・・・ちょっと。
ああ、そこにいる君たちだよ。
こんな所で何をしているんだい?・・・海水浴?
ここの海は止めておいた方がいい。
なぜか?

ここには人魚伝説があるからね。

嘘だと思うなら話してあげよう。
ここに眠る、恋した2人の男女の物語を。



---



静かな月灯かりの夜。
私は海底の城を抜けて、外の世界をみていた。
母上たちが言う『人間には近づかないこと、姿を見せないこと』という教えだけは守っている。
今日も人間たちに見つからないように、そろそろ帰ろうとしていた。


その時。
ゴゥン、という恐ろしい音。
突然高くなる波。
海に向かって落ちてくる何か。
私はその普通じゃない状態に驚き、音のした方向へ向かった。


~~


沈む。
終わりのない底に向かって。
耳に、鼻に、口に水が入る。
誰か、僕を助け―――


―――生きている。
目が覚めると、そこは海岸だった。
どうやら誰かがここまで引き上げてくれたみたいだった。
でも誰が?
意識がなくなる直前、暗い海には眩いほどの髪と碧眼を持った少女。
彼女は・・・誰なんだろうか?


~~


「人間になりたい?」
「はい、ぜひお願いします!」
あの夜から少し経った。
私がいるのは城に勤めていた魔女の家。
その魔女に人間にしてくれと頼んでいるのだ。

「そう言われてもねえ。私だって万能じゃないのよ」
めんどくさーと呟きながらも、しっかり書物を調べてくれているところ、やはりこの魔女に頼んでよかったなと思う。
「リリィ、あんた人間になって何がしたいの?」
「それは・・・言えません」
私がしたいことはただ1つ。
あの日助けた男の人に逢いたい、それだけで良かった。

でも魔女には、そんなことお見通しだったみたいで。
「色恋沙汰なら、私はオススメしないわよ」
持っていた棒(何に使うかは分からない)を私に向け、そう告げた。

「過去にはね、あんたみたいに海の上にいる人間に会いたくて人魚を辞めたやつもいるけど、たいていは海に残してきた家族が気になって帰ったり、愛する人が何かしらの理由で見つけられず、地上で生きていく術も持たずで死んでいってんのよ」
その覚悟はあんの?そう魔女の目は語っていた。
・・・正直、海を離れるのは辛い。だけど・・・。
「・・・あります」
私は、魔女の目を見据えてそう言った。

「ほう。いい眼じゃない・・・あんたの願いは受け入れた。ただし代償は・・・そうね、あんたの声をちょうだい」
「えっ・・・」
「じゃないと、あの人に想いを伝えれないってか?・・・はぁ。もういいわ、その薬はあげるからとっとと行きなさい」
魔女はイライラしたのか、机の上に置いてあった小瓶をこっちに投げた。
「魔女さん、ありがとうございます!」
「じゃ、少しの人間ライフ楽しんでおいでよ」
私はその声を聞く間もなく、陸に向かって泳いだ。


~~


「キヨテル様、このような所に何の用で?」
「ちょっと待ってください・・・」
僕はあの海岸に来ていた。
ここには短期間滞在している・・・というのも、僕が船から落ち、その療養のためなのだが。
隣にいるのはミキ。僕の許嫁だが、彼女と契りを交わす気はさらさらない。
今日は・・・いや、今日も探しに来たのだ。
僕を助けてくれた少女を。

あの夜のことは今でも夢か現かは分からない。
そう、本当に小さな奇跡で。
そんな小さな奇跡たちと、少女に対する想いは積もり続けて。
毎日海岸を歩き、君にもう一度逢いたいと願っていた。


「ねえキヨテル様~」
「・・・なんでしょうかミキ」
「もう帰りませんこと!?ドレスもこんなに汚れて、足も疲れましたわ!なんでこんなに歩かなければなりませんの!?」
ならついてこなければいいものの。
そんな言葉をかけようかと思ったが、いかんせん彼女の家柄は僕の家より高い位にある。
無用心に怒らせて関係を壊したくない。

