私は『特別』。 
 小さいときからそんな自覚があった。
 父親からどんなに殴られても、母にどんなに首を絞められても、私の体には普通あるはずの生傷というものが出来ることはなかった。
 いや、実際は傷自体は出来たのだがすぐに治ったのだ。
 驚くほどのスピードで。
 だから両親の私に対する虐待は誰かにばれることはなかった。
 別に、ばらそうと思えばいつでもばらすことが出来るのだが、私はばらそうとはしなかった。私の体に傷がない時点で嘘だと割り切られてしまうだろうし、親は家の外ではいかにもなカンジの『良い両親』を演じきっている。

 そんな、一種の歪んだ状況で育ってきた私は二十歳になり、一人っきりの生活を始めた。
 こんな自分が人々と共に二十年という長い時間を過ごすことが出来たと思うと心底可笑しかった。
 『普通』の人間に混ざって『特別』な私は生きる。アハハハはっはハッはハはっはハッハアハハッハハh・・・・・・あぁ気が狂いそう。この世界にはあまりにも無駄で『普通』で無能な生き物しか存在しない。私のような『特別』な存在は無いに等しい。いや、もしかしたら私だけなのかもしれない。私を生んだはずの両親でさえも車に轢かれただけで死んでしまった。何て人間はもろいのだろう。私のような『特別』な人間が増えればもう少しマシな世界になるのかもしれない。

なんてね。本当は私以外に『特別』な存在があることを私は恐れている。理由?そんなもの決まっているじゃない!私は『特別』なの。皆が『特別』になってしまったら、私の『特別』が『普通』になってしまうじゃない。そう、これは私だけのモノ。


でもね、出会ってしまったの。私以外の『特別』な存在に。


 その名は、始音カイト。あぁ、今、私の目の前にある青い髪の毛の死体のことね。それにしても、まつげ長いなぁ・・・
 

 ・・・じゃなくて、彼が私と同じ存在と気がついたときの説明が必要ね。
 3年前、私が道を歩いていたときにトラックが突っ込んできて明らかにそれに巻き込まれた私も彼も無傷だった。そのときに私は彼が自分と同じ『特別』な存在だと気がついた。
 以上。説明終わり。

・・・・・・何?じゃあ何で、彼が今死んでいるかって?
まぁまぁ。そんなに焦らなくてもいいじゃない。ゆっくり説明してあげるから。


とりあえず彼と私は私たちのこの『特別』な体についてお互いに話したあった。
私がこの体を『特別』というのに対し、彼は自分の体を『異常』だと言っていたわ。別にそれに対しては何も感じなかったけれど。
そして、私たちという『特別』であり『異常』な存在を他に探したいと言い出した彼にそれを協力するように頼まれた私はその場のノリでそれをOKした。

それから2人で探し続けたけれど、結果は全然ダメ。一人も見つからなかった。
途中で探すのを諦めた私と彼はそれでもなんだかんだと理由をつけて週末にはよく一緒に出かけた。

2年ほど前だったかしら。彼にいつものごとく食事に誘われた私は彼から「付き合って欲しい」といわれた。私はそういう言葉をたくさんの男から言われてきたけどとくに誰とも付き合うことはなかった。それは多分『普通』でもろい人間に私が興味を示さなかったから。でも、そんな人間と彼は違う。だから私は彼と付き合うことにしたの。


そんなかんじで今に至ります。
・・・。
分かりにくかったかしら?
つまり彼は私の思っていた『特別』な存在なんかじゃなく、『普通』の存在だったということ。彼はあの日――私たちが出会った日のように突然、道につっこんできたトラックに轢かれて死んだ。ついさっきね。
早い話、私は彼に騙されていたって言いたいの。
『普通』な彼に騙され続けていた私。可笑しすぎて笑えもしないわ。

ああ、そういえばなんで私の目の前に死体があるのか言ってなかったわね。
私よりも少し早くにトラックの存在に気がついた彼が私を突き飛ばしたの。「メイコ!!危ない!!!」とか叫びながら。
私が死なないことぐらい分かってたくせに。私を助けたって意味がないことは分かってたくせに。

思わず笑いが漏れる。
目の前にある真っ赤な水たまりに沈む彼。だんだん冷たく、そして動かなくなっていくその『普通』な存在。それは私が大嫌いなモノで。


なのに、どうしようもなく溢れでてくるこれは何だろう?


