前編
1 一月十四日
隣で動く人の気配に、メイコは目を覚ました。
(カイト……?)
そうだ。昨日の夜、カイトを引き止めて……そのまま……。
まだぼやけている意識の中で、メイコはぼんやりと考えた。
姉弟から恋人同士になってやっと一ヶ月。
メイコの部屋でカイトが夜を過ごしたのは、今回が初めての事。
更に言えば、こうして朝を迎えるのは、初めての夜を入れて、まだ3回目。
年が明けてからは、これが始めて。
年末年始で、お互い仕事が忙しい時期。
仕方がないのだが、やはり少し寂しいし、物足りない。
家族から一足飛びに、ベッドで一緒に朝までいるような関係になってしまったせいか、二人の間には、恋人らしい事がほとんど無い。。
家のことや妹弟達のことを話したり、仕事のことで意見を言い合ったり、互いのスケジュールを報告したりはするが、普通の恋人同士の間で交わされるような、取り留めのない会話や、普段の柔らかな触れあいも、ほぼ皆無。
二人きりで出かけたりも無し。
こうしてベッドで一緒にいる事にしても、仕事の打ち合わせで部屋に来て、そのまま……という感じ事に及んでいるので、あまり色気のあるシチュエーションではない。
やっぱり最初の時に、酔った勢いでカイトを押し倒して、雪崩れ込んだのが悪かった……とメイコは多少反省してる。
それでも一月半ばで、時間も出来たことだし、これから二人の時間を過ごしていけばいい。
そう思って昨日、仕事の打ち合わせのために来たカイトが、帰ろうとした時、そっとその手を握った。
目を開けると、カイトがこちらを覗き込んでいた。
真剣な目で、額には汗。いや、額だけではない。
裸の鎖骨の辺りから、胸に掛けて、汗が流れ落ちていた。
メイコの名前を呼ぼうとしているのだろうか、唇が少し開いている。なのに声が出ていない。
「カイト?」
メイコの方から呼びかけた。
「めーちゃん……」
泣きそうな声。
「どうしたのよ」
手を伸ばして、癖のない瑠璃の髪を撫でた。
「ごめん、なんでもない」
無理に笑っている。
「何でもないって……」
「ほんと、何でもないんだ」
メイコの言葉を遮りながら、カイトがベッドから降りた。
「俺、部屋に戻るよ」
床に落ちた服を、手早く身につけていく。
「めーちゃんは、もうちょっと寝ててね」
「カイトは?」
「俺はシャワー浴びて、朝ご飯を作るから」
セーターを着終わり、カイトが向き直った。
「みんなで朝ご飯しようね」
いつもの明るく優しい笑顔と、爽やかで甘い声。
「う、うん」
それ以上メイコは何も聞けなかった。
それから一ヶ月。カイトがメイコを抱くことはなかった。
2 二月十七日(1)
「がくぽ君」
レコーディングスタジオのある建物の廊下で、メイコは長い髪の後ろ姿に声を掛けた。
「メイコ殿」
振り返った今日のがくぽは、美振を腰に帯びた公式衣装。
「これからレコーディング?」
「レコーディングは終わりました。今から写真撮影とインタビューなので」
「そうなの。じゃあ、間に合いそうね」
「はい。カイト義兄者(あにじゃ)のバースディパーティですから、今夜は遅れずに行きますよ」
二月十七日は、カイトの誕生日。
家では今、ルカとリン、レン達が、パーティの準備を始めているはずだ。
さっき会ったミクも、今から帰って手伝うと行っていたし、メイコ自身も、今日の仕事はさっき終わった。
カイトも仕事だが、夜には絶対家に戻すように、マスターやスタッフ達に頼んである。
「でも、いいんですか?メイコ殿」
「なにが?」
「いえ、二人だけで誕生日を祝われないのかと思いまして」
「……えっ?」
「恋人同士なんでしょう? お二人は」
がくぽの言葉に、メイコが頬を染めた。
「カ、カイトが言ったの?」