「しょうがありませんねー・・・。今日はこれで帰ります。それでいいですか?」
「はい!そうしましょう!今日はわたくし特製のマカロンを振る舞いますわ!」
「それは楽しみです」
彼女は嬉々とした、僕は作り笑いを浮かべて屋敷へと戻ってい・・・こうとした。
ふと岩の方面を見ると、風に靡く金色の髪。
まさか彼女じゃ・・・と思い近づこうとしたが、ミキに手を引かれ、それ以上彼女に近づくことは出来なかった。


~~


陸に上がると、私のひれは足に変わり、身体にはレースの布が巻きついていた。
布が少し邪魔だが、これはしょうがないだろう。
試しに砂の上を走ってみる。砂がこそばゆい。
(あはは、これおもしろい!)
そう喋ったつもりだったが、声がでない。
あー、と出しても声が喉につっかえる感じだ。
声を奪う、とはこういうことか・・・少し寂しい気がした。

「・・・はこれでかえ・・・」
「・・・ましょう!今日は・・・」
近くで男女の楽しそうな声が聞こえる。
そこに近づくと、そこにはあの人がいた。
そして、綺麗な人が隣で微笑んでいた。
あの人も微笑んでいた。

急いで近くの岩の陰に隠れる。
逢いたいと想っていたのに、ずっとこのときを夢見てたのに。
それでいいの、私はそれでもいい。
あなたの笑顔が少しでも近くで見れたら、それでいいの。
なのに、涙が止まらない・・・。


~~


次の日。僕は海を泳いでいた。
今日はミキはいない。
海の中では声は届かない。そんなことは構わない。
とにかく、君に逢いたい。

結構沖まで来ただろうか。
僕は君に逢えるときを夢見て、波に身を任せるように瞳を閉じた。
溺れるという現実が、じわじわと僕を追い詰める。
その時に見た、驚くような蒼い目と綺麗な足は、夢だったのか現実だったのかは分からない・・・。



---



・・・え?爺さんの作り話だってかい?
実はそんなことはないんだ。これは本当のお話さ。
さて、物語は佳境になってくる。
舞台は、船の上・・・。



---



「助けて頂き、ありがとうございます」
溺れて死にそうになったのを助けてくれたのは、金髪の少女だった。
彼女はいいえ、という風に手を振る。
僕はその動作に疑問を持ち質問すると、彼女は声が出せない病気を患っているらしい。
ならこれを使ってくださいと、僕はペンと紙を渡した。
『ありがとうございます』
これで会話は困らないだろう。

「といってもお礼がしたいですし・・・あの船で今日、晩餐会をやるんですが、来ていただけますか?」
その晩餐会は、僕とミキの正式な婚約を伝えるものだったが、発表のときに逃げ出せばいいだろう。
彼女は一瞬迷ったような顔をしたが、すぐに微笑んで了承してくれた。
「ではご案内します。あ、僕はキヨテルといいます。貴女は・・・」
『リリィ』
「リリィさん、ですね。宜しくお願いします」
僕が名前を呼ぶと、彼女は少し頬を赤らめた。
彼女の手を引き、僕たちは船内へと向かった。


~~


夜。
外は暗くなって静まり返るのに、何故この中は明るく賑やかなのだろう。
頭上には月灯かりより眩しい明かりが幾つも灯っている。
この中には海底の城にいる人魚の数より多くの人が食べ、飲み、そして話していた。
その輪の中にあの人はいない。綺麗なあの子もいない。
どこにいるのだろうと思案していたら、いきなり舞台の方から大声がした。


「皆様、宴は楽しんでおられますでしょうか?」
恰幅のいい男が、手に飲み物を持ちながら現れた。
それにつられてか、周りの人間も飲み物を持ち始める。
一体、何が始まるのだろうか。

「それでは本日の主役、キヨテル卿とミキ様がご入場されます。拍手でお迎えください!」
男がそう言うと、右手の扉が開き、2人が手を組んで出てきた。
あの子は満面の笑みをしていた。あの人も微笑んでいる。
「それでは、キヨテル卿とミキ様のご婚約を祝して・・・」
私は耐えられず、その場を去った。


~~


扉から出てきて、周りを見渡すと眼に入ったのはリリィの泣き顔。
そして走り去る後姿。
「・・・婚約を祝して、乾杯!」
考え事をしていたら乾杯の号令が掛かってしまった。
僕はそれに遅れることなく入り、その後ミキと一緒に挨拶回りをした。


