玩具屋カイくんの販売日誌(213) デフォ子さんのニコビレ卒業
投稿日:2013/10/20 16:42:57 | 文字数:1,811文字 | 閲覧数:63 | カテゴリ:小説
ニコビレを出ていく人、これからここで仕事する人。人生の交差点です(大袈裟か)。
「よおし、と。これで終わり」。
引越し用の箱にテープを貼って、デフォ子さんは入口のルナさんに、手を挙げて挨拶した。
「おつかれ様。作業、終わった?」
ルナさんが聞く。
「うん。なんとか。引越し屋さんにも、連絡しといたし」
彼女は手をパンパンとはたきながら、立ち上がった。
ここは、デザイナー支援施設、ニコニコ・デザイナーズ・ビレッジ(通称・ニコビレ)にある、デフォ子さんの事務所。
この施設を卒業することになって、荷物のまとめも、今、済んだ。
「ひと息入れましょう」
「うん、そうしよう」
ひと足早く、この施設を卒業したルナさんは、きょう、ひさびさにここに戻ってきている。
卒業、といっても勿論、彼女は社会人。3年間の入居を終えて、別の場所に事務所を構えたのだ。
デフォ子さんも、彼女同様、ここを出て行く。
2人は、ニコビレの中のティールームに向かった。
●不思議な感じがしたから
2人がティールームに入っていくと、入口の近くの席に座っていた女の人が、こちらを見ている。
「あ!紙魚子さん」
ルナさんの声に、にっこりと笑うメガネの女性。兎論 紙魚子さんだった。
「こんにちは」
ルナさんの卒業と入れ替わるように、この施設に入ってきたのが彼女だ。
彼女たちは、知り合いなのだった。
「どうですか?このニコビレ。もう、慣れたかな?」
「ええ、やっと。少しずつです」
2人のやりとりを、ボーっとした顔で、デフォ子さんが眺めている。
「あ、紹介しましょう。こちら、イラストレーターの唄音ウタさん。私と同じで、こんどここを卒業されるのよ」
「はじめまして。兎論紙魚子(うろん・しみこ)です」
我に返ったように、目を見開くデフォ子さん。
「あ、どうもよろしく。唄音ウタです。デフォ子と呼んでください」
あだ名と本名の、関連がつかめずに、紙魚子さんは目を丸くしたが、ニッコリとうなずいた。
ボーっとした感じのデフォ子さんと、やはり地味目の感じで落ち着いた紙魚子さん。
2人はなんとなく、握手を交わし、しばらくお互いを見つめ合っている。
なんだか、気恥ずかしくなったのは、傍で見ているルナさんだ。
「あれ、なに。どうしたの、2人とも…」
「あ、いや。何だろうね。なんか、不思議な感じがしたからサ」
ふと我に返って、ブッキラボウに、デフォ子さんは言った。
●3年間、いろいろあったね
3人が立って話をしていると、ティールームに入ってきた男の人が、声をかけた。
「お、唄音さん。準備は済んだの?」
「あ、ズン村長。済みましたよ!」
デフォ子さんは、会釈をして答えた。
入ってきたのは、ニコビレの館長(通称・村長)の風祭順さん、あだ名・ズンさんだ。
ズン村長は、笑って、ちょっとため息をついて言った。
「そうか。君もいよいよ、ここを卒業だな。頑張ったね」
そして、ニヤニヤ笑いながら加えた。
「3年間、“いろいろ”あったけどな」
ルナさんは、それを聞いて、可笑しくてたまらなかったが、なんとか笑いをこらえて、神妙な顔をした。
師弟の、ひとつの別れのシーンなのだ。
「ええ、3年間、ありがとうございました」
ケロッとした、さわやかな顔で、デフォ子さんは答えた。
●おしゃれな街だね!
村長は、続けた。
「ようやっと、君の新しい事務所の場所も決まったそうだね」
デフォ子さんは、うなずいた。
「はい。今までに比べると小さい部屋なんですけど…」
そう言って、コピーした手書きの地図を取り出し、ズン村長に渡した。
「場所の割には、家賃も手ごろで。ホラ、北青山なんです」
「ほう、おしゃれな街だね。港区の北青山?」
「でしょう。ルナさんの知り合いの、ファッション・ブティックが入っていた穴場物件が、空いたんです」
「そうか」
渡された地図を見ながら、ズン村長はつぶやいた。
「お、ここ、すぐ近くに“ハミングス”があるところだね」
ルナさんが、うなずいた。
「そうなんですよ。雑貨メーカーの“ハミングス”の、ちょうど隣なんですよね」
「うん、ルカさんがいるところの、隣なんです」
デフォ子さんも、うなずいた。
立ち話を続ける3人を見ながら、紙魚子さんはまた自分のいた席に戻って、残りのコーヒーを飲んだ。
「ふぅん。これが、ニコビレの人、いえ、ニコビレにいた人たち…。面白そうね」(・-・*)
作品へのコメント1
ピアプロにログインして作品にコメントをしましょう!
新規登録|ログイン-
ご意見・感想
今晩は♪ 今回はニコビレ卒業のシーンですね!
そうですよね、”3年”って、これまでたくさんの出会いと別れの期限として使われてきた数字ですよね。学業でも会社でも。
石の上にも3年って諺の通り、切り目の数字なんですね。世の中では”3年修行しても芽が出ないヤツは、その道ではあきらめた方がいい”なんて厳しい話も聞いたことがあります。
私は高校3年の時の卒業では、卒業式終了の瞬間に、長渕剛さんの”乾杯”を放送係が放送でかけ、見事に先生、生徒、入り乱れての泣きと抱擁の卒業式になりました。放送係、”してやったり”の、”したり顔”だったでしょうね、おそらくw
ニコビレでの3年で十分に経験とセンスを身につけた面々ですから、事務所に移っても快進撃を続けると思います。
そして紙魚子さんの不思議さがこれからどうでるか、楽しみです!