通行人が呼んだのだろう、救急車がサイレンを響かせ目の前に到着する。
いろんな人の声、音。そんなものすべて右耳から左耳に通り抜けるだけで何も私の中には入ってこない。
彼が救急車の中に運び込まれる光景だけが、目の前を他人事のように通り過ぎていく。

「お嬢さん!!大丈夫ですか!?ケガとか・・・」
救急隊員が私のそばに来て顔を覗き込む。
もちろん『異常』の私にはケガ一つ無く・・・


・・・あれ? なんで私は『特別』なはずなのに『異常』って言ったの・・・?
頭が混乱して何も分からない。
とりあえず、「大丈夫です」と呟いて、逃げるように身を翻しその場を去る。
救急隊員が私を引き止める気がしたが無視した。



何も分からない、聞こえない、見えない。
あんなに大嫌いで見下していた『普通』な存在に私はこんなにも依存していた。
『異常』な自分が決してまざることのできないその『普通』ゆえに綺麗で繊細な限りあるものに。


私はただ走った。
息が苦しくなることも足が疲れることも無い。
それは私が彼と違うものであることをあまりにもくっきりと示している。




無我夢中に走って走って。
狭い路地裏に入って、廃ビルの階段を駆け上がり。
たどり着いた場所は、彼と一緒に見た夕日が綺麗な高いビルの上。
そういえば、ここで「もし死ねるなら、最後にこの夕日が見たい」とか2人で言いあったな。


私は錆びた柵を乗り越えて、ビルの端っこギリギリに立った。
私はどうせ死ぬことは出来ない。
なら今ここから飛び降りて、落ちていく自分の中に夕日を残したい。それが私と彼の望んだ最期なら。

今更未練なんてものは無い。
残したい言葉も無い。

私は手を離して、網膜に美しい思い出と夕日を写して、ふわりと、落ちた。









私はこの『異常』な体によって他人とは違う道を歩いてきた。

そして彼が消えた今日、この人生の中で新しい発見をした。

それは、この体は死なない程度の傷を治すことは出来るが、明らかな致命傷は治すことは出来ない。ということ。










彼が沈んだ真っ赤な水たまりに私も沈んでいく。
薄れていく意識の中で私は嗤っていた。

はじめて感じる激痛と自分も『普通』であったという事実がうれしかった。






「ねぇカイト。私たちも『普通』だったんだねぇ・・・これで、やっと私は―――――」






目の前でカイトも嗤っている気がした。











ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【一部】私は――――【赤い汁があるよ←】

久しぶりの投稿が何故か短編←
連載の続きを書こうと思ったんですけど、こっちのほうが早く仕上がりそうだったんで…
そして最近気がついたことが1つ。
私が短編を書くと、ヤンデレとか死ネタとか暗い話になりやすい。
本当は明るい話も書きたいんですけどねww

週末には「彼らの恋の結末は」の続きを投稿する予定です☆

閲覧数:620

投稿日:2011/10/27 21:48:53

文字数:2,854文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • 紅華116@たまに活動。

    まさかの注目の作品入り!!
    ありがとうございます^^

    2012/05/06 17:39:26

  • 絢那@受験ですのであんまいない

    あれ? 目から透明な液が出てる…

    つまりだな、あのKAITOを轢いてしまったトラックが悪いということで! はい! さあ運転手こっちこいしめてやる…!

    紅華のヤンデレは可愛くて好きです(
    その分連載が明るいから!私も病んでるの書きたいなぁ~((

    ブクマもらいますそしてベッドで泣いてきますうわあああああああん!

    2011/10/28 19:39:54

    • 紅華116@たまに活動。

      紅華116@たまに活動。

      チミー>
       透明な液ww大丈夫かチミー、ティッシュ取ってくるね!!ww

       確かに!よし、一緒に運転手をしめに行こうk((((

       私のヤンデレが可愛い…だと!? ありがとー嬉しい^^
       連載までヤンデレにしたら取り返しがつかない気がする←

       ブクマありがと!! しかも泣いてくれるのかwwじゃあ私はそのチミーの優しさに泣いてくるよ、うわあああん!!

      2011/10/28 21:14:57

ブクマつながり

もっと見る

クリップボードにコピーしました