挨拶周りも一通り終わり、ミキはワインを飲み始めた。
「ふふ、キヨテル様。これでわたくし達も正式な仲になりましたわ」
上機嫌で話すミキを適当にあしらい、僕は彼女を探した。

船のテラス、そこに彼女はいた。
目には涙を溜めていて、その両手には黄金のナイフが輝いていた。


~~


あの人がここに来る数分前。
海の中から魔女が何かを持って現れた。

「・・・人間も辛いでしょう?」
私は何の反応もしない。
「アタシは今すぐ人魚に戻ることをオススメするわ。ほら、今から投げるものをとって」
魔女はそう言いながら、手に持っていたものをこっちに投げてきた。
それは、黄金に輝くナイフだった。
「それであの男を殺して、その血を飲めば人魚に戻れるわ。じゃ、あっちで待ってるわね」
そう言い残し、魔女は海底へ潜っていった。


「・・・リリィ、手に持っているそれは・・・」
その声にビックリして、私は後ずさる。
手の力が抜けて、ボトッとナイフが落ちる音がした。
・・・私には、この人を殺すことは出来ない。
それなら、いっそのこと・・・・・・。


~~


涙目で何かを訴えるような表情をする彼女は、その体勢のまま柵に手をかけた。
何をしたいのか見た目だけでは分からなかったが、手をかけ、脚をかけ・・・。
気付けば、僕は無我夢中で君のところへ駆けていた。

君の足があるはずの海を見ると、そこにはぶくぶくと泡が残っているだけだった。
僕は薄々気付いていたが、やはり彼女はあの夜の。
「あの夜、助けてくれたのがリリィだったんだね」
彼女の頬に涙が落ちる。
彼女の瞳からも涙が溢れていた。
そのうちにも、彼女の足はじわじわと泡となっていく。
僕は咄嗟に、彼女の手を掴んだ。

「僕は、あの夜に君に助けられたおかげで、今ここにいる。たった一度・・・いや二度、それだけで僕は君の事を」
その先を言うことは叶わなかった。
突然、風がごうッと吹き、波音が僕の声を攫い、君の手は泡になってするりと解けた。
僕は身を乗り出し、君の腕を掴もうとするが届かない。
僕が最後に見た君の姿。

『あ り が と』

声にならない想いと共に、海に消えていった。
「僕の方こそ・・・ありがとう」
僕の僅かな願いが届くように、手を伸ばした状態のまま呟いた。



---



どうだったかな。御伽噺みたいな本当の話。
すぐそこにある人魚の像。
あれは、恋に落ちた男が建てたそうだよ。
像であの美しさなのだから、本人はさぞ美しかったんだろうね・・・。

あの後、男は家柄を捨て、ずっとこの場所で過ごしたそうだよ。
人魚といた時間を忘れることなく、ずっとね。
さて、そういうことだし、もう日も暮れ始めてるから帰った方がいい。
今日も《あの日》のような月灯かりが綺麗な夜になるだろう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

水底の声【自己解釈】

最近キヨリリ廃ハンパないです。
ということでこんにちわ、すぅです。
自己解釈は苦手なのであんまりやらなかったんですが、今回一目ぼれ?したので書かせてもらいました!
キヨリリタグ・・・は、つけるべきか迷いましたが保留にしときます。

水底の声、あいみさんというボカロpが作られた曲なのですが、オケがめっちゃ綺麗でオススメです!
イラストも美麗なんです!
そしてとにかく切ないです。人魚ですから・・・。
URL→http://www.nicovideo.jp/watch/sm23294530
それでは。

閲覧数:126

投稿日:2014/04/21 20:56:33

文字数:4,575文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    その他

    リリィちゃん可愛いよねw
    水に濡らすとリリィちゃんの髪はいい感じな気がするんだよ、私はww


    【人魚の置物(12)】
    *水晶でできてる、落とすと割れる

    2014/04/27 18:04:52

    • すぅ

      すぅ

      ですよねですよね!!!!!
      身体にぴたっと髪がくっつくんですね分かります!!!!!エロいですね!!!!(おい

      わ、割れ...!?!?
      大事に扱わなければ!!!!
      コメントありがとうございます!

      2014/04/27 20:37:26

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