「オレはお詫びにメイコさんの看病をするから舞踏会には出ないよ!」レン王子が口を開いた。「看病なんて!もう平気です。馬車を待たせてあるから、その中で妹たちを待ちますし…」メイコはあわてて立ち上がると、激痛を感じて顔をしかめた。二人の王子があわてて駆け寄ろうとする。メイコはそんな様子を見て、女兄弟のいない王子たちはどちらも女性に優しいんだなと感じた。「メイコさんにはオレが付いてるからお前は舞踏会に行きなさい。安心しろ、父上たちもお前のお妃候補なら急がなくてもそのうち決めればいいくらいに思われてるさ。…それにお前みたいなお子様狙いの女性もそうはいないだろ。」少し意地悪な顔で最後の一言を付け加えると警護兵にレンを連れて行くよう指示した。この舞踏会は主に第一王子のお妃候補を選ぶためのものなのかと思っていると、カイト王子が口を開いた。「実はオレもあなたやレンと同じで本当は舞踏会に出たくはないんです。メイコさんには悪いけどこれで少し時間が稼げるなって思ってしまいました。」人なつこい笑みを浮かべてしゃべるカイト王子を見ているとメイコは穏やかな気持ちになった。「だからもうしばらくここで時間つぶしにつき合ってください」さっきまでの第一王子らしい威厳に満ちた表情とは違う、やわらかな笑みを浮かべて王子が言った。頼まれたら嫌と言えないメイコは、そんなことならと引き受けた。どうせ舞踏会はまだまだ終わらないし、会場は広く人も多いので、自分が見当たらなくても妹たちは不思議に思わないだろう。
それからとりとめのない話をした。家のこと家族のこと仕事のこと。メイコが自分の仕事は音楽の家庭教師だと話すとカイト王子はそれに少し興味を持ったようだった。メイコは王子に、なぜ舞踏会に出るのが嫌なのかと聞いた。一番の疑問だ。開催する側の人間なのに。しかも大半はカイト王子のために集まるのだ。王子は自分自身知らない人が大勢いる場に行くのをあまり好まないし、お妃候補をその場で探すのも本意ではないと言った。もちろん候補なのだから複数人選んでも構わないし、今回の参加者以外にも候補がいたっていいわけだが、適当なことをして相手の人生を狂わせたくないと話した。確かに候補に名前が挙がると、それだけでその女性の周囲に少なからず影響を及ぼすことになるだろう。そんな考えのため第一王子としては珍しく、今までお妃候補を1人も選んでいなかった。「公の人間として人に接っする機会は多いですが、それでは相手のことを深く知るのは難しいですからね」王子は人見知りなのですか、というメイコの問いに苦笑いしながらそう答えた。
ートントンー「失礼致します。王子そろそろ…」使用人が呼びにきた。王子は視線を返し頷いた。「オレはそろそろ行かなくてはいけませんが、メイコさんは本当に舞踏会には出ないのですか?そのドレス、とても似合っているのに」誉められて照れくさくなり、うつむき加減に答えた。「…ありがとうございます。で、でも、やっぱり遠慮させていただきます」足はまだ痛むがそんな素振りはみせず、席を立って丁寧にお礼を述べるとメイコは王子に気を使わせないようにと、すぐにでも退室しようとしていた。王子は静止する素振りを見せ少し思案しこう言った。「メイコさん、どうかその足のケガが治るまで、こちらで治療を続けさせてもらえませんか?弟のせいでケガをされたわけですし、お詫びの気持ちも込めて。治るまで毎日迎えをやりますから」メイコはこの親切な申し出に少し驚いたが、重ねてお礼をいい、その申し出を断った。湿布を貼っておとなしくしておけば治りますからと。王子はまだ何か言いたそうだったが、呼びにきた使用人が待っていることもあり慇懃に挨拶をし部屋で別れた。
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