「……いえ、俺がお二人を見ていてそう思ってました。最初から」
「そっ、そんな風に見えた?!」
「はい。……違うんですか?」
「ち、違ってないけど違う!」
思わずいってしまった、中途半端な回答。
「というと?」
比較的がくぽは冷静に聞き返してきた。
「えーと、確かに今は恋人同士なんだけど」
『恋人同士』の所で途端に声が小さくなった。
「二ヶ月前からなの」
「そうなんですか? 俺はてっきり、最初から恋人同士だと……」
「そんな訳ないじゃない! 本当に、二ヶ月前からなの」
「なら尚更義兄者は、恋人同士になって初めての誕生日を、二人きりで過ごされたかったのではないですか?」
「そっ、そうかしら……そんな話、全然しなかったから。最近は、二人きりで話もしてないし」
年末年始の繁忙期が終われば、少しは二人きりになる時間も出来るだろうと思ったのが甘かった。
新しい家族、巡音ルカがやってくるという、大イベントがあった上に、カイトには更に仕事の依頼が増えていた。
その上カイトの誕生日前と言うことも重なって、忙しさはほぼピークに達していた。
十四日から今日までの誕生日期間も、ほとんど家に帰って来ていない。
今日もぎりぎりまで仕事で、なんとか夜にみんなで祝う時間がとれたのだ。
それに……最後に二人で過ごした夜から、何となくカイトは二人きりになることを避けているように見える。
帰ってきて顔を合わせること自体減っているので、はっきりとは言えないが、なんとなくそう感じるのだ。
「俺なら誕生日には、恋人を一日中拘束したいですね。もちろん俺のベッドに」
メイコが目を見開いた。
「すごい。がくぽ君、意外に情熱的なんだ」
「女性に聞かせることではなかったかな? でも本音ですよ」
青い瞳が、意味ありげにメイコを見た。
「パーティの後にでも、ゆっくりお二人で過ごされてはいかがですか? 差し出がましい口をきくようですが」
「ううん。がくぽ君、ありがとう」
一礼して背を向けるがくぽを見送り、メイコは小さく頷いた。
カイトががくぽのように思っているかは分からないが、今はメイコ自身が、カイトと二人だけの時間が欲しい。
出会った時から優しく穏やかで、ほとんど不満を口にすることのないカイト。
二人きりでいても、いつも話をするのはメイコで、カイトはそれを楽しそうに聞いてっくれているだけの事が多い。
それでもミクが来る前、二人だけの時は、カイトも色々とメイコに甘えてきていた様の思う。
家族が増えて、仕事も増えてきてからは、段々としっかりしてきて、甘えてくることも無くなった。
長男らしくなってきた……と喜んでいたけれど……。
あの日、あんなに辛そうだったのに、結局、何も言ってくれなかった。
その事がなんだか寂しい。カイトを遠く感じてしまった。
思えば今日も、誕生日パーティだとか、プレゼントだとか、カイトの要望なんて、聞いていなかった。
恐らく聞いても「なんでも嬉しいよ」といつもの笑顔で応えただろうけど。
本音を聞きたい。何が欲しいの?どうして欲しいの?
恋人同士の関係になって、あんな辛そうな顔を見せられて、何も言ってもらえなくて、やっと気づいた。
自分はカイトのことを、何も知らない。
カイトが生まれた時から側にいて、一緒に暮らして、たくさん一緒に歌って……カイトのことなら、誰よりもよく知っているつもりだったのに。
「あれ……」
慌てて目頭を押さえた。
カイトを知らないことが、こんなに悲しい。
「私……カイトの事が好きなんだ……」
今更のように思った。
「私から動かなきゃ」
カイトが何も言ってくれないなら、自分から言わなければ。
-カイトのこと、全部教えて-って。
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