頭を掻きながら、レンくんがゆくりさんのお店に戻ってきた。

「すいませーん、遅くなっちゃって」
ジロリと彼をにらんで、ゆくりさんが言う。
「遅いわよー。りりィさんのとこで、ダベってたんじゃないのー?」

「ダベる、って、なんか、懐かしい言葉ですね」
ホソノさんが、微笑んでボソッと言う。

ん?という表情で、レンくんは彼を見つめた。

「こちら、ホソノ晴大臣さん。テトさんの新しいドールを、彼女と一緒に作られてる方よ」
ゆくりさんの紹介に、レンくんも姿勢を正した。
「あ、ど、どうも、初めまして。加賀美 蓮です。ここで、バイトをしています」

「あ、こりゃどうも。どうぞ宜しく」
ニッコリと笑うホソノさんだ。


●大ヒットすると、冷めた時に?

レンくんは言った。
「テトさんの新しいドール、うちでもサンプル置いてます。とっても評判イイんですよ!」

「ええ、そうみたいですねぇ」
ホソノさんは、うなずいた。
「大ヒットになるかも、知れないわねー」
ゆくりさんもうなずく。

「うーん、でもね」
ボソボソっと、細野さんはつぶやきだした。

「ボクはね、実は、テト・ドール・ナチュラルは、大ヒットはしなくてもいいと思ってるんですよ」
彼は、椅子に座りながら足を組んだ。
「ヘンに大ヒットして、人気が加熱すると、それが冷めた時にガクンと落ちて…。その空白が結構、あとを引く事も、多いんですよ」

ゆくりさんと、レンくんは、その言葉にうなずいた。
2人とも、雑貨屋として、流行りの商品の動きはよく知っている。

ホソノさんは、目を閉じて言う。
「とくに、今回はもしかすると、あの妙な会社がからむかも知れないし、ね」


●商品に命が吹き込まれる

彼は続ける。

「商品が大ヒットして、名前が知れわたると…」
目を閉じて、意味ありげにつぶやいた。
「作った人の手を離れて、商品が“ひとり歩き”するんですよ。まるで、命が吹き込まれたみたいにね」

「へぇ、面白いですね。命が宿るんですね?」
レンくんは聞き返した。
「うん。でもね、モンダイは、そのあとなんだ」
ホソノさんは、説明するように言う。

「商品を買った人の気持ちに、ちゃんと届いているかどうか。それによって、長生きするかどうか決まる」
ゆくりさんは、その彼の言葉を聞いて、うなずいた。

「たとえばその、“月光企画”っていうところは…」
ホソノさんは言った。

「本当にそのモノを使う人の“身”になって作ってるのか、ちょっとわからない所もある」「(ーヘー;)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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玩具屋カイくんの販売日誌(233) ホソノさんの商品論は?

とつとつと語るホソノさん。何となく人を納得させてしまいます。

閲覧数:69

投稿日:2014/04/06 13:35:03

文字数:1,057文字

カテゴリ:小説

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  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    続き、行きます~♪

    さてさて、ホソノさんのお話は、ある意味、シビアで現実的ですが、実際、リアルに売っている人、作っている人が抱える、不安ですよね。

    TVで、”取材お断りの店に頼み込んで取材させてもらえるか?”って番組をちょっとだけ見ていたのです。

    ホソノさんの”商品がワッと売れると、あとが怖い事もある”って内容と同じ事を、結局取材を最後まで断った”中華料理店”の店主が言ってました。とある有名なアーティストだけでカメラ音声無しで頼み込みに行ったら、

    「うちは”口コミ”だけでやっていきたいんですよ」

    「TV取材後、客が今よりもいきなりワッと来てくれるとは思いますが、うちの人員をそれに対応して増やせないから、結局、お客さんに失礼な事になると思います。すると、前より評判悪くなるでしょ?」

    そのお店は”隠れた人気店”だから、今の人気だけで、”隠れた名店”の段階で止めて、やっていきたい、そういう事なのだそうです。

    この店主は丁寧に説明したので、頼みに行ったアーティストも、その後やってきた相棒に、逆にその人を説得する店主側の立場になるくらい、納得してしまったのですよね。

    さて、月光企画、の中身、どんな感じになっているのでしょうか?

    ではでは~♪

    2015/01/08 11:25:51

    • tamaonion

      tamaonion

      enarinさん、メッセージありがとうございます

      >そのお店は”隠れた人気店”だから、今の人気だけで、”隠れた名店”の段階で止めて、やっていきたい、そういう事なのだそうです。

      なるほど。そのTVの企画は面白いですね。
      その主人の方も、性根が座っているというか。きっと「地に足をつけた」商売をされているんでしょう。

      これからはきっと、そういう人たちが正しい評価をされる時代になるんでしょうね。


      >TV取材後、客が今よりもいきなりワッと来てくれるとは思いますが、

      そうなんですよね。で、ワッと来て、ザッと引いていくんですよね。
      群集心理というか。マスコミの視聴者の人気は、はかないですね。

      その店主さんのおっしゃってることは、たとえば小出版社の「ベストセラー倒産」の現象とか、そんなことにも通じる気がします。

      ホント、シビアで、難しいところですが...。

      ぜひまた、感想を聞かせてください!

      では、また。

      2015/01/18 22:49:14

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