※これは家の裏でマンボウが死んでるPさんの《粘着系男子の15年ネチネチ》の
二次創作小説です。
二次創作、捏造設定などに不快感がある方は、観覧はお控えください※



『僕は、今日から君に毎日手紙を出そうと思う。』


【君へ、僕より】


『これからせっかく遠距離恋愛をするんだから、君への愛のポエムと
君に言いたい撲の毎日を手紙に書いて、送りつづけようと思う。
古くさいだとか、しつこいとか引かないでくれよ!!(笑)
じゃあ、今日あった事を書こう。
今日は、あの前にも言った上司にまた説経されてさぁ、――――――。』

「まぁ、こんなもんだろ。」

蒸し暑い部屋の中、扇風機に飛ばされないようにしながら手紙を
高々と持ち上げて僕は達成感に浸っていた。
ついさっき書いたばっかりのその手紙をソッと封筒に入れて、
帰りにコンビニでアイスといっしょに買ってきた切手を出す。
切手って、どんな感じではればいいんだろう。
手紙なんて今まで書いたことなかったからな……。
年賀状はもともと付いてるし、連絡はキホン的にメールとか電話だからなぁ…。
確か、なめてはるんだっけ。
僕のDNAを受け取って下さいってことでしっかりなめとくか。


1年目は凄くがむしゃらだった。
毎日毎日欠かさず手紙を書いて、毎日毎日しつこく切手を舐めて。
漢字とか間違えまくって、字が抜けてたりして。
唾液で僕のDNAで君に思いが届けばいいのになぁとか、思いながら。



『君の事を思い出すだけで、僕はどんなに辛い事があっても、元気になれるよ。
君の笑顔を思えば、あのムカつく上司が昇進した事も、まるで自分の事のように
祝えるし。
君の声を思えば、どんな強風もそよ風のように感じられるし。
君のためを思えば、僕は手紙を書き始めた日から酒もタバコも止められたよ。
僕の愛を積み立てていったら天にそびえる位、いやそれ以上、
僕は君の事を愛してるよ―――。』

書き終えてから、切手を取り出す。
今回の切手は可愛いなと思って買ってきた、うさぎの切ってだ。
次は手紙も可愛いのにしてみようかと考えていると、なんだか部屋から
異臭がするような気がした。
まさか―――。そう思って、後ろを振り返ると悲しいことに僕の予感は当たった。
火事。
しかも、僕の服はほとんどが燃えてえりしか残っていない。
急いで、手紙が燃えないように握り締めて、消火器で消火した。
その後、消火器の白い粉的なものを掃除するのに追われる、秋の初めあたりの事。


2年目もがむしゃらだった。
家が燃えても気付かなかった。もしかして、この炎は僕の愛の炎か!
と思ったら、火災原因はほこりのたまったコンセントだったらしい。
その日から僕は、コンセントとえりに少しビクつくようになった。



『拝啓 この間「拝啓」という言葉を知って、使ってみた。少し似合わないかな。
君への愛を綴ったポエムを書き続ける日々を過ごしていたら、
いつの間にか3年目になっていたよ。
3年書き続けて文章にも自信を持てるようになったから、今日からmixiというサイトに
投稿してみようと思ってる。
そろそろ雪の降る時期になってきて、君に似合いそうなマフラーや手袋をつい目で
探してしまう毎日だよ。
君の事をずっと考えてて、君への手紙に今日は何を書こうかな、
なんて考えてばかりだ。
小動物のように可愛くて、子供のように無邪気で、花のように儚げな
……そんな君が僕は大好きです――――――。』

冬の初め、僕はマフラーとコートを着込んで、郵便入れに手紙を入れた。
カコンカコンと軽やかな音も聞き慣れた。
縮み込んで猫背気味にセカセカと駅に向かって歩き始めると、
近所の奥さん方と会った。

「おはようございます。寒いですね。」
「あぁ、おはようございます、寒いですよねぇ。またラブレターを贈って
いらっしゃたんですか?」
「はい。では、僕はこれで。」

僕が遠ざかっていくと、後ろの方で小さく「若いのに、偉いわねぇ。」などの声が
聞こえた。


3年目にはこなれてきた。
文学の域にまで達した気がして、漢字の間違いがなくなった。
少しずつ1日に送る手紙の量が増えていった。
mixiの日記に投稿して公開していたら、半年でマイミクがカンストして驚いた。



『君の事を考えると、初恋のように心臓の鼓動が早くなって、
顔が赤くなってしまって恥ずかしい。
君の笑顔はどんな華よりも美しい、君の声は小鳥のさえずりよりも凛としていて、
君の姿はどんな美女にも敵わない程可愛らしい。
君の為なら、この春特有の少し冷たい風も優しい日差しに変えられる気がするよ。
君の大好きな雑誌にポエムを投稿してみたら、賞を取って色々な番組や雑誌で
話題にされて、社会問題にまでなったよ。
僕の事はともかくとして、君の事を色々な人に知ってもらえて嬉しかったけど、
僕の恋の好敵手が増えそうで少し不安かな。
今度、ポエム集も出版するんだ。
ポエム集のタイトルはどうしようかな、と考える事が1つ増えて充実した日々だよ―――――。』

春、色んな始まりのシーズンでどこも慌ただしく、実際僕も忙しい。
でも、何となく楽しい。そんな日々が続いた。
僕がサラリーマンを辞めようと辞表を提出し、最後の出勤日に同僚全員で祝ってくれた。
いつもの嫌味なあの上司も珍しくしんみりと「お前、本当に辞めちまうんだなぁ。
お前は、うまくやってけると思ったんだけどなぁ……。」などと、本音を零していた。

