昨夜の雨で桜が散った。お花見しようねって、皆と話したのが先週のこと。
結局その時は予定が合わなくて流れてしまい、しかも昨夜からカイトとは喧嘩中。
新しい曲の楽譜にも目を通さないといけない。
何もかもに手をつける気にはなれなくて、一人部屋で溜め息を吐いた。
「もう、何もしたくないかも……」
最近忙しくて心に余裕がなくなってる。カイトとの喧嘩は、普段なら気にもしないような小さなことが原因だった。
謝るタイミングをすっかり失って、部屋に引っ込んできたのだ。ベッドに座り込んでぼーっとしていると、ドアがノックされた。
「……どうぞ」
カイトではないと思う。喧嘩の原因は私な訳だし。
「めーちゃん、仲直りしよっか」
そこには、申し訳なさそうな笑みを浮かべたカイトが立っていた。
なんで、と呆然としている私を余所に、カイトは私の横に腰を下ろす。二人分の重みにベッドが軋んだ。
「……カイト、あの」
「ごめん」
私が言う筈だった言葉を、カイトが囁いた。
そっとカイトから何かを握らされる。一体何を、と思ったらそれは八重桜だった。枝についたままの八重桜は鮮やかな色で、とても綺麗だ。
「花はまだ咲いてるみたいだよ」
「え?」
そっとカイトに抱き締められる。カイトの低くて優しい声が耳元で響いた。
「だからお花見はできるし、楽譜の確認は一緒にやろう」
「カイト……」
呼ぶ声に泣きが混ざってしまう。それに気付いたカイトは背中をさすってくれて、それからおでこにキスしてくれた。
「いつもごめんね、めーちゃんの優しさに甘えてばっかりで」
優しさに甘えてるのは私の方だ、と首を横にふる。
「いつも頑張ってくれてること、知ってるよ」
私が頑張れるのは皆が、カイトがいるからだ。伝えたい言葉は全部涙と嗚咽に変わる。
「疲れてても笑ってくれることも知ってる」
疲れた私に、いつもくだらないことを言って元気づけてくれる。
「いつもありがとう、めーちゃん」
そこでカイトの身体が離れ、そっと顎を持ち上げられる。カイトの指が私の涙をぬぐってくれて、それから唇にキスされた。
角度を変えて何度もキスされる度に、たくさんの愛してるが贈られてるような気がする。
今度はごめんもありがとうも私から伝えるわ。
世界でいちばん、大好きな君へ。
fin.
***
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