円柱状の機械。ガラスの壁には四角く切り取られたドアがあり、機械の操作で開閉するのだが、それが作動していないようだ。
 ルカは大きく舌を打ち、もう一度ミクの名を呼ぶ。

「や…めて……。私の、歌……」

 震える腕を持ち上げて、ふよりと宙に浮かぶ色とりどりの球体に手を伸ばす。
 指先が赤色を捉えるよりも一瞬早く、その球体を黒い影が攫った。他の色の球体も同じく、次々と黒に飲み込まれている。
 ミクの瞳が、悲しみと絶望に染まった。
 球体を抱えた黒い影は、ガラスを通り抜けてミカの元へと集う。
 黒く丸い身体からは細長い脚が左右に五本ずつ、計十本の足が生え、目玉と思われる五つの丸は赤々と光輝いている。蜘蛛に酷似したそれらが、わさわさとミカの足元に身を寄せ合い、彼女の影の中へと沈むようにして姿を消して行く。

「返……して……」

 ガクリ、と糸の切れた人形のように床へ倒れ伏したミクが、力を振り絞って顔を上げ、腕を前へ伸ばし、力の入らない身体を引きずってミカへと近づく。

「私の、歌を……返して……っ!」

 懇願。
 しかし、ミカはそれを嘲笑う。

「い・や」

 ゆっくりと唇を動かし、その二つの音を生み出す。

「これで、アナタは歌を失って、存在価値も一緒に失った。絶望に呑まれながら、消滅して行くといいよ。アナタが苦しむ姿、私大好き」

 そう言って、ミカは黒い蜘蛛が持ち帰った球体の一つに、そっと口づけを落とす。

「じゃあね、初音ミク。アナタが消滅したら、その身体をもらいにもう一度来てあげるわ」
「そんな……っ!」

 身を翻し、ミカは部屋を去ろうとミクに背を向ける。

「待ちなさい!」

 それを呼び止めるルカの声。
 ミカと同時に駆け出し、行く手を阻もうと腕を伸ばす。
 だが、その指先が彼女の真紅の髪を捕えるよりも早く、軽い身のこなしでミカは宙に舞った。

「もう、乱暴なんだから」

 トン、と地面を蹴ったミカは、空中で身を捻って体勢を変え、突っ込んできたルカの背を手で軽く押してルカの背後に降り立つ。
「慌てなくても、また会えるよ。あの子が消滅したらね」
 あの子、と床に倒れるミクを指差し、ミカはコロコロと笑って身を翻した。
 行く手を阻もうとする研究員たちを薙ぎ倒し、いとも容易くミカは部屋を飛び出した。

「早く追いなさい! 逃がさないで!」

 ルカの叱咤の声で数人の研究員がミカを追って駆け出す。
 ミカが居なくなった途端に機械は元の動きを取り戻し、ミクの元へと繋がるドアも、シュンと音を立てて開いた。

「ミク! しっかりしなさい!」

 駆け寄るルカ。
 くたりと力無いミクを抱き起こす。

「……え、して……」

 震える唇で、小さく紡がれた言葉。それに、ルカは眉を寄せ、唇を噛んだ。


「返して……返して……。私の、歌―――」


 ミクはただそれだけを繰り返し、やがて意識を失った。

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VOCALOID-奪われた歌 1-4

ファンタジー風小説の予定です。意味不明なところもあるかもしれませんが無理やりにでも納得していただけると助かります(笑)ここのところ忙しいので更新はやや遅めになると思います。

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投稿日:2010/07/10 15:48:07

文字数:1,219文字

カテゴリ:小説

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