「あの、皆さん、そして、課長。今までありがとうございました!」

僕が頭を下げると、みんなが優しく拍手して声をかけてくれた。
その時、少しだけ、辞めるのが惜しいように思えた。


4年目は忙しい日々が続いた。
そして、僕はサラリーマンからプロポエマーへの道を選んだ。
退職金をもらって、珍しくあの上司ともしんみりと話をした。
僕はその日から、サラリーマンを辞めた。



「ん゛ー…。」

体温計が表示するのは、38,5℃。
通りでエアコンがついているのに、熱っぽかった訳だ。

「また、風邪かぁ……。」

最近何かと風邪をひいたり、熱を出したりが多い。
夏風邪という奴は、しつこくて治すのが大変だ。
それでも変わらず僕は書き続ける。
紙と布団に埋もれて、君への思いをありのままに。
電話の着信音が部屋に響き渡る。
表示されているのはポエム集の担当者だ。

「はい?」
〔あ、先生!風邪、大丈夫ですか?〕
「はい、まぁ…何とか。」
〔えっと……再来週のサイン会にまで治りそうですか?〕
「その頃までには治ってると思いますよ。」
〔そうですか!では、後でお尋ねしますね。何か欲しい物ありますか?〕
「えっと、スポーツドリンクとおかゆの材料をお願いします…。」
〔分かりました。では、後ほど。〕

電話を放り投げると、布団を目深に被って静かに瞳を閉じ、意識を落とした。


5年目にはとうとうプロポエマーだ。
F1層に特にうけた。
だけど、僕は一途だから他の子はひじきの生えた大根程度だ。
この頃、少し風邪をひきやすくなった。



「はぁ…。貴方は、ナースが好きなんですか?
それとも、この病室を気に入っちゃったんですか?」

僕の目の前に座る医者が溜め息を吐く。

「そう言われましてもねぇ……。」

この医者が溜め息を吐くのも無理はない。
最近、僕はこの病室から退院したり入院したりを繰り返し、この病室の主のように
なってきている。
夏にも時々お世話になっていたが、秋になってとうとう入院になってしまった。
酒もタバコも辞めたと言うのに、最近は過労でよく体を壊す。
医者だけではなく、僕も溜め息を吐きたい所だ。
病室でも、手紙を書き続けた。


6年目に体を壊した。
原因は過労だそうだ。
ポエムは2千を超えたけれど。
骨も内臓もボロボロだった。



風が寒くなってきた冬、僕は大家さんと外で話し込んでいた。

「やっと退院できたんですねぇ。近所の皆さんで心配してたんですよ?」
「すいません、入院中に果物なんかも貰っちゃって…。」

僕が財布を取り出すと、大家さんが頬を緩ませながら、皺だらけの仕事する人の手で
財布を持った僕の手を握った。

「代金なんか返さなくていいから。あまり無茶しちゃ、ダメですよ。」

先手を打たれてしまった。やっぱり、この人には何年経っても敵わないような気がする。
僕は仕方なく「はい、ありがとうございました。」と頭を下げてから、
久しぶりに自分の部屋へと戻った。


7年目には完調した。
僕はエクストリームアイロンがけのように、君がどこに居ても僕がどこに居ても。
複素内積空間のように複雑に、僕は君を愛してるから。
兎にも角にも、僕は君を世界で一番愛してる。



返事、返ってこないなぁ。
ポストを覗き込み、少しだけそう感じて侘しくなる雪解けの春。
いつも通りにポストを覗いてから、郵便入れに足を向け、ゆったりと歩き出す。
とうとう僕も若いとは言えない歳になってきてしまった。
年月とは本当に恐ろしい物だな、と最近つくづく思う。
そう考える自体が、もう歳を取ってきてるんだよなぁと思うと、
嬉しいような寂しいような複雑な気持ちだった。
そんな事をぼんやりと考えつつも、僕は今日も郵便入れに手紙数枚を慣れた手つきで投函した。


8年目も僕はいつも通り。
今日は君を何に例えて、何を書こうか。
幕下16枚目の全勝優勝のような君への愛の厳しさだろうか。
AMPA型グルタミン受容体のような神経を繋ぐ大事な存在だと言う事だろうか。



《続く》

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【二次創作】粘着系男子の15年ネチネチ【前編】

家の裏でマンボウが死んでるPさんの粘着系男子の15年ネチネチが
好きすぎて小説を書きました!

初投稿でまだまだ未熟ですが、感想やアドバイスをいただけると嬉しいです!


何かご都合が悪かったら、消去します。

閲覧数:457

投稿日:2011/09/16 20:23:40

文字数:3,966文字

カテゴリ:小説

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    はじめまして、ユルカラインと申します。

    コウさんの作品が「注目の作品」にあって、タイトルに引かれてきました。
    そして後編まで一気に読んでしまいました。

    凄すぎて泣きました。
    前編と後編、両方ともブクマいただきました。

    実は私も家の裏でマンボウが死んでるPさんの、「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」の小説を書いているのですが…いろいろとマイワールド爆発です\(^o^)/

    コウさんの作品…これが初投稿とは思えないくらいにレベルが高いです!
    これからもがんばってください!

    では。

    2011/10/09 09:57:08

    • コウ

      コウ

      ユルカラインさん、注目作品の中から、この小説を見つけて読んでいただいて、感想・ブクマまで
      ありがとうございます!
      泣けるような作品を目指したので、うまく伝わったようでよかったです。
      ユルカラインさんの小説も読ませていただいて、とても面白かったです^^
      応援、ありがとうございます!

      2011/10/09 11:38:51

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