北海道の冬は、寒い。
<砕けろ☆ホーリーナイト>
雪のちらつく中を、俺は無言で歩いていた。
賑やかにざわつく街中が、正直恨めしい。
え、今日は十二月二十四日?この時期何かあったっけ?もうすぐ色んな店舗が年内の最後の営業日だから、買い溜めを始める時期の事だろ?え、なにそのイルミネーション。なにその陽気な歌。懐が寒くなる時期を祝ってくれなくてもいいんだけどなあ。
俺の視界の隅の方で、極彩色に彩られた看板がちらりと姿を見せる。
メリー…さんの羊。うん、あれはそう書いてあるんだ、間違いない。確かめる必要だってない。うんうんOK。大丈夫だ問題ない。
かさかさ、と十二月の風に晒されて右手のビニール袋が抗議の声を上げる。中身は日用品とか食材とか、いつも買うものと何の変わりもない。…あればよかったのに…いや!そ、そんな事全然思ってないんだからね!…誰向けにツンデレてんだろう、俺。
晴れて大学に入って、二回目のクリスマス。
去年は冬休みにすぐ親元に帰ったから何を考えるわけでもなく雑用としてこき使われてたけど、今年は一人暮らし初の一人クリスマスだ。わーい、おめでとー。…切ない。
何故か奥歯がぎりぎりと音を立てる。
違う…これは悔しいからなんかじゃない…ただ少し風が冷たいからなんだ。そのせいなんだ。
いやま、そりゃね、クリスマスに誘いたい奴の一人や二人いましたよ。一丁前にいいなー、と思ってる女の子だっていますよ。
でも残念な事にほとんどの友達は他県の出だから年末年始に帰ったし、残ってる奴らも…残ってる奴らも…
くそおおおあいつら皆爆発しろおおお!!
スーパーの袋を握る手に力が篭る。
何、あのリア充ども!そんなんに縁のない俺の前でキャッキャ☆ウフフしやがって!まさかマジで登下校中に手を繋いで歩く奴とかいるとは思わなかったよ!さ、淋しい気分になったりなんかしないんだからねっ!
あ、くそ…なんか気分が落ち込んできた。
俺は空いている左手でジャケットのポケットを探る。ダウンのジャケットだからポケットはちょっとぬくい。
探し出したのは、携帯。
ぱかりと画面を開いて、発信履歴を見て…溜め息をつく。
一番最新の発信履歴はリンへのもの。
リンは、まあ、その、なんだ。俺がちょっといいなー、と思ってる女の子だ。
性格としては割とすっきりしてて、どっちかというとキツイ感じもするけど、たまにめっちゃ可愛い。いや、言わないけどさそんな事。
あー、正確に言うんなら、言わないっていうか言えない。言えたらこんな苦労してない。
…ちなみに、ついさっきリンに、「今日暇?」って電話したら、即効で『ごめん、今手が塞がってんの』って返された。
ですよねー。
そうですよねー。
仮に俺を嫌がったんじゃないにしても当日の電話だしな、そりゃあ手も空かないわ。それに確かリンって実家から通ってるはずだから、家族との兼ね合いもあるんだろうし。
まあそうそう上手く行くもんじゃないよな、と思いながらクラスメイトの番号を捜す。愚痴る相手が欲しかったから。
ただし、その相手が三コール目で電話を取ったときには、俺はまだ人選を誤ったことに気付いていなかった。
『…何』
いつもの通りの無愛想な言葉に、なんとなくほっとする。
「なークオ、今何してる?」
『あ、ちょ、あんま喋らないでくれる?レンの声でミクの可愛い鼻歌が聞こえない』
「爆発しろ!ブラックホールになれ!!」
『超新星じゃないんだけど』
そうだった、こいつ彼女持ちだった!しかもさっき例に挙げた、ラブラブな感じのバカップル!
