水鏡はまず、健やかに伸びる若木に似た緑と陽光に似た金を映した。他の全ては曖昧にぼやけているが、段々と像がはっきりするに連れてそれが2人の人間の髪の色だとわかった。
明らかに王侯貴族のそれと分かるドレスを纏う緑の髪の少女と、動きやすいデザインの従者服を着た金髪の少年が向かい合って立っていた。
「ミク、と・・・レン君? レン君はよしとして、なんでミクがいるの?」
意外そうに言ったカイトの言葉に、メイコは目を見開いた。レンはかつての弟子だからメイコもよく知っているが、ミクといえば隣国フィステューゲン王国の王女だ。1国の王女と、元王子とはいえ現在は召使の彼にいつの間に接点ができたのか。
鏡はその疑問に答えず、ただ向かい合う2人を映す。彼らの唇が動くが、その声はこちらまで届かない。
「メイコ、声が聞こえないようにできない?」
「言われなくてもやるわ。気が散るから、もう話しかけないで」
「・・・ごめん」
メイコは水鏡に手を翳し、低い声で呪文を唱える。
『水よ、流るモノ
過去を知るモノ
我が呼びかけに応え、
せせらぎの間に響く音を』
最初は小さく途切れ途切れに、やがて大きくはっきりと、水鏡の風景に音がついた。
《選んでください、ミクさん》
レンが口を開く。その声に宿るのは、苦しみと悲しみ。
《何を選ぶのかしら? 小さな異国の言霊使いさん》
周囲が赤々と燃えていても、ミクはふわりと笑っていた。それはまさしく、王族の気品。陥落直前の王宮にあっても王族の誇りを失わない彼女に、レンの顔が一層苦悶に歪む。
《【王女】としてそのまま死ぬか、【王女】を殺して唯の【ミク】になるか。選んで下さい、ミクリアーナ・エリオ・イル・フィステューゲン》
絞りだすように呟いたレンの声は掠れていた。
《【私】と【王女】は簡単に分けられる物ではない。逃げるなんて真似も、したくない。でも・・・そうね、第3の選択肢があるなら、それを選びたいわ。誰も死なない選択肢を》
ミクの表情から笑みが消え、【王女】の表情になる。
《・・・仰せのままに、フィステューゲン王国第1王女ミクリアーナ・エリオ・イル・フィステューゲン》
レンは胸に手を当ててひざまずき、ミクに最大限の礼を示した。胸に手を当てたまま立ち上がり、ついと目を閉じる―――その、直前。
彼は、水鏡越しにメイコ達を見た。青い瞳に自分の姿が映り込む錯覚。
メイコはすぐにかぶりを振ってそれを打ち消した。自分の持つ魔法がもたらす効果はよく知っていた。だからこそ、レンが魔法越しに自分達を視認する事は不可能のはずだ。
王族だから規格外なのだろうか。
(・・・まあ、元々レンと言う人間が色々と規格外だし)
病弱で体力ないのに細剣を振り回せば1人で軍の1小隊を昏倒させたり、王女のためとか言って大臣クラスの重役を片っ端から闇討ちしたり、体力に不安がありすぎるからと参謀にしたら容赦のない手で反乱を瞬殺ならぬ瞬圧したり。
このあたりになると、最早「王族だから」ではなく「レンだから」だ。王族が秀でているのは基礎魔力と魔力の制御能力であって、知恵と非道な性格ではない。
《先生、この風景見てるんでしょ? 先生の水鏡は過去の光景を音付きで映しますからね。カイ兄と一緒に僕らを見てる様子が“視え”ましたから》
にっこりと笑う笑顔が恐ろしいのは、はたして気のせいなのだろうか。
《カイ兄、ミクさんをお願いします》
レンはあきらかにこちらを見て、ご丁寧にカイトの方に頭を下げた。ミクの方に向き直り、芝居がかった仕草で一礼する。
《此度の出し物は、言霊使いの詩魔法が一つ、雪ノ歌姫》
誰かの断末魔と、崩れる建物の悲鳴。
それらをバックミュージックに、レンの詩が始まった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【オリジナル小説】ポーシュリカの罪人・8 ~水鏡が映す風景~

最早レンだからなんでもアリw
伝説はこれしきで終わりません。レンの仕業と知らないだけで他にも色々やらかしています。
メイコの魔法はどこから見えるのか見られる側には分からない・・・はずなんですけどね。
テストが終わる頃にはうpできるはず、なのですが間に合いませんでしたサーセンoyz

閲覧数:248

投稿日:2011/03/14 18:29:34

文字数:1,538文字

カテゴリ:小説

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  • 星蛇

    星蛇

    ご意見・ご感想

    読ませて頂きました。
    続きが楽しみです。こうやって少しづつ話が投稿されるのも素敵ですね……。
    私は一区切り全部書き終わらないと、後で辻褄合わせができないのが怖くて(笑)

    これは、リンレンが王女と召使だった頃をメイコさんが追憶してる、場面でしょうか?
    私の読解力不足がたたっているようで、もし違うようでしたら申し訳ありません><;

    2011/03/15 20:38:29

    • 零奈@受験生につき更新低下・・・

      零奈@受験生につき更新低下・・・

      私はこうやってちょくちょく投稿しないといつまで経っても投稿できそうにないのでw
      ここポーシュリカは全員が何らかの魔法の力を持っているものの、国(というか民族)ごとに使える魔法が違うので、占いができないカイトが占いの力を持つメイコにレンが残した予言もどきを占ってもらっています。
      けど、なぜかミクは出てくるしこちらを認識できないはずなのにしっかり見据えたりなので混乱中の二人です。
      そのうちレンとカイトの関係もあきらかにする予定です。
      まあ、一部メイコの回想シーンは入っています。
      色々と規格外でなんでもありなのがうちの双子(特にレン)です。
      次回も見てくれると嬉しいですw

      2011/03/16 16:15:31

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