隣にいるのはいったい誰じゃ?
前にいるのはいったい誰じゃ?
気をつけなされ
気をつけなされ
膝の愛猫は 愛猫か?
足元の愛犬は 愛犬か?
目の前の童は いったい誰じゃ?
気をつけなされ
どこにいるともわからぬぞ
奴らはどこにいるのやら
奴らの声を聞いてはならぬ
奴らの姿を見てはならぬ
奴らと口をきいてはならぬ
夜道の灯りに魅かれてはならぬ
夜道に後ろを見てはならぬ
夜の囃子を聴いてはならぬ
気をつけなされ
気をつけなされ
百鬼夜行がやってくる
奴らがくるぞ
奴らがくるぞ
異形の者が
物の怪が
何者かもわからぬものが
やってくる
やってくる
やってくるぞ
「気をつけなされ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
部屋に男の笑う声が響き渡った。
心底愉快そうに笑う男の目の前で、女は眉間に皴を寄せる。
「成程。それはそれは愉快な話・・・」
「そうでしょうか?」
まっすぐに見返す女の表情は不愉快であることを隠すことなく男を見返す。
「それで、女として、お主はどう思うわけじゃ?」
「何の話なのでしょうか?」
間髪いれず、否定したその声は心底冷えている。
「先ほどの話で、なぜそのような問いを受けることになるのか理解致しかねます」
「では、聞くが、そこにあったものはどうした?」
男が指差した先で、女は握りこぶしを作り、歯を食いしばった。
「それこそ、お主の本音であると、儂は思うがの?」
ゆったりと脇息にもたれ、キセルを口に銜えて紫煙を燻らせた男を正面から睨みつけ、女は苦々しく言葉を吐いた。
「誠に、不覚にございました」
「不覚?」
「一族の長ともあろう者が、[まやかし]にやられるとは・・・」
「・・・・・・ほう。つまりは、お主は何者かによる[まやかし]にまんまとやられたと?」
「お恥かしながら、認めざるを得ません」
まっすぐに女が視線を向ける。
スッと男の表情が硬質なものとなる。
「そうでなければ、説明ができません」
カンッと、男がキセルを灰壷に叩きつけた音が木霊した。
横に控えていた色を持たぬ童子が、新しい煙草を詰めたキセルを手早く男に差し出した。
先ほど持っていたものを灰壷に転がし、童子から新しいものを受け取った男は心底冷えた視線を女に突き刺した。
「説明のぅ・・・」
「故に、御頭様の思っていらっしゃる事など、断じて御座いません」
そう言うと女は立ち上がり、男の元に近づくと再び跪き、右手を上げた。
その先で男の持っていたキセルの先の煙草が赤く火が灯る。
ジリジリと音が漏れ、スッと女が手を下げると、そこから静かに煙の糸が立ち上った。
「それでは、失礼致します」
一度後退し丁寧に頭を下げると、女はまっすぐ立ち上がり男の目の前の障子から立ち去って行った。
静かにその障子が閉じるのを見つめていた男はゆっくりとキセルを銜えると、煙を吸い込んだ。
(相変わらず、あの女の炎は別格じゃの)
発火能力のある者、炎そのものである者、幾多もの炎を司る者のなかで、男はこの女の炎が一番気に入っていた。
女もその事を知っている。
いつの間にか、この行為は二人の間で忠誠の証を示すものとなっていた。
(旨い・・・・)
しかし―。
ゆっくりと煙を口から吐き出すと、男は勢い良くキセルを灰壷に叩きつけた。
(今日はつまらぬ味をしておるわ)
新しいキセルを差し出した童子を手で制し、男は立ち上がり今一度女が消えた障子に冷めた視線を投げつけた。
(つまらぬ・・・・・)
興ざめした表情をそのままに、男は上段の席からゆっくりと降りた。
木の格子の窓に近づき、そこから入り込む日の光を浴びる。
外では、人間たちがあくせくと動いているのが見える。
ここはヒトの世界の中にあって、人の世界とは異なる場所にある。
上から見下ろしているこの男の存在を人が気付くことはない。
外からの空気を吸い込み、男は目を細めた。
(収穫の季節か・・・・)
と、男は一人ごちると、冷めていた表情を静かに緩めた。
【カイメイ】 Red + Blue × Autumn tale
吸血鬼カイト × 妖狐メイコ
「Blue + Red × Halloween」の続編です。
この話の半分以上がネタとノリと勢いでできています。
すべてがデタラメワールドです。(この世界の通貨は1ニコか1栗どっちにしようかなぁ、とか考えていたりして・・・)
専門の知識をお持ちの方は、温かい目で見ていただけると幸いです。
実在の人物(?!)、実在の国、その他とは一切関係ありません。自己満足の産物以外の何物でもありません。
なんか続き物らしいっす・・・。
本気か?本気です。
あと虫が苦手な方注意。
<前のバージョンで続きます>
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