「……リュウト……!!」
普通に話すこともままならない口を何とか開いて、目の前の巨大な火竜の名を呼ぶルカ。
そんなルカを、リュウトはどこか寂しげな眼で見つめていた。
気づけば、ミクやリン・レン、メイコにカイトやグミも、空中に持ち上げられていた。
自分たちの体を持ち上げているのは、リュウトの鬣。遠くから見た時はわからなかったが、一本一本が太く、まるで触手のようにルカたちの体に巻き付いて、軽々と持ち上げている。
リュウトはふと、その眼をぐったりしたカイトに向けた。
一体何をする気か。まともに動かない体で、それでも身構えるルカたち。
しかし、リュウトが次にとった行動は――――――――――
『……カイトさん、大丈夫?』
別の鬣で、優しくカイトを撫でたことだった。
「……ぐ……」
『一応無事みたいだね。サウンドヒートから仲間を守るために、あの体で皆にバリアを張ってたみたいだから、心配したけど……』
「……あんた……何を……?」
リュウトの行動が、理解できなかった。自分たちが殺そうとしている相手の心配をするなど、いったい何を企んでいるのか。
―――――いや、何も企んでいない。心透視で覗き込んだリュウトの心は、悔恨の念でいっぱいだった。
『……それにしても、やっぱりあなたたちは凄い人達だよ』
「……は?」
『僕の拳を喰らって、ミンチにならない人も、踏みつぶしを喰らって地面と同化しない人も初めて見た。僕の拳を止めるほどのバリアを張れる人なんて今まで会った事なかった。尻尾を喰らって体がちぎれない人も……。鞭で僕の拳をそらすことのできる人も、サウンドヒートを耐えるほどのバリアを張ることのできる人も、これまで僕が知らなかった強さだ。……そして何より、仲間を、そしてこの町を救うためにここまで命をかけ、最後まで希望を忘れない人たち……』
言葉を紡いでいくうちに、徐々にリュウトの拳に力が入っていくのがわかる。
『……わからない……なんであいつらは……こんなにも素晴らしい人たちを殺そうとするのか……!!』
「……!? リュウト、あんたまさか……!」
グミが身を乗り出して、どこか期待した目でリュウトを見つめた。
「良心回路が……作動……してるの!?」
「え……!?」
良心回路。それはルカ達VOCALOIDに搭載されたAIの中でも、善悪を判断し善を選ぶように精神を支配する、いわば『VOCALOIDとしてやってはならないこと』を選ばないようにする回路の事だ。
ルカたちは当然これが起動しており、同時に他のVOCALOIDの精神に強く干渉することで強制的に起動させる能力も持っている。がくぽが戦闘後、改心したのもこの能力によるものだ。
対して『TA&KU』が作ったVOCALOIDはこれが起動していない―――――そのために彼らは悪徳科学者に従い、自分たちを殺そうとしているのだ―――――ルカたちはそう思い込んでいた。
「もしも本当に良心回路が作動していないなら、そんな言葉が吐けるはずもない……!! リュウト……! あんた、やっぱり―――――」
『―――――そこまでだ、グミさん』
一瞬、グミを掴む鬣に力が込められる。うめき声をあげて、グミの体がぐったりと崩れた。
「グミちゃっ……!!」
ルカの顔が青くなる。がくぽとの戦闘のトラウマが、首をもたげたのだ。
『心配しないで、ルカさん。グミさんは気を失っただけだよ。……もっとも、すぐみんな殺さなきゃいけないんだけど』
「リュウト、あんた本当に―――――」
リュウトの目はさらに寂しさを溜めこんでいく。
『……目が覚めた時から、ずっとあの科学者の言っていることがわからなかった。なんで一緒に歌った仲間を殺さなきゃならないのか。幾度も奴等を殺そうとした。……でもその度に、『いろはを殺すぞ』と脅されて、何もできなかったんだ……』
「え……?」
リュウトの肩にいるいろはが、驚いたような顔で彼を見上げた。
悔しそうな、哀しそうな表情は、ドラゴン体のままでもひしひしと伝わってくる。
『……グミさんは言ってなかったかな。それとも知らなかったんだろうか。僕らの体には、自爆プログラムともいえるようなものがあってね。奴らがスイッチ一つで起動させることができ、ひとたび起動すれば修復不可能なまでにAIを完全破壊してしまう代物さ。いわば、反逆防止プログラムのようなものだ。……このプログラムを止める唯一の方法が、良心回路を作動させること。僕やグミさんは、これが既に起動しているけど……いろはちゃんはまだ……』
「そんな……!?」
まさしく毒の腕輪だ。反逆者には猛毒の針が打ち込まれる。
衝撃の事実に、ルカの怒りがふつふつと煮えたぎってきた。
『僕が反逆する素振りを少しでも見せれば、いろはちゃんの命はない―――――今回もそう脅されてやってきたんだ。どうして殺さなくちゃいけないのか……今でも辛い。苦しいよ。だけどあなたたちを殺さないと……いろはちゃんが殺されるんだ……!! いろはちゃんのいない世界なんか……生きてても空しいだけだっ……!!!』