くそ、この敵め。そう、全世界のリア充は余す事なく敵。敵ったら敵。
なんかこー、可愛い彼女とカッコイイ彼氏で手を繋いで、「俺は君のサンタクロースさマイハニー☆」「きゃっ、素敵よダーリン☆」とかやっちゃうんだろ?そうなんだろ?
ちくしょう、爆発しろ大通り公園。弁財天様をお祀りして別れの公園となれ。寧ろ俺を祀ってくれればそれで完璧…!
『レン、レン…聞いてんの?切るね』
「はっ!いや待て敵その①!」
『…敵呼ばわり?』
呆れたような口調も気にしない。
というかクオって普段からそういう口調だから、実際どう感じてんだか良く分かんないんだよな。分かる気もないが!<キリッ
「今もしかしてパーティーとかしてんのか?」
『人の言葉にはちゃんと反応しようね。うん、ミクと二人で』
「じゃあ俺も混ぜてくれ!」
『は?レン正気?嫌だよ』
即答!?
「何でだよ!?」
俺の叫び(ほぼ悲鳴)にミクオはしれっとした声で返して来た。
『ミクとの二人きりの時間にレンを混ぜる?まさか、冗談は前髪だけにしなよ』
「だああああああこんのリア充めええええっ、この前髪はオシャレなんだよ!」
『ああ、足りない身長をカバーする為に』
「なんでそんなシークレットブーツみたいな扱い受けなきゃなんないんだ!?ちくしょう、リア充との会話はこれだから成立しないんだよッ!ミクオもリンも、馬鹿野郎―――っ!」
『リンは「野郎」じゃないよ』
至極最もなツッコミだった。
そこで一拍間を置いて、不審そうな声が俺に質問する。
『…って、え、リンも?』
「電話したら忙しいって一蹴された」
『…へぇー。じゃあ風邪引かないようにね』
非常にナチュラルな切り返し…俺は無情にも通話終了の画面が出た携帯を握り締める。いくら薄味は体にいいって言ったって、淡泊すぎるだろオイ。
風邪?そんなもんより遥かに辛い心の隙間風は既に吹きまくってるっての。心も寒けりゃ懐も外気も寒い。ホワイトクリスマスとか、なんでわざわざホワイトになる必要があるんだ…
アレか!?独り身には淋しいホワイトデーの親戚か!?拷問なんぞバレンタインだけで充分だって!
…駄目だ、段々思考回路がおかしくなって来たっぽい。早く寝よ。
いつの間にか止まっていた足を動かして家に向かう。
そういやケーキとか買ってないな。甘党って程でもないけど、ないとなんか淋しいような…まあいいか。わざわざ買う気は起きんし。
えーえーそうですよそうですよ、どうせ俺は家で一人淋しくラーメンですよ。
あ、どうしようマジで淋しい。せめて料理だけでも良いものにしたら少しはマシになるのかもしれないけど、一人で豪華な夕食食べたところで楽しくないし。つかもう本気で、帰ったら即寝ちゃおうかなー。早く寝たところでサンタクロースも何も来やしないけど。
あーあ、サンタさん、俺にも愛をください。もう別に彼女とかじゃなくてもいいから、一緒にクリスマスのパーティーしてくれるような情のある友人が欲しいです。ただし非リア充に限る。
「くたばれクリスマス…」
試しに口にしてみると、嫌になるくらいしっくり来た。
風が強い。さすが北海道、雪の激しさには定評がある。
これが俺のクリスマスか。
・・・泣いていいですか。
コメント2
関連動画0
ブクマつながり
もっと見る「…」
「…」
物凄く気まずい空気に耐えられなくて、俺はちらっと隣を見た。間髪入れずに剣呑な目で睨まれて、慌ててまた視線をさ迷わせる。
どうしよう。
どうしよう。
どうしたら良いか分からない。
「…おい」
「はいいぃっ!?」
地の底から響いてくるような声に、体が勝手に飛び上がる。何て言うか、なまじ聞...これは堪えらレン
翔破
・MEIKO(20)
男勝り長女。
面倒見が良くしっかり者。弟妹を纏めるリーダー役で、兄妹から慕われている。
酒乱。お酒が入ると絡む。
一見グラマスな大人の女性だが、以外に女の子らしい一面も。
・KAITO(18)
へタレ長男。
いつも弟妹にいじられている。お人好し。リンレンからは「バカイト」といい...ボーカロイドの日常 *登場人物
haruna
<サイド・L>
ええと、はじめまして。
俺、こういうの初めてなんで良くわかんないですけど…質問に答えれば良いんですよね?
