
「そうねぇ。そんなことに頑張っている暇があったら歌を頑張った方がいいと思うわよ?」
「知ってる? 秘密がわかれば強請ることだってできるんだよ?」
「そうなるわね。あなたの秘密を私が握っていないと思ったら間違いだけれど」
「僕だってめーちゃんの秘密を握っていないわけではないんだよ?」
笑顔での腹の探り合いに、誰もいないはずの部屋の空気が一瞬凍り付く。
その後、二人ともくすくすと笑い出す。
「あー……やっぱりあなたといるときが一番面白いわ、カイト」
「疲れるけどね。めーちゃんが幼なじみでよかった」
「ええ。張り合いが無いもの」
「こっちに慣れてしまうとね。もっと本気で探ってみる?」
「いいえ、今は遠慮しておくわ」
「そう。僕もそうかな」
この二人の関係がよくわからないと言われるのはこのためだろう。
カイトもメイコも、お互いに密かな闘志を燃やしていた。
それを人前では決して出すこと無く、二人だけになったときにこうして戦う。
それが二人の娯楽の一つである。
とても密やかな。
「「私たち、ちょっと出かけてくるわ」」
ミクがグミとルカとの生活に慣れた頃、二人はミクにそう言った。
「買い物に行くんだけど」
「何か欲しいものある?」
ミクは笑って小さく首を横に振った。
「ありがとう」
そして二人が出て行って、しばらくしたとき。
チャイムの音が鳴り響いた。
「あれ、もう帰ってきたの?」
鍵は持っていっているはずだが。
ミクは少し不審に思いながらドアを開けた。
「ミクちゃん! お久しぶり」
メイコはミクに向かってにっこりと笑った。
ミクの前では嫉妬をおくびにも出さないメイコは、ミクに警戒されていない。
「メイコさん! どうしてここが?」
「映画の撮影のときにいなくなったでしょう? このあたりかなぁと思って。そしたら、桃色と黄緑の髪の……ルカさんとグミさんでしたっけ? が、場所を教えてくれて」
嘘である。
当然、メイコは秘密裏に調べさせていた。
「そうなんですか! あー……っと、勝手に中にあげていいのかしら?」
「大丈夫と言ってくれたわ」
これももちろん嘘。
でもミクはあっさりと騙された。
「あ、じゃあ、どうぞー」
メイコはもう一度、ミクに笑いかけた。
「……面白いことになってきたねぇ」
カイトは小さく呟いた。
「さて、解毒剤でも準備しておくか……それにしても、こんなにヒントくれなくてもね」
がくぽはどうか知らない。が、明らかにメイコは、この状況を楽しんでいた。
カイトに追わせることも。
ミクを失脚させようという考え、嫉妬も当然あるだろう。
でも、にっこりと笑っているメイコの顔がカイトの頭にありありと浮かんだ。
「何時ぐらいに行けば良いのかな。明日の昼かな?」
カイトは肩をすくめて、用意を始めた。
「……は。簡単だったわね」
ミクは机の上に伏していた。
眠るように、全身に毒が回っていく。
「大丈夫よ……死にはしないわ」
ただ、それは条件付きだ。
カイトが間に合えば、の話。
「明日の昼までに、解毒すれば死ぬことはない……もっとも、間に合わなくても私は気にしないけれど」
そしたら、カイトの完敗だ。
「あら? ……カイトが勝ったら、私は捕まるのかしら」
メイコはふとそう呟いた。
それから、にっこりと笑う。
「そんなわけないわね」
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