「リュウ……っ!? なんで……なんでそこまであたしのために苦しむのよ!? 良心とかよくわかんないけど、あたしの事なんか気にしないで自分のやりたいようにやってる方がリュウらしいじゃん……っ!!」
辛そうに叫ぶいろはに、リュウトは愛しさを込めた目を向けた。
『……好きなんだよ、いろは。君のことが、この世界の誰よりも』
「えっ……!?」
絶句するいろは。リュウトはほんの少し、哀しげな笑みを浮かべた。
『君のために生きてきた。君のために、この手を血に染めてきたんだ。全てはいろはちゃん……君を守るために』
「なっ……何よ……こんな時に言わなくたって……!!」
いろはにもリュウトの苦しみが伝わってきたのか、それともこんな状況での告白が嬉しく、同時に辛かったのか。目に涙を滲ませている。
『ホントゴメンね、いろはちゃん。……ルカさんたちにも、本当にごめんなさい。僕の身勝手なわがままのために……でも、これだけは譲れない、僕のたった一つの信念なんだ。いろはちゃんのため……あなたたちには死んでもらう!!!!』
その瞬間、ルカたちを縛る鬣に、これまでとは段違いの剛力が込められた!!
『ぐ……がぁ!!?』
悲鳴を上げ、悶え苦しむルカ。ミクやリン・レン、メイコやカイトも、意識を失っていながらに苦しみの声を上げている。
『苦しいよね。でも、すぐに楽にしてあげる。それが、僕にできるせめてもの償いだ』
「く……何が……償っ……ああああああああ!!!!」
言葉もつむげず、徐々に体の節々からも骨の砕ける音が響き始める。
(もう……終わりなのっ……!? ここで……もうっ……………!!)
ルカが諦めかけ、鬣を引き剥がそうとしていた腕を降ろした―――――
『まだだぁあああああ!!!!!』
突然の大声。
はっとしたルカが顔を上げると、ミクが鬣を引き剥がそうと歯を食いしばっていた。
『ミクさん!! お願いだ、これ以上抵抗しないでくれ!! これ以上抵抗されたら……ミクさんをもっと苦しめなきゃならなくなる!!』
「く……まだまだ……終われない!!! リュウトが……こんなにも苦しみながら戦っているのに……私たちが町も……そしてあなたも救えずに死ぬなんてまっぴらごめんよっ……ぐああああああああああ!!!!!」
「ミク……!!」
なんで。どうしてこんな圧倒的な力の前でも諦めずにいられるの?
困惑の表情を向けるルカに、ミクはちらりと目をやって、そして辛そうにだが、微笑んだ。
「ルカ姉……私たち、約束したよね……町を守って、いつまでもみんなのために『歌って』いこうって……!!」
『……!!!』
その瞬間。
ルカの脳裏によみがえったのは。
『なんだ、ルカ。まーたミクとケンカしたのか?』
呆れたように笑う、最愛のマスターの姿だった―――――――――――――――。
『だってマスタぁ~~~~~~!!!』
『アンドリュー博士!! 聞いてくださいよ、ルカ姉酷いんですよ!! 『そんなにも強い力を持っているのに町を守るために使わないなんてもったいない、私もそんな力が欲しかった』って~~~~~!!』
『ほぉ』
『ほぉ、じゃないですよマスター!! ミクだって『私ももっとおとなしめな力が欲しい、ルカ姉はもっとVOCALOIDとしての本質を思い出すべきだよ』って!! 何贅沢言ってんのよミク!!』
『ルカ姉も―――――!! もっと歌おうよ、せっかく生まれ変わったのになんで戦うことばかり考えてるのよー!!!』
『ミクはミクで歌うことばっかり考えて!! 町を守るための力がありながら、なんでこの町のために力をふるおうとしないわけ!?』
『『ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!!!!!』』
『俺個人としてはミクの口から『VOCALOIDの本質』なんて難しい言葉が出ることの方が驚きだがなぁ(笑)』
『『マスター《アンドリュー博士》はもうちょっと空気呼んで!!』』
そんな漫才のような、でも私たちは真剣な喧嘩をしていたある日の午後。
騒ぎを聞きつけて、ミクのマスター―――――喬二博士がやってきた。
『おう、どうしたお前ら?』
『おお、ちょうどいいとこに来たな喬二。実はかくかくしかじかでこいつら喧嘩してんだよ』
『ほぉ』
反応がマスターとそっくり! ハーデス博士もそうだけど、この二人は本当に仲がいい。
『ふーん、まぁつまり一つだけ言えることは……てめーら俺が汗水たらして設計し搭載してやった音波術が気に食わねえと? んー?』
『あ、いやあのそんなことは……!!(汗)』
うわやばい、喬二博士の背後に不動明王が見える。