はい、わかりました。
自己紹介、ですか。名前は鏡音レン、14歳です。
中学?いや、行ってません。
あー、ちょっと特殊な事情がありまして。
虐待!?いやまさか!仲良くやってますよ。...カウンセリング
翔破
この少女を見つけたのは、少年が街を歩きながら、消え逝く者を捜している時だった。消え逝く者を捜している――、といっても単にそれは少年にとって退屈な気分を誤魔化す為の時間に過ぎなかった。
人々は少年の存在に気付きもせず――いや、気付かずに通り過ぎていく。少年は死神。死期の直前にならないと、彼の姿は人間の...鎌を持てない死神の話 2
lunar
(Aメロ)
深夜2時過ぎ外は雨
ひとり何せず起きてたら
遠くの方で女声
こんな時間に何だろう
声がだんだん近くなり
自分の家の前でほら
話しかけるように喋る
「こんな心はいかがです?」
(Bメロ)...心情セール
青山ゆっきー
「というわけで」
「今日からお世話になりますね♪」
そう言って笑う、見慣れた、かつ見慣れない姿に、俺の頭は一瞬理解を拒否した。
<楽しい鏡音×4生活>
「うわぁ、いらっしゃい!リントくん、レンカちゃん、これからよろしくね!」
「まー、仲良くやるか」
「こちらこそ、一緒に暮らせるなんて嬉しいわ」
...楽しい鏡音×4生活
翔破
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
wanita
ご意見・ご感想
お久しぶりです!
もう、純粋に楽しませていただきました(^-^)/リンレンの気持ちいいほどのすれ違いっぷりを!
今後も楽しみにしています☆
2010/12/05 01:02:28
翔破
おお、お久しぶりです!読んで下さってありがとうございます!
擦れ違い楽しんでいただけましたか…良かったです。実はリア充になれるのに、フラグをばしばし叩き折っていくレン君の話でした。
うちの単品小説のレンはフラグ破壊率がハンパないですね!その上鈍感…
好きな時に好きな物を好きなだけ更新する文字書きですが、今後もちまちま見ていて下さると嬉しいです。メッセージありがとうございました!
2010/12/06 01:30:50
Aki-rA
ご意見・ご感想
今回のレン君は我々の気持ちを代弁してくれたんですねわかります。親友になれる気がしました。
前バージョンではとりあえず砕け散ろと思ったのと、リンの行動にやきもきしました。そして何となくその気持ちがわかったので親友になれる気がしました。
今回も楽しく読ませていただきました。ありがとうございます!
また勝手にタグ追加してしまいました。ごめんなさいm(..)m
あれ‥今年のクリスマスは中止DEATHと聞いたのですが‥
‥砕けろ☆ホーリーナイト!
2010/12/04 10:48:40
翔破
まさか共感の声が届くとは思っていませんでした…
今回はレンは非リア充の代弁者です。前に、空想パレットのラストのコメントで「廃都アトリエスタにてを聞いていたらレンがデレた」と言っていた訳ですが、あれは鏡音に限るからです。
前バージョンは、まあ、砂吐くほど甘くしてやろうと思ったので「砕け散れ!」と思って頂けたら、こちらとしては成功です!
え、リアル?いいよ鏡音がいればそれだけでリア充…だったらいいんですけどね!
2010/12/04 22:12:34