サンディを見送ったシーカーは、ため息を一つつくとその姿を同僚にしか見えぬ物にした。
「・・・ふぅ」
身体の芯に始まり、指先まで重い倦怠感が蝕む。
ヒトと触れ合うのは―――ヒトに認識されるのは、今の彼にとってこんなにも重労働だ。
それでもかつて妹と触れ合った幼い日よりは成長したらしく、一、二週間ほどなら実体化を維持できるようになっていた。
もっとも、疲労するのは相変わらずだが。
本来ならばその命を終え、とうに永い眠りについているはずの魂。
ヒトの間では『あの世』として認識される死後の世界は、罪深い死神達にとって掴めない救いのような物だ。
生を終えた魂を連れて行くのが自分たちの仕事だが、死神がその世界に足を踏み入れる事はない。
例えるなら、それは砂漠で蜃気楼と消えるオアシス。
例えるなら、それは触れると消えてしまう水に浮かぶ月。
例えるなら、それは決して手の届かない鏡に映る花―――
「リーリア・・・」
ぽつり、と押し殺した声で囁かれた名前。その名前は容易に彼の記憶の鍵を開いた。
『―――貴方、死神?』
『私の名前は―――』
『ありがとう、レン』
『きっと貴方も私と同じ、孤独で哀しい存在』
『これで、もう―――』
渦巻く声。
写真が一杯貼られたアルバムを高速でめくるように、彼女との思い出が駆け巡る。
そして。
晴れやかに笑う、彼女の死に顔。
シーカーは記憶を振り払うように目を閉じ、かぶりを振った。
数十年の歳月を経ても尚、生々しく痛みを伴う記憶。彼が心を取り戻してから初めて立ち会った死、罪さえも厭わない最愛の妹の死は―――鎖よりも重く、枷よりも悼みを持ってその心にのしかかっていた。
いっその事忘れてしまえれば、どれだけ楽だろうか。
「忘れられない―――忘れたく、ない」
忘れてしまう事は容易い。
思い出す事を止めればいいのだから。
だが、覚えておく事は難しい。
何度追憶を繰り返しても、いずれ記憶は改変されてしまうだろう。
やがて改変された記憶すらも、櫛の歯が欠けるようにぽろぽろと消えていく。
そしていつかは、完全に忘れてしまう。
ただ「いつだったか、あんな感じの事があったような気がする」という事しか覚えられなくなってしまい―――ある日ふつりと、忘れた事すら忘れてしまう。
いつの日か妹との日々を忘れ、彼女の存在自体を忘れてしまうのではないか。
それが、シーカーに根付く恐怖だった。
「さて、サンディはどこに行ったかな・・・」
黒いフードを被り直し、シーカーは歩き出した。
他人に見えない身体である事をいい事に、堂々とサンディの後を追いかけながら。
【白黒P】捜し屋と僕の三週間・11
はい、検査入院から無事に帰りました零奈です。
今回の「捜し屋と僕の三週間」、今回はシーカーの独白になります。
シーカー=レンというのは皆様当にわかっていたかもしれませんが。
サンディのはじめてのお使いに、シーカーがこっそり後ろからついていく構図・・・和めるの、かな?
追記:
番号を訂正しました!
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