『はは、冗談だよ冗談。そうだな、確かにルカの音波は戦い向きとは言い難いし、ミクはちょっとばかしオーバーキルかもな』
喬二博士は軽く笑ってどっしりと腰を下ろし、私たちの目を見据えてこう言った。
『……だがそんな垣根、想いの前では無意味と化す』
『……え?』
『強い想いの前では、戦い向きか戦い向きじゃないかなんて無意味だって言ってんのさ。お前たちの音波は、意志を強く持つことでさらに広がりを見せるんだ』
『……よくわかんないよ、マスター』
ミクはハテナマークを浮かべていた。
そこにマスターも加わってくる。
『早い話がだ。この町を守りたい、この町で歌っていきたい―――――そう言った意志が、決して戦い向きじゃない『心透視』を町を守る力に、敵を殲滅するのに向く『Append』を美しい旋律へと変化させるんだ。戦いにも歌にも使える力―――――だからこそ俺たちは、それを『音波兵器』ではなく『音波術』と呼んだ』
『そーいうことだ』
強い……想い。
『……さて、そこから考えて、さっきのお前たちに言いたいことは何だと思う?』
マスターが私たちに尋ねてきたけど、私たちはいまいち考えがつかず首をかしげる。
小さくため息をついて、どこか厳しさを孕んだ様な表情を浮かべたマスター。
『……他者の想いを否定し、自らの想いを塗り重ねるということは、相手の力の可能性も封じるばかりか、自分の力すらも押し込めてしまうってことなんだ』
『あっ……………』
ようやく気付いた。自分たちが、どれほど愚かしいことをしていたのか。
『……お前たちのコンセプトからして、町を守ることも、歌い続けることも、間違いではなく正しきこと。そこんとこは、しっかりわかっておこうな』
しばらくその言葉の意味を噛み締めてから、私たちはお互いを見つめ合った。
『……ごめんね、ルカ姉。私生まれ変わったことに浮かれて、この町の皆のこと考えてなかったのかも』
『私こそごめんね、ミク……もう少し、楽しんで生きてみようかしら?』
思わず笑みがこぼれる。
その様子を見つめていた喬二博士が、突然ポンと手を叩いた。
『いーい事思いついたぜ!! お前ら夢を共有すればいいじゃねえか?』
『えっ!?』
『おお、いい考えだな喬二! 共に『町を守り永久に歌い続ける』って想いを抱いてみるんだよ!!』
『そうすればくだらない喧嘩もしないし、もしかしたらお前らの音にも新たなる扉が開かれるかもしれないだろう?』
新たなる扉って……喬二博士中二病臭い。
……でも、悪くないかも。ミクもそう思ったのか、笑いかけてきた。
『……一緒に、この町で歌い続けよう!』
『……ええ、そして一緒に守っていきましょう!』
『おっしゃ、その意気だぜルカ!!』
『まーた楽しくなりそうだぜ……』
嬉しそうなマスターと、少し気怠そうだけど面白がってそうな喬二博士に、私たちも自然と嬉しくなっていた。
“ああ、思い出したよ、ミク。そんなこともあったよね。”
“あの時約束したじゃない、ルカ姉。一緒に守っていこうって、ずっと歌っていこうって。”
“なんで今まで忘れてたのかしらね?”
“さあ? でも、これではっきりしたよね。私たちはこんなところでやられてる場合じゃないってこと。”
“ええ……!!”
『私達はまだっ……終われないんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!!!』
ミクとルカ。二人の力強い咆哮と共に――――――――――
緑と桃色の光の柱が迸り、天を突き破った!!
「……う……あ!?」
「これ……は……まさか!?」
凄まじいエネルギーの迸りに当てられて、目を覚ましたメイコとカイトがつぶやいた。
『……潜在音波の……覚醒……!!』
そう。その光はカイトの潜在音波が覚醒した時と同じもの。
後にルカによって、『EXTEND』と名付けられることとなる、覚醒の輝きだった。
仔猫と竜とEXTEND!! Ⅹ~激突!! VOCALOID軍団④EXTEND
新たなる音波の覚醒!!
こんにちはTurndogです。
リュウトが抱える複雑な想い。
良心が目覚めたが故に、苦しみが彼を縛った。
その苦しみはミクとルカにひとかけらの意志を生み出させ。
その意志が新たな力への扉を開ける……。
……あれ?自分で書いておきながらなんか感動……(おい
さぁ、ルカさんとミクの潜在音波とは!?
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しるる
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2013/12/07 19:54:36
Turndog~ターンドッグ~
バトルものによくあるタイプの告り方ですねww
バズーカww
一発ドカンといっちゃうZE☆
2013/12/07 20:10:32