ではでは~♪
P.S 今日はとにかく寒くて1日大雨の最悪の天気でした。遂に根負けして、ガスファンヒーターを出して、扇風機をしまいました。なんか凄い交換作業だと思いました。
暑い→いきなり寒い
ですから。なんたる季節の変わり目…
明日は4日×二人分の大量の洗濯物に追われます…。2013/10/20 21:20:19 From enarin
-
メッセージのお返し
enarinさん、メッセージを有難うございます!
>”3年”って、これまでたくさんの出会いと別れの期限として使われてきた数字ですよね。学業でも会社でも。
石の上にも3年って諺の通り、切り目の数字なんですね。
ですねえ。3、っていう数は2とか4のように割り切れないし、三角形とかバランス的にもいいですよね。
逆に、3すくみなんていうのもありますが。
学校が3年、という以外にも、いろいろ有りそうですよね、探してみると。
>私は高校3年の時の卒業では、卒業式終了の瞬間に、長渕剛さんの”乾杯”を放送係が放送でかけ、見事に先生、生徒、入り乱れての泣きと抱擁の卒業式になりました。放送係、”してやったり”の、”したり顔”だったでしょうね、おそらくw
おお、何という演出(笑)。ドラマチックな体験でいいですね。
昔はヤンキーさんが先生を待ち伏せして...なんていうニュースもありましたが、そういう良いシチュエーションもあるんですねえ。
何かそれで、ストーリーを作ってみては??
>P.S 今日はとにかく寒くて1日大雨の最悪の天気でした。遂に根負けして、ガスファンヒーターを出して、扇風機をしまいました。なんか凄い交換作業だと思いました。
ホントです。台風が去って、まあ冬に直行、とはならなくて良かったですが。
どうもいま地球の気候、妙ですよねえ。
健康には、気をつけていきましょう。
また感想を聞かせてくださいね。
では、また。2013/10/22 22:27:22
tamaonion
オススメ作品10/28
-
Crazy ∞ nighT【自己解釈】
彼女たちは物語を作る。その【エンドロール】が褪せるまで、永遠に。
暗闇に響くカーテンコール。
やむことのない、観客達の喝采。
それらの音を、もっともっと響かせてほしいと願う。それこそ、永遠に。
しかし、それは永久に続くことはなく、開演ブザーが鳴り響く。
Crazy ∞ nighT【自己解釈】
-
sweet cage
自由になって 自由になって でも戻りたい
自由になって 自由になって 二人のsweet cage
僕は君を傷つけたかもしれない
君は僕を傷つけたかもしれない
冷めていくよりも思い出になること
sweet cage
-
君色ワンダーランド 【歌詞】
君色ワンダーランド 【歌詞】
A 真っ白な世界を何色で彩る?
何も無い空疎な世界を
真っ白な世界を何色で彩る?
誰も居ない孤独な世界を
君色ワンダーランド 【歌詞】
-
【KAITO】止まない雨に病みながら【オリジナル曲】歌詞
陰鬱な雨 灰色の空
窓から見てた
あなたはまだ帰らない
今日も残業なのでしょう
いつも疲れてるあなた
【KAITO】止まない雨に病みながら【オリジナル曲】歌詞
-
【VanaN'Ice】背徳の記憶~The Lost Memory~ 1【自己解釈】
気が狂ってしまいそうな程に、僕らは君を愛し、君は僕らを愛した。
その全てはIMITATION,偽りだ。
そしてこれは禁断。
僕らは、彼女を愛してはいけなかった。
また、彼女も僕らを愛してはいけなかった。
【VanaN'Ice】背徳の記憶~The Lost Memory~ 1【自己解釈】
-
五つの軌跡
満月の夜 誓う 絆 輝く光り 5色色の虹が巡り合った
事は軌跡で 運命なんだよ きっと
そら あか
星屑ある天 誓った 証し 輝く灯り 5色色が巡り
五つの軌跡
-
オタクの戯れ言(曲募集)
推しが尊い過ぎてヤバすぎる
マジでヤバいのどこがヤバいって
語彙力無すぎて
推しの良さが伝えきれない
誰か語彙力を下さい
オタクの戯れ言(曲募集)
-
狂い世界
お前が笑うと苦しい
この世界は黒と白に別れて
白は黒を悪だと決めつけていた
光があるから影がある
そんなことすら分からないなんて
狂い世界
-
君たちとの冒険を
【君たちとの冒険を】
あの日 図書室 手に取った本
君たちの世界に僕を呼ぶ
魔法がかけられていた。
僕たちは 仲間になった
君たちとの冒険を
-
【カイメイ中心合同誌】36枚目の楽譜に階名を【サンプル】
*3/27 名古屋ボカストにて頒布する小説合同誌のサンプルです
*前のバージョン(ver.) クリックで続きます
1. 陽葵ちず 幸せだけが在る夜に
2.ゆるりー 君に捧ぐワンシーンを
3.茶猫 秘密のおやつは蜜の味
【カイメイ中心合同誌】36枚目の楽譜に階名を【サンプル】
雑貨の仕事をしてます。
キャラクター雑貨がらみで、キャラクターも好きです。
音楽も好きですが、好きな曲の初音ミクバージョンを聴いて感心!
ボーカロイドを聴くようになりました。
機会があれば、いろいろ投稿したいと思ってます。
宜しくお願いします。
twitter http://twitter.com/tamaonion